表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/17

第14話:気持ちは真っすぐに


 リファルの説明により、自分の力を再確認したカトリナ。

 相手の体に触れたり、お菓子を作った時にも魔力が移動しているとは思わなかった。しかも変な奪い合いまで生まれている。


 そうとは知らず、また作って欲しいと言われれば嬉しい。ルーカスに「また欲しい。……作って?」と上目遣いをされたのならば、カトリナは無言で頷く。

 顔を真っ赤にしながらも、首が取れてしまうのではと思う程に振り続けた事もある。


 ファールがルーカスに注意をするのも「お嬢様を喜ばせる戦法は取らないで下さい」と言えばルーカスは決まって「戦法じゃなくてお願いだよ。変な言い方しないで!?」と、軽い言い争いが起こる事もしばしば。


 役に立とうとして、言われるままお菓子を作って来たが……。

 それ等を抜きにしても、周りは助かっているらしい。これからも変わらずに続けて欲しいのだと、師団長にも頼まれれば……彼女に断る理由もない。



「つ、次はもっと多く作ります。奪い合いなんてダメです。ダメ……絶対に」

「そんなに深刻にならなくても良いからね? そうなる前に実力行使で、止めて来てるし」

「いや、それ悪化してますって。……お嬢様を使って遊ばないで下さいよ」



 アリータもファールと同じような止め方をしている。その反応に、カトリナは小さく笑っているとリファルはアリータを呼んだ。「そうだ子犬君」と、不思議な呼び方で。



「……俺、子犬じゃないです」

「いやいや。彼女に褒められたいって顔に書いてあるし……。今まで傍に居られなかったから、テンション上がってるでしょ?」

「っ、そんなことは……!?」



 顔を引きつらせ、何でとばかりに睨む。

 静かな睨み合いも、リファルには通用しない。そして、ファールから言われていた事を思い出す。


『リファル様に隙を見せるな』


 何故だが、再生されていく。嫌な汗が流れているのが、分かりアリータはマズいと思った。



「彼女の魔力を貰ったからなのか、君も魔法を扱えるよね。しかも、無意識でやっているからコントロールしないと」



 ふふっと楽し気に言い、迫ればアリータは数歩下がる。

 自分の本能が告げている。ここから逃げろ、と。しかし、ここでカトリナを置いていく訳にはいかない。

 それ等も含めて、リファルはニヤリと悪い顔をした。



「もう1人の執事君と同様に、君も鍛え上げるよ。……気配の遮断と認識をずらす魔法だなんて、面白ものを使ってるじゃないか。カラム様も同じような事しているし。ふふ、早く王都に戻って実験したいなぁ。ねぇ、これから一緒に帰らない?」

(こえーー。笑顔で怖いこと言ってるんだけど!? ってか、俺もファールと同じく痛い目をみるのか!!)




 無言で拒否を示し、カトリナの傍に控える。

 その目は、帰らないという決意が見て取れリファルは溜め息を吐く。




「しょうがない。今回は諦めるけど、王城に来たら師団の訓練場に来てね? まぁ、仕える主は必ず行くんだから諦めて良いんだけど」

(そう、だった……!!!)



 驚いたり、泣きそうになったりと表情の変化が忙しいアリータに、カトリナは心配そうに見上げた。凄く申し訳なくて思わず「ご、ごめん……ね」と謝る。目を見開き、否定をするように早口に答えていく。



「か、勘違いしないで下さいお嬢様。俺は元からこんな顔です!!!」



 とんでもない事を言った感があり、笑いを堪えるリファルを視界の端に見えた。それを軽く睨みつつ、アリータは続けた。



「これから誠心誠意、お嬢様に仕える所存。ファールが一番だと思われているようですが、俺だって負けていません」

「そうだねぇ。彼、表情に出さないだけで過激な事をするし」

「それはリファル様がワザとそうなるように、仕掛けただけでは?」

「あ、バレた? だって、彼が私を見る目が面白くって。絶対に負かすって顔に書いていてあるし、攻撃魔法も防御も上達が早いんだよ。……そんなに目の敵にされるような事、したのかな」



 少し考えてみるも、幾つもあるからか「んー、逆に分からないな」とボソッと言う。その光景を知っていたアリータとしては「アンタの所為だ」と言ってやりたい気分だった。



======



「カトリナ。こっちこっち!!」



 翌日、ルーカスはカトリナを連れて首都リベルタへとやって来た。

 ワクワクしたように、彼女を連れて来たのには理由があった。カトリナはすぐに気付いたのか「あっ」と驚いたように声をあげた。



「お姉さん!!!」



 そう言ってカトリナに抱き着いて来たのは、王都の外れで迷子になっていた男の子だった。しかも、あの時と違い今日は凄く綺麗な服装をしていた。

 着こなされていた事から見て、彼も貴族の人間だと分かる。



「ルーカス王子、あの時は……本当にありがとうございました」

「気にしないで。カトリナがこの子を見付けてくれたのがきっかけなんだ。お礼ならレゼント家の当主に伝えて」

「はい。あとでお礼の手紙をしたためます」



 最初に気付いたのはファールだった。

 彼はあの屋敷で、カトリナと行動をしていた時に自分達以外の気配を感じていた。しかし、あの時は子供の泣き声が気になっていた。その屋敷には既にアリータが居たのも密かに連絡を取っていた為に、気配からして彼でないのは明らか。


