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第15話:秘密を作った影での嫌な予感


 ひとしきり泣いていたが、落ち着いてきたのかぎゅっとカトリナに抱きしめられる。落ち着いていく心にホッとしていた瞬間、すぐに引き剥がされた。



「もう無理。これ以上は無理だよ!!」



 そう言ってべりっと引き剥がしたのはルーカス。

 少し不機嫌な顔になりつつも、男の子の気持ちを理解しているからか複雑だ。今もカトリナの手を握り、離す気配が全く感じられない。



「カトリナは私の婚約者。妃になる人で、私の妻になるの。もうダメ。これ以上は許せないの」

「大人げないですよ、ルーカス様」

「心狭いんですね……」

「そこっ!! 小さい声で言ってても、私には聞こえるんだからね」

「「さすが、子犬王子」」

(子犬……王子……)



 その言葉を聞いた男の子は、じっと何かを考え込んでいる。

 カトリナがどうしたのかと聞くと、またじっと見られる。ルーカスと交互に見たあとで彼だけを呼んでは2人で、話し込んでいる。



「……なにを話してるんだろう」

「気になりますか」 

「うん。だって――」



 カトリナがほらと小さく言い、ファールも一緒にその様子を見る。

 あの男の子とルーカスがとても楽し気に話している。しかも、尻尾と耳が物凄く楽し気に振っている。まるでご褒美を貰っているような感じに「ねっ、気になるよね?」と聞く。



「あれ……。急にしょんぼりしましたよ、お嬢様」



 アリータが小声で知らせ、2人が見ると今まで楽し気に話していたのに、落ち込んだようにしゃがみ込んだルーカスの姿が見えた。しかし、それも男の子が何か耳打ちしていると途端に耳が大きく揺れた。



「あ、テンション上がった。……何を言ったんでしょうね」



 その後も、嬉しそうに頷くルーカス。

 話の内容は気にはしたのだが、無理に聞くつもりはない。カトリナがそう言えば、ファールとアリータがそれに従う。

 

 そこでカトリナが「あっ」と思い出したように、手を叩く。



「アリータ。屋敷に戻ったら、歓迎会して良い? 家族が増えるんだもの。ちゃんとお祝いしないと」

「お嬢様っ……!!!」



 感極まったアリータは、喜びを噛みしめる。

 本当なら幼いカトリナの傍には居たが、決して姿を現さずを徹底的に影の護衛をしてきた。それもこれも、カトリナの父親であるカラムからの命によるもの。


 完全に娘の安全が確立するまでは、手札を完全には見せない。

 一見、娘を溺愛し雰囲気が変わったように思われているがそれは表情に出さないだけ。あらゆる可能性を含めて備えをしてきた。


 それら全てが報われたような感じに、アリータはポロポロと涙を零す。



「俺、一生お嬢様に仕えます。こんな幸せ味わえると思わなかったので!!! 何が何でもついて行きます」

「そんな大げさな……」

「しょうがないですよ、お嬢様。彼、今までの事も含めて嬉しいのですから」

「そう? 戻ったらお父様に伝えるね。楽しみにしてて」

「はい♪」



 カトリナ以外は、全員知っているので顔見知り所ではない。

 だが、こんなに楽し気にしている雰囲気を壊すのも違う。ファールは密かに思いながら、膝を折り嬉し涙を零し続けるアリータの頭をポンと叩く。



「今まで影で守ってた甲斐があったな」

「……そうだな。ホント、スラムに居た時には想像しなかったぜ。俺の宝だよ、お嬢様は」



 アリータの両親は既に流行り病で亡くなり、生きていくのに精一杯。こんな惨めな生活をこれからも続けるのかと、思った矢先に拾われた。



『これからを生き抜くのなら、少し位は学んでみるか? 自分にとって宝物がどんな存在になるのか、確かめてからでも遅くはないだろ』



 ちょうどその頃に、ファールを拾い育てていたエドはアリータにそう提案した。

 全てを憎み、貴族を嫌い盗みをして生きてきた。同じ歳のファールに取り押さえられ、身なりの良い服を着ていたから油断していた。


 何も出来ないと思っていたのに、彼は意外にも歯向かっただけでなく捕らえた。

 警備隊にでも突き出されるのだと思ったが、連れて行かれたのはレゼント家の屋敷。そして、エドから「働く気はないか」と質問された。



 最初は何を言っているんだと思い睨んだ。

 だが、ファールもスラムで育ちこうした身なりの良い服を着ているのは囮の為だと聞いた。自分のような盗人から護るために。



『素早い上に、反射神経も良いとファールから聞いている。この機に盗人なんて止めて、誰かの役に立つ仕事をしてみないか?』



 当時9歳のアリータにはよく分からなかった。

 何故、自分なんかを雇うのか。

 疑問だらけだったが、生きていくのにはしょうがない。その日の食事にも困窮していたアリータにとっては、野宿しないだけマシ。


 最初は適当に合わせ、お金が貯まったら出ていく気でいた。

 だが意外にもエドの指導は厳しかった上に、ファールからも何かと注意を受けた。

 

