第13話:不調の原因
「嫌だ~~!!! もう帰るとか聞いてない」
「前から言ってるし、計画立ててんだからワガママ言うな」
ディルは必死でしがみついているのは、部屋の扉。それを無理に引きずろうとしているリンドはイライラしたように、細かく説明をしていた。
ルーカスはカトリナとのデートで来ているが、自分達は仕事として来ている。
元凶を突き止めた今頃は、カラムが事情を聞いている頃だろう。自分達の仕事は、ルーカスとカトリナの護衛であり自分達を抜いてもファール達がいる。
余計に人が溢れるのは良くないからだと言うが、ディルはここに1日は泊まれるのだと勝手に思っていた。
「せめてカトリナ様に、別れの挨拶を――」
「ルーカスの邪魔をするの? あとで怒られるよ」
「だとしても、カトリナ様のナデナデが欲しいんだ!!!」
2人の攻防を聞いたカトリナは、ソファーから起き上がろうとするもルーカスに阻まれる。
目が「そんなのやらなくていい」と訴えているのが分かる。
「で、でも……」
「カトリナは、私の願いよりもディルを優先するの?」
「うっ……」
「うわっ、その言い方がずるい!!! 王子、ズルすぎる。一人占めは良くないよ」
「独り占めするに決まってるじゃん。私の婚約者なんだから」
えっへんと胸を張り、尻尾を揺らしながら言われても説得力はない。
呆れる2人をほっとき、ルーカスはぎゅっと力一杯に抱きしめる。「ワン!!」と言えば、カトリナはますます困った顔になる。
「さっきリファル師団長から連絡来てるんだって。戻らない分、仕事がたまるぞ。……良いのか」
「わああああっ。あの人、仕事を振る時だけは怖いんだよ!!!」
その後、ディルを労わる様に「頑張って」とカトリナは伝える。泣きながらに手を握られ、離す気配がない。そのまま連れて行こうとして、ルーカスとリンドに阻まれた上に抑え込まれる。
「リファル師団長が、来てますがどうします?」
「ひぇ!! もう居るの」
「どうも。ディル、役に立ってる?」
アリータは最初に伝えるだけにしたのだが、その後を普通について来たリファルは部屋に入る。彼の視線がカトリナを捉えた。それを察したルーカスは、警戒するようにカトリナを抱きしめ睨む。
しかし、相手はそれに構う事無く笑顔を向けていた。
「……何で普通に付いて来たんです」
「待ってても、ディルが逃げるのかな~って。ほら、彼って彼女と居る方が楽しいって顔に書いてあるし」
「……ディル様、一体何したんですか」
アリータは思わず聞いた。
彼はカトリナの周りを密かに見守っていたので、ルーカスだけでなく周りの人物達に付いても多少は調べていた。
ここ最近、カトリナの事を急に気に入ったように何かと付いてくる。
まるで小型犬を相手にしているような感じだった為に、彼が何をしたのかと思わず目を向けてしまった。
「なんにもしてないからね。師団長は加減を知らないだけなの。この間だって、大量の資料と報告書をまとめてきて『これ明日ね』って言うんだよ!!! 癒しがなきゃやってられないんだよ、分かる!?」
「まぁ、それは分かりますが」
思わず同意した。
というのも、彼はカトリナの前に姿を現す機会をことごとく失っていた。元から潜入をメインに情報を集めているからと、初めは自分の仕事に専念していた。
だが、それがファールとカトリナの父親であるカラムによって、阻まれていたのだと分かりショックを受けた。
そんな時には、癒しであるお嬢様を見るに限る。
この時ばかりは、ディルの言い分も分かり頷いていた。
「だよね。分かってくれるって思ってたよ!!! なんだか、初めて会った気がしないし」
(それは同類……。いや、何も言わずにそっとしよう)
敢えて口には出さないが、リンドは思った。しかし、リファルも同じような事を思っていたので触れない。
ディルは、納得しつつもちゃっかりカトリナの手を握って、自身の魔力を回復させていた。
その行動を見つつ、リファルは改めてカトリナに話があるのだと言うがルーカスとディルが拒否を示した。
彼から距離を取る様に、2人は下がり戸惑いうカトリナ。思わずリファルは軽く舌打ちをした。
「……君達、いい加減にしなよ。彼女に教えない気?」
「もう王城に来てくれない……かも知れない」
「癒しの補給が無くなる」
呆れた言い訳にリファルとリンドが溜め息を吐く。アリータも状況はよく分からず、手が出せないでいる。らちが明かないと感じたリンドは、2人に対して強めに言う。
「2人共、我慢。待て、だよ」
「「うっ……」」
その隙にとばかりに、リファルはさっとカトリナの手を握った。声は出さずとも、ルーカスとディルの2人は魔法で犬の尻尾と、耳を作り出し無言で手を振りだした。
