村:昼
昼食の時間がやってきた。
多くの者が食事を配膳していた。
食事は調理された野菜とお肉であった。
さすがにスライムが配膳をすることはできない。じっと見守っていた。
スライムにも実は食事欲があり、最初は食事に近寄ろうとしていたが……キーニアが全力で阻止した。
徐々にスライムも食事に近づかなくなった。
そして、全員が近くの椅子に座った。
長老の声が響き渡る。
「食事に感謝をー!」
村人の声が答える。
「「「「食事に感謝をーー!」」」」
「生命に感謝をー!」
「「「「生命に感謝をー!」」」」
この掛け声とともに、村の者が一斉に食事を始めた。
朝食は質素だから、昼食はとことんありがたい存在となる。
村人はこれを感謝して食べる。
スライムが村人の周りを回っていると、近くの男の子が野菜を差し出した。
「おまえ、これ食うか」
「ちょっとアンタ、野菜は自分で食べなさい!」
スライムは野菜をみるみる食べていった。
正確には、溶かしたという表現が正しい。
「おれのもー!」「わたしのも食べて?」「ぼくのもー」
「んもー子どもってホント野菜嫌いなんだから」
スライムは野菜をもらっては食べていく。
親たちの苦悩はスライムに伝わらなかった。
「あ、今日の野菜私も苦手なんですー。スライム、食べる?」
「キーニアは子どもか!もーみっともないな」
キーニアは大人になっても野菜嫌いを克服できなかったらしい。
スライムが野菜を食べる。
キーニアは、子どもではないと弁解しようとする。
「え、でも私は半分がんばって食べたよ」
「……子どもたち、キーニアを見習っちゃいけません」
「「「はーい」」」「え、ヤダ」
「誰今ヤダって言ったひとは?」
「「「「……」」」」
子どもたちは仲がいいが、親は苦労しているらしい。
もちろんスライムの知るよしもなかった。
食後、スライムは食器洗いを手伝った。
食器洗いは何人かの担当だが、実質「スライムの上に食器を置く」だけでよかった。
もちろん、スライムは今日しかいないので、このシステムは続かなかったが。
スライムは、食器洗い担当の人々や何人かの子どもになでられた。
しばらくして、スライムは薬屋に向かった……が、ヘルナは居なかった。
勝手に部屋に入り、先程作った回復ポーションの入った壺に潜り込んだ。
回復ポーションを触りながら、スライムの液体をかき混ぜた。
それは2時間も続いた。
「スライム、みーつけた」
ヘルナが戻ってきた。
「ごめんねー。洗濯物干してたの。
こんなところに隠れてたのね? 随分探しちゃったわ」
スライムは、ポーションの壺から出てきた。
そして、空の瓶にスライムの液体を入れた。
「あら、また何か思いついたの?」
そこに青い液体を入れた。ポーションである。
すると、スライムの液体が徐々に青く染まってきて……ポーションに変化した。
「あら!わざわざ複数の素材を用意しなくても、ポーションができるってわけね。
ポーションの効能は少し落ちてるようだけど……許容範囲だわ」
スライムはヘルナが嬉しそうにしているのをみて、飛び跳ねた。
「かわいいわね。私、飛び跳ねるのを見ててさらに嬉しくなっちゃった。他のポーションも作ろうね」
ヘルナは調子に乗ってきた。
「せっかくだし、今持ってるポーションをすべて飲んでいいわよ」
棚に置いてあるポーション瓶をすべて解放して、スライムの目の前に見せた。
スライムがそれを飲み干して、同じ瓶ともう一つ新しい瓶に複製品を戻した。
「ポーションとはスライムである、なんて格言ができるかもね」
夕食の時間が近づいてきた。
ヘルナも合わせて、人々が忙しくなる。
その時、突然近くの木々から物音がした。
「ガサガサガサ」
それも大きな音であった。
大人たちは、ただならぬ気配を感じた。
「戦闘員は武器を用意! そうでない者は逃げろー!」
戦闘員はほとんどが男の大人である。
しかし、子どもたちには状況を理解できなかった。
「ママーなんで家に戻っちゃうの? ごはんたべたいよ」
「たべたいよー」
「ちょっと待っててね。もう少しで食べられるからね」
だいたいの女たちは、子どもたちを家に返した。
スライムはキーニアの手の上にいた。
キーニアが聞く。
「スライムって戦えるかな?」
スライムには怯えた様子がない。
「うーん、大丈夫そうかな? 私は家に隠れてるよ。無理しないでね?」
キーニアは家に帰っていった。
ガサガサと音がする。
その木々の中から現れたのは……
「グオオオオオーッ!」
オークであった。
「ちきしょう! あいつは強いぞ!」
「オークか! やべえな!」
男どもさえも悲鳴を上げていた。
オークはなりふり構わず、持っていた棍棒を振り回す。
壮絶な戦いが始まった……
読んでいただけて光栄です。