 すぐに別に侵入者が居ると気付いた時点で、ファールはカトリナと見付けた男の子を護衛していた。そこに割り込んできたのは、たまたま自分達の様子が気になって追いかけて来たディル。彼もそこである事に気付いていた。



『このボタンの飾りは、見た事あったんだ。何でリベルタの貴族が、王都に流れて来たのか気になるんだよね』



 リベルタの貴族は、観光地として名を上げていた上に貴族の者だと言う証として花が描かれたボタンや紋章を掲げていた。お守り代わりとして、自分の家名の証明にもなる為に不思議に思ったディルが疑問を口にした。


 同時に、レゼント家でもある程度の事は掴んでいた。

 その領主を任されている人間が、カラムと因縁が多少はあったこと。

 その妬みが娘のカトリナへと注がれていないかと、ずっと警戒をしていた。


 ラングがルーカスと情報をすり合わせている内にファールが混ざった事で、確信へと変わった。ハロウィンでカトリナが保護をした彼が、切り捨てられた貴族の人間だったのではないかとすぐに捜索が開始された。



「だから、こい……お兄さんが、僕達を見付けて保護したんだ。またここに戻って来られて嬉しい。ありがとう」

「そんな事が……。ごめんなさいね、何も知らなくて」

「ううん。お姉さん、僕の怪我を治してくれたでしょ? それに不安にさせないように、いっぱい話してくれた。すっごく嬉しかったよ!!」



 ぎゅうぎゅうに、抱きしめられカトリナは驚きつつも抱きしめ返す。

 たまにルーカスの事を「子犬」と言いかけて、慌てて言い直したりする場面があり両親はハラハラしたまま見守った。


 彼の父親が、リベルタの後任の領主として任されるようになり王都から定期的に研究機関の者達を派遣する手はずになった。

 今後、異常を感知した花や違法性のあるものを見付けた場合に、すぐに処理が出来るようにする為だ。今後の動きをルーカスと打ち合わせている間、カトリナにはずっと男の子が話し相手として傍にいた。



「あの……」

「どうしたの?」

「今回の事、止められなくて……ごめんなさい。リベルタを嫌いにならないで欲しいんだ。花に罪はないし、ちゃんと調べれば悪いことなんて、使われないで済んだかも知れないのに。そしたら、怪我だってしないで……済んだかも、知れないしっ」



 悔し気に言ったのは、その香水の所為でカトリナに危害を加えられたのを伝えられたからだろう。

 いくら追い出されたとはいえ、秘密を知っている者達を見逃すほど甘くはない。恐らく、彼等も命懸けで王都に逃げて来たのだ。


 彼女達を見付けた警備隊の者達からの報告により、手厚い保護がされたのもリベルタでの見えない現状を把握していたお陰だ。それらの情報のやり取りをしていたのも、宰相と警備隊長、騎士団をまとめる将軍とで連絡を取り合っていた。


 何かから逃げて来た様子の彼等に、異常を感じ取れたのも日頃の連携があったから。そんな中で聞かされたのは、違法な香水を使っての犯罪の数々と王子の婚約者が被害を受けた事。震える体で、彼はカトリナに必死で謝り続けた。



「ごめん、なさいっ。もっと、早く……止めれたら……。僕に、力がないからっ」

「大丈夫だよ。私もルーカス様に助けられたもの」



 自分と同じ目線になる為に、カトリナは膝を折りドレスが汚れるのも構わずに彼を優しく抱きしめた。その優しさに、彼の涙腺は崩壊しずっと泣き続けた。



 この時、10歳の彼に出来る事は少ない。

 だからこそこの時に決めたのだ。自分の育った場所で、大好きな花が犯罪に使われてしまったショック。大人になって力を身に付けたのなら、この場所を守りたい。


 こうして守ってくれた人達のように。何でもないように言う王子に感謝し、優しくしてくれる王子の婚約者の為にも。

 だって2人は言ってくれたのだ。


 この土地の花が好きなのだから――と。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 少年の純粋な心と、カトリナさまの優しさの、 交流が、温かくて良いですね。 [一言] せっかく念願かなって、お嬢様の隣に出られたのに、 リファルさんに目を付けられたアリータ君が、 不憫でなら…
2020/12/22 07:36 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