大きく手を振ったり、耳をピクピクと動かしたりと意地でも話をさせない態度。ぎこちながらも手を振るカトリナに、リファルはさらっと言い放つ。
「後ろがうるさいから、場所を変えよう」
連れ出されたカトリナを追おうとするも、行動を読んでいたリンドに抑えられる。すぐに2人は不満を爆発させた。
「カトリナから引き離された。酷い」
「手を振っただけじゃん。何がいけないのさ」
「その行動がいけないんだよ。みっともない」
「「黙ってたのに!?」」
余程ショックを受けたのか、2人はやる気を失くしたようにペタンと倒れた。
それもこれも、カトリナの気を引くためにやったのだが場所を変えられては追えない。隙を見て行こうにも、縄で動けなくされた。
「……権力の横暴だ」
「そうだ、そうだ」
「ルーカスは王子でしょ? 一番、権力っていう大きな力を持ってるのに」
「カトリナの犬になる私には関係ない」
「何でそうなる」
その後も延々と説教が、続き戻ってきたファールは何があったのかと状況の把握に手間取った。ただ、前よりも子犬感が増したかなと思いつつ休憩の準備を始めた。
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「魔力の……放出、ですか」
「そう。簡単に言えば、外に放出する量が少ないのが不調の原因。でも、影響はちゃんとあるよ。彼みたいにね」
「へ……。お、俺ですか?」
ギクリと肩を震わしたアリータは思わずカトリナを見る。
場所を移動しながら、カトリナはアリータと話した。
実は幼い頃から、ファールと共に護衛としていたこと。姿を見せなかったのは、父親からの命に従ったから。
カトリナの事を階段で突き落とした人物も、ユリー・セーガルの事を詳しく調べたのも彼の功績。ファールが、違法の香水が作られている工場を見つけ出したのもアリータのお陰だ。
そして、リファルはルーカスが後をつけていないのを確認すると本題を切り出した。
カトリナの魔法を扱う時に、体力も消費しなければいけないのか。
彼女の父親は、師団に所属しただけでなく基礎を作り出したとして有名。だからこそ、彼が保有する魔力も多く娘に遺伝するのは当たり前だ。
保有している量が多くても、外へと放出するのが少ないのであれば余った魔力は自然と溜まる。あまりに溜まり過ぎると、魔法を使っても簡単には減らない。魔力以外で補填するのであれば、本人の体力を奪う形へと変わっていく。
「魔法を使う度に体力を削られるんじゃなくて、余った力も含めてかなりの量を放出しないのが不調の原因。本来なら魔法を扱える時点で、それ等のコントロールは出来る筈だけど……。何処かの誰かさんが、貴方にベタベタしてたし、ね」
「えっと……」
それは誰の事を言っているのか。
アリータに聞いてみると「犬王子でしょ」と、スパッと言い切った。
「多分ですけど、お嬢様にべったりして頭撫でてたりしてたのはその分の魔力を貰ってた……とか、そんな感じじゃないですか」
「正解。ディルにも手を握られてたり、頭を撫でて欲しいとか言ってたのも、魔力を貰う為。魔法を使う者なら、触れるだけで回復するのは分かったしね」
「……知らなかった」
今まで治癒は怪我をした時だけに使っていた。
とはいえ、使えば体力も削られるからと自然と使うのを躊躇させた。そう思うと、ルーカスに褒めてと言われて撫でている時が、心が落ち着いている。
(あ、だから呼ばれる回数が多いんだ)
そう納得すれば、ルーカスの行動にも説明がつく。
仕事中にも関わらず、ラングはカトリナが来ても問題ないと言っていた。
手を握ったり、頭を撫でるとルーカスは元気になる。
それを今までは、気持ちの面だけだと思っていたが意外な回復に驚きだ。
「今は私の指導の下でコントロールも出来ているし、お菓子を作って師団だけじゃなくて騎士団にも届けてるでしょ? 貰ったお菓子にも、魔力と体力の回復が見込めるから取り合いが凄くて」
「そ、そうなのですか!?」
ファールがよくリンドにお菓子を上げていた場面を見る。確かに作って持って行った事はある。
まさか作った影響でそんな事になっているとは思わず、カトリナはフラフラとなりながらペタンと座った。
「お嬢様!?」
「だ、大丈夫……。そんな大事になっていたなんて。もう持って行かない方が良いのかも」
「それは止めた方が良いかな。回復には繋がるけど、それだけじゃなくて美味しいものを食べて、癒されたいのは普通でしょ?」
ウィンクしながら言うので、彼も気に入ってる証拠なのだ。
それが分かると、ますます恥ずかしくなる。そんな顔を見せたくないからと、アリータを盾にすれば微笑まれてしまった。




