村:朝
その日、スライムはキーニアの家で寝ることになった。
夜中に増殖するスライムを見たものがいたが……起きた頃には忘れ去られていた。
やがて夜が明けた。
村の一日は村の朝会から始まる。
50人ほどの村人全員が集まる。
長老の挨拶。
「ごきげんよう、皆の者。良く眠れたか?体調はいいか?」
「「「「はい」」」」
「儂からの連絡は以上じゃ。何か連絡事項は?」
村の朝会はシンプルであった。
長いと、子ども達が嫌がるのである。
「キーニア。どうしたのじゃ?」
「今日だけスライムがペットになりました。
みんなかわいがってあげてね!」
キーニアはスライムを持ち上げた。
「魔物をペットにするじゃと?危険じゃ。それは儂が許さん!」
「えー。ここまでなついているのに?」
「昔そうやって怪我を負った奴がおる。却下じゃ」
長老はときどき頭が固いと思われており、それで嫌われることもしばしば。
「俺はいいと思うぜ!」「おう」「今日だけならいいだろう」「おれもスライム見たい!」…
賛成の意見が多く、長老は妥協をすることになった。
「ったく若い者は……まあよい、今日だけじゃな。
もし他の者を傷つければ……わかっておるな?」
「はい。わかってます!」
『わかっておるな?』は村八分を意味するが……キーニアが前に事故を起こした際も、許してもらえることになった。
「でもこのスライム、刺激すると危ないので、気をつけてね」
この一言が、また長老の意思を変えそうになった。
「何じゃと!?やっぱり却下じゃ、却下」
「おい」「それでいいのか長老」…
なにはともあれ、結局は許可がおりた。
キーニアはスライムを手の上に置いて、歩き回った。
「ここが私と家族の家。昨日もいたわね?」
「ここはシャプヴ家の家。ここの娘さんは料理が上手なの」
「この場所は鍛冶屋の部屋ね」
「これは村の薬屋。ポーションも作ってるわ」
するとスライムは手の上から降りて、薬屋に入っていった。
「あら、スライム。興味があるの?」
キーニアも入る。店主ヘルナが声をかける。
「キーニアさんいらっしゃい。何か御用?」
「このスライムが興味ありげに入っていったの」
「うーん。うちにある素材は貴重品ばかりだから、見せられないわ。
食べられちゃったら大変だからね。ごめんねえ」
スライムは、部屋の机の上においてあった瓶に近づいた。
『スライムの液体』と書いてある。
「あら?それはスライムの液体を集めたものよ。
ポーションに入れると効能アップよ……あれ、キーニア、何かあった?」
キーニアは一瞬心臓の鼓動が早くなった。
「刺激すると危ないので」といったのはキーニア自身であった。
これを見てスライムが暴走するかも……と考えた。
この液体は、スライムを倒して手に入れたもの。
他のスライムとはいえ、スライムに仲間意識を持っていた可能性に気がついた。
しかし、それは杞憂のようで、スライムは落ち着いている。
「…………いえ、大丈夫のようです」
スライムは、近くにあった空の瓶を開けると、中に自らの液体を注いだ。
それをヘルナに近づけた。
「どういう意味かしら……これを使え、ってこと?」
「あら、スライムってこんなにお利口なのね」
「うーん……魔物がここまで明確な意思を持つとは思えないけど……わかった。
この液体でなにかポーションを作ってみるわね」
ヘルナはポーションを作り始めた。スライムはじっとそれを見ている。
「ヘルナさん、スライムを任せていい?私は食事の手伝いに行ってきます」
「いいわ」
空の壺を用意する。
このスライムの液体を少し注ぐ。
数種類の薬草を一緒に入れる。分量はヘルナの感覚。
スライムは黙って見ている。
仕上げに、別の液体を少し垂らして完成。
回復ポーション(青色)の完成であった。
「完成だわ。スライム、ちょっとだけ飲む?」
ヘルナはスライムにそう催促すると、その完成したポーションを吸い取られて……全部飲まれてしまった。
「あちゃー。言葉はよくわかってないのね。ちょっとだけって言ったのに」
しかし、驚いたのはここから。
スライムがもう一度ポーションを吐き出した。
それは、より高性能なポーションであった。
「あら、すごいわ。どうやって作ったのかしら」
続いて、スライムはさっき瓶に入れた液体をヘルナに近づけた。
「もっと入れてほしいの?」
ヘルナはさらに液体を注いだ。
しかしスライムは飛び跳ね続けて、液体の催促をやめない。
「あら。全部ね、全部?入れるわよ?」
液体を全部入れると、またもやポーションがよい輝きを放った。
つまり、より高性能になった。
「すごいわ。スライムの液体を過剰に入れると、ポーションが少し良くなるのね。
普通の素材も大量に入れれば性能が上がるかな……?」
新しい野望を抱いたヘルナであった。
だが、実のところ回復ポーションはすでに有り余っており、これをどう処理するのかに悩んでいた。
素材が不足しているのも、ヘルナが独自にポーションを配合しすぎた結果であった。
しかし、それを咎められても「多い分にはいいでしょ」と言い訳しようと決めるヘルナであった。
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