村:夜
オークはなんといっても、いかつい。
身長2メートルを有に超え、縦横に大きく伸びた図体。
手に持っているのは、これまた巨大な棍棒。
戦闘員たちは、前に長老が言っていたことを反芻する。
「強敵を前に人間が生き延びるためには、群れで戦うしかないのじゃ。
犠牲は出るかもしれんが、やるしかないのじゃ。
強敵は勝手に帰ってくれないからの」
この声を思い出す。
歯を食いしばって、オークを睨む。
オークはたちまち棍棒を振り下ろした。
そこにいた男は逃げる。
オークの追撃。
男は逃げ切ったものの、近くの家に当たり、バキバキといって崩れてしまった。
「クソ、俺の家を……!」
男はオークに剣を刺す。
小さな傷を与えられたものの、倒すにはほど遠い。
体表が固い。
「どうすればいいんだ!」
「一人だけが狙われると危険だ。一旦は全員で固まろうぜ」
「「「「おう」」」」
戦闘員たちは固まった。
オークはそこに向かって突き進む。
戦闘員の一人が弓を撃ち、体に当たる……が、体表が固く、刺さりさえもしなかった。
「どうすればいいんだ……?」
一人がそう呟いたところで、見慣れないものが飛んできた。
「ペット」とやらのスライムであった。
オークにへばりつき、捕食を試みている。
「なんだあれ!?スライムか?」
「あいつ、攻撃できるのか」
スライムが食らいついているようだが、オークの運動神経には劣るようであった。
オークは溶かされて苦しんでいるものの、体を動かすことはできた。
いや、事態はもう少し深刻であった。
スライムから逃れようとするあまり、オークがふらふらとさまよった。
その方向には、非戦闘員が隠れている家々があった。
「その方向は……」
「その家は俺の家だ! ホリンナ! 気をつけろ!」
妻のホリンナを気遣う声も虚しく、家は踏み潰される。
「キャー!」
オークはホリンナを掴み、それを口の中に……
「おい!!俺が相手だ!!」
オークに向かってその男、ゴタバーは大絶叫を放った!
ホリンナは手から離れて、落ちていく。
幸い怪我はしなかった。
その代わりに、オークはゴタバーに突進してくる。
「おりゃああああああ!」
剣を刺す……先程よりなぜか体表が柔らかく、傷が広がった。
「グアアアアアア!?」
「よっしゃあ!」
「そんなにヤワだったか、あいつ?」
「スライムが体表を溶かしてるんだろう」
「よし! ゴタバーに続け!」
「「「おう!」」」
そこで、戦闘員は本格的に攻撃を開始した。
弓矢と様々な魔法がオークを襲う。
一方で、オークも負けじと棍棒を振る。
それはゴタバーの頭をかすった。
あまりに一瞬だったため、悲鳴さえも上げなかった。
「「「「ゴタバー!!!!」」」」
「……」
ゴタバーはかすかに息をしていたが、返事をする余裕もなかった。
仲間を気遣う声が耳障りに聞こえたのか、オークは戦闘員たちの群衆へ飛び込んだ。
しかし、形勢は村人に傾いていた。
そして、最後の一撃。
剣で傷口を攻撃すると、オークは悶え苦しみ、倒れて動かなくなった。
そして光の粒子になった。これは死を意味する。
肉の部位が残った。
「よっしゃああ!」
その頃、長老が出てきた。
「おう、もう倒したのじゃな? 早かったな」
「手強かったっすね」
「怪我人はおらんか?」
「ゴタバーが倒れています」
「大至急、薬屋で回復させるのじゃ」
「はっ」
夕食には、おかずとしてオークの焼き肉が作られた。
普通のお肉よりも何ランクも味がよく、村人たちはとても美味しそうに食べていた。
子どもたちは特にお肉を楽しんでいた。
スライムに野菜だけあげるところも変わっていなかった。
夜になるころには、負傷していたゴタバーも目を覚ました。
長老の言葉が挟まる。
「今日はオークを仕留めることができてよかったのじゃ。
実は数十年前にもオークが現れて同じようなことが起きた。
その時は何人もの勇敢な村人が亡くなった。
今回はスライムが協力してくれたから、たまたま楽に倒せただけじゃ。鍛錬を怠らないようにな」
「そのスライムにもできたらずっと居てほしい。
だが、過去には育てていた猫の魔物が村人を襲うことがあった。儂が魔物を飼ってほしくない理由はそれじゃ。
スライムには帰ってもらうことにしようか」
キーニアはスライムにささやく。
「今日は楽しかった? 本当は一緒に居たいんだけど、ごめんね。
今日は色々と手伝ってくれてありがとうね。私、楽しかったわ」
キーニアはスライムを手に取る。
ほんのりオークのお肉の匂いがした。
キーニアは村の外に歩き出し、スライムを地面に置いて「じゃあね」と言い、去っていった。
読んでいただけたことに感謝します。