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悪天軌  作者: milkマン
3/4

契約と翼のアウトロー 前編

おまたせしましたやっと二話です


誰も待ってないのなら私は誰も待たせてません。

実質ゼロ秒間隔の第二話です


 汗が滲むほど強く差し込み出す日差しも、ジェクトはそれほど鬱陶しくは感じなかった。

ガヤガヤと活気を表す村は見ているだけで楽しいし、何よりこれから懐に入るはずの札の束が彼を浮かれさせた。ポケットに手をズボラに入れたまま陽気なエリアを眺め歩いて、しばらくすると古いタイプの電話ボックスを見つけジェクトはそこへ入った。

右ポケットからコインを一枚出し投入して受話器に耳を当てながら番号を押す。

三度ほどコールした後、依頼人である相手の声が聞こえた。


「あ、もしも~し。 どもッス! ジェクトっす、この間はども! それで報酬の件なんですが…」


『——』


「え、はい。 いや~それは……ハハッ……。いやあの時はですねぇ」


箱の中にいるジェクトの表情はゆっくりと曇っていき、上がりきっていた両の口角は下降しきっていた。


「あー……はい、それで手を打ちます。またご贔屓に……」


力なく戻した受話器がキィンと鳴る。

肩をがっくり落としたまま箱から出たジェクトは、先ほどまで陽気だったエリアが嘘のようにボヤついて見えていた。


「はー……どうっすかな~」


ジェクトの足取りは重く、頭を掻きながら取り合えず仲間のまつ所まで戻る事にした。

言い訳を考えながら――


 彼はジェクト・ヴランディ。種は人間、身長は百八十cmほど特にこだわりのない彼の髪形は、長くはない程度でボサっとしており赤黒い色をしている。真っ黒なライダージャケットを着こなしており、このエリアでは少し目立ちめに浮いているようだった。


この場所は村じゃあない。大きな巨大サボテンの上に作られている、さらに巨大な砂漠を行き来するための休憩所(サービスエリア)みたいなもんだ。

ここに住み着いてる物好きもいるが、その大半は移動手段をなくしちまってここから動けなかったり、そんな奴らからむしり取ってやろうって連中かな。

どっちかっていうと俺は後者だ。おっと、アコギな話じゃねぇぜ? 俺たちは運び屋兼万屋(よろずや)みてぇな仕事やっててな、まぁ依頼の内容の殆どはこれまた後者なんだが飼い猫を探して欲しいとか代わりにケンカの相手してほしいとか様々で、でも報酬はキッチリ頂くぜ。まぁご存じの通り、さっきのは期待を下回る報酬額だったんだが。それでもこの辺ぶらぶらしてりゃ、その内次の依頼が入ってくるだろうよ。


「ん? そこのお前さん運び屋かい?」


ほらな。


「毎度! 人でも猫でも荷物でも何でも運びますよ!」




 そんなジェクトが交渉しているのは巨大仙人掌(ジャイアントカクタス)と呼ばれる巨大サボテンの下から数えて一本目の枝。その三本ある内の二本目の巨大枝ではまた別の人物が頭を悩ませていた。


 「待機……待機だと!? 一体俺たちはいつまでじっとしていろと言うんだ!」


その少年、人の姿をしていながら背に翼を宿していた。


「おい落ち着けって、あまり目立たないようにしろって言ってたのオメェじゃねぇか」


「まったくダナ、《シン》はもう少し落ち着くべきダ」


少年を(なだ)めるのは長身の鳥の頭を持った男とゴリラのような有翼人たちだった。


「ハンス! ブルーズ! 何故お前たちはジッとしていられるんだ! 悪魔の目撃情報が入って俺たちが送られてきてからもうまる一日も経つんだぞ。結局他のメンバーも本拠地に逆戻りだ」


「オレたちだけここで待機ってのが引っかかるよな。情報が不確定ってのはわかるし、デマだったんなら尚更残る理由なんざねぇ」


「察するに、ウエがごたついていて対処できない事が起こってるんダナ」


「ここで命令がこないのも、全ては俺たちの自己判断で自己責任。そうゆう状況を作らされている」


「好き勝手にゃあ動けねぇなぁ」


シンと呼ばれている少年は腕を組んだまま空中を睨んだ。


「俺は動くぞ」


「おい待てって、早まんじゃねぇ」


「確かに一般人を守るのが最優先ダガ、軍に立てつくような真似はしないほうがイイ」


「別にここから移動しなければ良いのだろう?」


ハンスとブルーズは顔を見合わせた。


「悪魔も基本は人間だ。情報位置から考えれば必ずこのサービスサボテンに寄るはずだ。向こうから寄ってきたモノを仕留める分には、なにも問題はないだろう?」


「まぁ、筋は通ってんだろうけどよぉ」


「それを含めて、ここに置かれているようにオモウ」


「安心しろ、お前らの分も俺が背負ってやる。ただし気を抜くな、少しでも怪しいやつを見かけたら目を離すなよ」


シンは気迫が目に見えそうなほど静かに感情を荒立てるが、遠くからそれを吹き飛ばすように呑気な声が聞こえてきた。


「おっちゃーん!! 何これ! サボテン串? 美味そうじゃん! ハロにも買ってってやろ!

