街:進入
スライムは付近の森林に入っていった。
スライムは、その中にいる別のオークに威嚇をして、戦闘を始めた。
オークは憤怒して、スライムに襲いかかった……が、体にこびりつかれて逃げられない。
離そうとしても全く離れないのである。
一方で、スライムも先程の戦闘から、直接的な攻撃手段に欠けることを感覚で理解していた。
酸で攻撃を仕掛けていたが、せいぜい体表が弱くなる程度でしかなかったのである。
そこで、さまざまな攻撃手段を練りだし、実行を行った。
最初に、水魔法でその脆くなった体表を攻撃しだした。
それはそれなりに効果があったが、そこまで強い攻撃ではなかった。
次に、水圧をより強くして体表に発射した。
この方がより効果が強くなった。
最後に水圧を強くして、さらに酸を濃くして、体表に水流を発射した。
傷に酸は苦しいらしく、オークはもがき苦しんだ。
やがて、オークは光となり消えていった。
他のオークにも遭遇した。
その際も同様に、体表を酸で溶かし、傷を作り、酸で攻撃した。
効果はてきめんであった。
スライムはまた自らが強くなったことを実感した。
スライムは自己増殖と自己戦闘を繰り返しながら、また別の方向へ進み続けた。
その先は偶然、人間の街であった。
看板には『リッセンの街』と書いてあった。
これは中級者レベルの街であった。
スライムにはわからないが、こちらには『プレイヤーも住めます』と書いてあった。
先程の村には元々の住民しかいなかった。
一方で、こちらはゲームプレイヤーも住み着ける場所ということだった。
プレイヤーは往々にして、厄介事を起こす。
しかし、それはスライムの知るよしではなかった。
スライムには残念ながら門や門番が理解できず、城壁の下の土を掘って街に侵入した。
「なんだ!? 魔物がいるぞ!」
近くを歩いていた兵隊の男がスライムに気がついた。
スライムは戦闘態勢に入る。
兵隊の男はスライムを一突きしようとするが、一瞬の隙を突かれてしまった。
逆に、スライムは兵隊に攻撃を仕掛けた……。
付近はパニックになった。
近くから盗人の女が現れた。
「ん? どうした?」
「突然スライムが現れたんです」
「私にまかせて? こう見えて強いのよ」
「おう……」
兵隊は見せ場をとられて意気消耗していたが、女は気にしない。
「私はニキア。覚悟しなさい!」
ニキアは短剣をスライムに突きつけてこう言った。
ニキアはゲームプレイヤーの一人で、付近に住んでいた。
「突然湧いたスライムってレアよね……お金持ってるかも!!」なんて下心があった。
「おりゃああああ!」
ニキアの渾身の一撃。
スライムはそれを避け、ニキアに体当たりし、ニキアは空高く飛んでいった。
落ちてきて建物の屋根にぶつかり、光の粒子になり、教会へ運ばれた。
スライムは侵略を始める……わけでもなく、ただその場で飛び跳ねていた。
近くにいた他の男もスライムを攻撃しようとした。
しかし一瞬で溶かされ、付近の教会で蘇った。
その頃、周りがざわめき始めた。
街に最弱の魔物・スライムがいるが、どうやら他の冒険者たちを倒しているらしい、と。
――――――――――――
【フォーラム】ここはフォーラムです。どしどし議論をしましょう!
[リッセンの街のスライム](64 views)
<街の端でスライムが飛び跳ねる動画>
なんかスライムが現れたんですが、倒そうとした人を逆に倒してます……
――Lv12の剣士ですが簡単にやられました
――Lv15の魔法使いだけど、スライムが速すぎて倒せないわ
――スライムが速いとな……
――ま、そのうち誰か倒すっしょ
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一方で、スライムは無敗であった。
すでに7人に攻撃をされたが、勝つか引き分けかに抑え込んでいる。
挑戦する者が一時的にいなくなり、今度は自己増殖と自己戦闘を始めた。
「この光景、見覚えがある……」
近くにいたプレイヤーがデジャブを感じた。
それは数日前に話題になった『自己捕食する謎のスライム』という動画であった。
初心者の草原にいた強いスライムである。
こちらはどうだろうか?
そのプレイヤーは鑑定を行った。
【名前】Nameless(スライム・水)
【Lv】43 【HP】75 【MP】58
【スキル】分裂・水魔法・調合
そのプレイヤーは心底から驚いた。
Lv43は強い。そこまで鍛えるにはやり込みが必要だからである。
また、このスライムが『謎のスライム』だとすると、レベルが大きく上昇している。
過去に上がっていた情報だとせいぜいLv17であった。
また、新しく「水魔法」と「調合」を覚えたことにも驚いた。
水魔法はまだいいが、なぜスライムが調合を覚えられるのだろうか?
プレイヤーの驚きが、プレイヤーをフォーラムへと誘った。
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