 言葉使いや礼儀。読み書きも教わり、ヘトヘトになっている時にカトリナを見ていた。

 当たり前に喜び、遊び回るカトリナに追いかけるファール。そんな楽し気な笑い声に、自然と耳を傾けていた。


 最初は物珍しさから観察していた。

 そうしながら、常に周りの気配に気を配っていた。表情が変わるカトリナを見て、傍に仕えるファールが羨ましく映る。何だか無性に腹が立ってきた。


 自分だって護っているというのに、この差はなんだ。

 そんな時に見付けた不審人物。それが当時、カトリナに会おうとして密かに隠れていたルーカスだったとは誰が思ったのか。


 殆ど反射で、ルーカスの事を気絶させていた。

 ファールからは顔をよく覚えておくように言われ、その後はカラムの指示に従い丁寧に包装して王子のお世話係に渡してきた。これが何年も続くだなんて、この当時は予想もしていなかった。



「……あの犬王子には感謝だな」

「何か言ったか? アリータ」

「いや。何にも言ってない」



 そんな呟きに反応をしたファールに否定する。

 今、彼の中で離れるという選択肢は存在していない。彼にとっての宝物は既に存在し、護るべき者として一生を捧げると決めたのだ。



「ねぇ、アリータ。好きな食べ物はある?」

「そうですね。……お嬢様の好きな物で平気ですよ」

「え。それだと歓迎会の意味がないよ。遠慮しないで言って。家族に遠慮は必要ないんだから我慢しないで」

「と、言ってもですねぇ」



 全てカトリナに影響され、それらが好きなアリータにとっては言葉に迷う。

 さてどうしようかと言葉に迷っていると「カトリナ!!」、と元気よく答えて来た声に割り込まれた。

 



「犬王子。俺の褒美なんですけど?」

「好きな物でしょ? さっさと答えないから、代わりに答えたんだけど」

「ルーカス様の好きな物を答えるものではないです。我慢して下さい」

「ファールが厳しい……」

「いつも通りの対応でしょ」



 しれっと答えるアリータに、ルーカスはショックを受ける。

 その後は、首都を見て回ったりのんびりと観光をした。


 案内人は地元の子供達。交流を深めていく中、突然変異の原因を調べる為にリファルの指示に従ったディルとリンドは大変だったそうだ。


 思わずカトリナが「何か手伝える事、ある?」と言ってしまう程に。

 なんせ別荘に戻った時、まるで屍のようにぶっ倒れている。駆け寄って聞けば、ディルが「……手。手……」と死にかけた様に呟く。



「は、はい。ギュってすれば平気ですか」

「あぁ……。あったかくて、優しい力が流れて来る……」

「きゃああっ!! ディル、ダメです。寝てるのか気絶しているのか分からないです。こ、このまま、死んじゃうような雰囲気は止めて下さい~」

「お嬢様、お嬢様。大丈夫です。全員、気絶しているだけですから」



 軽くパニックを起こしているカトリナに、ファールは大丈夫だと告げる。その間、アリータはリンド達を運んだりと様々な用意をしていた。



「すみません、カトリナ。ご迷惑をお掛けして」

「ううん。もう……平気なの?」

「はい。仮眠したようにスッキリしています。不思議と力が湧いてきますし、この後の警備にも集中できます」

「良かった。……そう言えば、リンドの部隊はこのまま滞在するの?」

「帰るつもりでしたが、師団長からの膨大な指示に疲れ果てました。ラングに滞在する期間の延長の有無を報告します。どちらにしろディルは離れる気がないので、見張らないと――」

「カトリナ様、カトリナ様。月が綺麗なんで一緒に観ましょうよ♪」

「え、あっ……。待って、リンドが何か」



 言おうとしている。

 そう伝えようとするも、さっと抱えられて外へと連れ出されてしまった。あまりにも流れるように連れて行かれるので、理解するまでに時間がかかった。



「はぁ。……ラングには怒られるだろうから、カトリナには非がないないって報告しないと。彼女はあくまで、これをプライベートだって思ってるだろうし」



 当初、3日間の予定での滞在だったが1週間へと伸びる結果になった。

 戻ったら盛大な雷が落ちるだろうなと予想がついていた。リファル師団長は、指示を出しまくった挙句に結果が満足していたのか「じゃ、王都に戻るね」と彼はそのまま帰って行った。


 その際に、滞在期間が延びるかも知れないとラングに伝えるように頼んで正解だった。

 早速、詳しい詳細を手紙に書き残りの日数は滞在しながら花を植えたりとそれなりに楽しい日々を過ごした。



「んんっ……!!」



 そんな時、ルーカスは寒気を感じた。

 驚きすぎて思わず後ろを振り向いた。そして訳が分からないのに、勝手に体が震えたのだ。



「ルーカス様。どうしましたか」

「ううん。何でもない♪」



 この寒気は気のせいだ。今はカトリナと過ごす楽しい時間を優先しよう。

 その間、ラングの機嫌は悪くなる一方だとは気付かずに……。




「あのバカ犬。戻って来たら覚えておけよ……」




 次回、子犬王子は大変な目にあいます。

 ラングを怒らせたので、当然の結果です♪

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