あとさ!この辺で和食の出せる店ない? わかる? O NI GI RI !」


「なんだアイツは騒がしい」


「観光客ダロウ、サボテンのエリアは初めてのようだ」


「ハデな髪色してんなぁ、メロンみてぇ」


「士気が削がれる」


「まぁいいんじゃねぇの、ここまでは全部ただの推測だしよぉ。オレ達も半分は観光気分で命令が来るまでゆっくりしてりゃあいいじゃねぇか」


「全くだ、気ヲつめすぎるのもよくナイ」


「……そうだな、俺も旅の疲れが出ているかも知れない。少しだけ羽を落ち着かせてくるか」


「おう、また後でな」


「あとでウマいモノでももってイく」


「助かる」


シンはそれだけ言い残し二人を置いて宿に向かって羽ばたいて言った。


 時を同じくして、場所はまた一つ目の枝に戻る。

ふと何気なく空を見上げていたジェクトは、背中の羽を広げ最上階の枝に飛んでいく有翼人を目にした。


「ひぇー、便利だねぇ飛行種族ってのは。エスカルペーターなくてもサボテン移動できるもんなー」


眉の上に手の平を広げながらボケーっと眺めているとふと声をかけられた。


「お~いジェクトーっ!」


聴きなじみのある野太い声で呼ばれたジェクトは声の主に向けて手をひらひらと振る。

「よぉドーパン待たせたな」


ジェクトの前に立つのは身長三メートルを超えるほどの大男で、まあるいシルエットで作られてて、頭を深々と帽子を被せて隠している。


「報酬の件どうだったー?」


「ドーパン……良いニュースと悪いニュース。どっちから聞きたい?」


{ちょっと聞きなさいよ! まぁた、依頼中にジェクトが壊した分しょっ引かれて、たっっっくさん貰えるはずだったお金もほんっの一握りしかなくなっちゃったのよ! 酷いと思いなさい!}


「お前は黙ってる」


ジェクトは左胸の内ポケットがある場所を優しく抑える。

{ムグゥッ!}


「はは、ジェクトの顔から見てそんな気はしてたよぉ。それで、いいニュースのほうは?」


{聞いて喜びなさいっ! 次の仕事が見つかったわ! 何でも旅の行商人のおじさんらしくて移動手段が突然無くなって困ってたらしいの! 報酬は少ないけど代わりに商品をすっごく安く売ってくれるって!! ムグゥッ!}

ジェクトは自身の左ポケットを抑えながらドーパンの方の胸ポケットを抑えこんだ。


「ああ! 人が喋る前にペラペラと!」


「それで、その依頼人のおじさんは?」


「ああ、すぐにでも出発したいらしくて準備が出来次第下のフォールに来てくれってさ」


「それじゃあ直ぐにお腹一杯にしなきゃね!」

ドーパンはデッカイ腹を擦りながらそこから音を鳴らした。


「楽器かオメェは」


「おいしそうな匂いのする店見つけたんだぁ、移動までには間に合うでしょう」


「ああ、夕方までなら大丈夫だ。だからってドカ食いすんなよ? 印象は良くしていきたいからな」


「それって僕たちの面じゃ無理じゃない?」

ドーパンの一言はたまにジェクトの心に刺さることがある。イメージ的にはドーパンがデッカイフォークで刺してくるようだ。


そうこうしているうちに件の飯屋が見えてきた頃。

二つ目の枝ではちょっとした騒ぎに賑わっていた。


 「——ってわけなんですよ。よろしくお願いします」


「ワカッタ、見つけ次第拘束すル」


「ったく、面倒な事んなったなぁ?」


「どうすル? シンに伝えるか」


「いんヤ、あんヤロウ寝不足でそうとうキテたぜ。ここはオレ達だけでやろう」


「そうだな」


ブルーズはハンスの言葉に全面的に同意だった。

「にしても、随分とビッグネームが来たもんだな」


ハンスは手に持った手配書をまじまじと見つめた。

「こんな所にGV(グレードファイブ)クラスのアウトローなんてな」






続きます、続くのか、続くんです。

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