スライムの誕生
20xx年12月4日。
VRMMOの「グィタラオンライン」がサービスを開始した。
このVRMMOは、今とても注目を浴びている。
自由度の高いキャラ育成。
「地球規模」と称した、広大な大地。
「1000万人が遅延なしで同時接続可能」という、並外れた安定性。
その他、多様な宣伝文句。
驚くことに、βテスターからの評価も高かった。
それは「蓋を開けてみれば微妙」というVRMMOの評価を根底から覆すものであった。
そのころ、ゲーム内では奇妙なスライムが誕生していた。
「初心者の草原」と称される、トソナ草原にて。
その生物は、一般的なスライムのように見えた。
水色で、小型で、弱いスライムだった。
【名前】Nameless(スライム・水)
【Lv】1 【HP】4 【MP】2
【スキル】分裂
しかし、たった一つの固有能力があった。
「分裂」である。
スライムは生まれてすぐ、分裂を始めた。
1匹が2匹に、2匹が4匹に、4匹が8匹に。
そして、自らの化身と戦うことを繰り返した。
化身同士で捕食しあう。
一匹捕食したら、もう一匹誕生させる。
この動作を……『レベル上げ』と呼ぶことにする。
これを数時間繰り返し、スライムはLv4になった。
しかし、スライムの前に立ちはだかったのは……男女の戦闘職ペアであった。
「ちょっと見てよ、あれ。スライムが共食いしてるよ?」
「なんだあれ? 今、動画撮り始めた。狩りにいくぞ」
そのスライムは化身を吸収し、臨戦態勢になった。
とっさに男に食らいついた。
「うおっ」
しかし、男は大斧を振り下ろす。
スライムは避けられず……体力を削る。
スライムはヘタヘタになり、草原から逃げ出した。
大斧の男はLv.15だったが、スライムはLv.4。
スライムが敵うはずもなかった。
「あれ、居なくなっちゃいましたよ?」
「何だったんだ、あいつ」
――――――――――――
【フォーラム】ここはフォーラムです。どしどし議論をしましょう!
[スライムの謎行動](201 views)
<スライムが自己捕食する動画>
トソナ草原から。これやばくね?
――こんな現象見たことないですよ……どうしたんですか?
――普通にトソナ草原を探索してたら、こいつが居て。ちょっと攻撃したらいなくなりましたが。(投稿者)
――新種のスライムでしょうか? うーん、見たところわからないですね。鑑定やってみました?
――やってないです。(投稿者)
――スライム普通に弱くて草
――おおっとバグか? バグか?
――運営に連絡したけどバグじゃなかった
――――――――――――
スライムは、物陰で『レベル上げ』を再開した。
先程までと違うのは、一部の化身が人間のような形をしていることである。
スライムは、自らの天敵を覚えた。
今、それに打ち勝とうとしているのである。
『レベル上げ』を行う間に、スライムの前にゴブリンたちが現れた。
ゴブリンたちは、錆ついた刃物を振り回す。
「グギャグギャグギャ!」
しかしスライムは冷静にそれを避け続ける。
スライムは元々あまり強くないため、攻撃に弱い。
それを、前の人間との戦闘で学んでいた。
やがて、スライムはゴブリンの隙を見つけた。
武器を振った瞬間が甘かった。
そこに飛びつく。
そのゴブリンを捕食し始める。
「グググゥ」
ゴブリンたちは、仲間が攻撃されたことに激怒し、武器を振る。
それを避けるために、スライムはいったん退散する。
しかし、また別のゴブリンに飛びかかる。
攻撃されて、逃げる。
他のゴブリンに飛び跳ねる。
ゴブリンをイライラさせる戦術であった。
一発当てればうまくいくのに、その一発が当たらない。
ゴブリンたちを苛立ちが支配する。
しかし、苛立ちは隙を生むだけであった。
そして、1体のゴブリンを仕留めた。
それは光の粒子となった。
残党は仲間の死に憤怒した。
一斉にスライムに飛びかかるが……隙が増えてしまった。
スライムは一気に増殖して、残党を捕食する。
ゴブリンたちは光の粒子となり、消えていった。
スライムは自らの勝利に満足しつつも、また『レベル上げ』を始めた……
【名前】Nameless(スライム・水)
【Lv】10 【HP】19 【MP】14
【スキル】分裂
読んでいただきありがとうございます。