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賢木学園シリーズ

それいけ! さか高家庭科部

作者: 村崎ユーキ

本作、大昔に某小説サイトに投稿していた話を加筆修正したものです。

MAD Ailenの柳之助が部員として登場します。

 季節は4月。

 桜の樹は薄いピンク色に彩られ。はらはらとその花びらが舞う。

 その下を歩くのは新しい制服を着た高校生達だ。


 都内に在る、賢木学園高等学校。通称「さか高」。

 今日は、さか高の入学式である。


 最寄り駅から高校へと向かう舗装された道には多くの新入生が歩いていた。

 そして、流れていく群れに反して校門の前で一人立ち止まった少女が一人。


 少女の名は寅田(とらだ) あおい

今日から賢木高校に進学する生徒の一人である。彼女は賢木高校指定の紺色に青いチェックの入ったスカートと、胸元に学校のエンブレムの入った黒いブレザーを身に付けていた。首元には紺地に青いチェックの入ったリボンが揺れる。


 賢木高校の制服は可愛いと評判で、葵が賢木高校を選んだ理由の一つになっていた。



 彼女は校門の前に仁王立ちになり、緊張を緩めるためか深呼吸を大きく一回した。

「私も、今日から女子高生だ。この学校に3年通うんだなぁ」

 校門の前には校舎へ伸びる石畳の道と、グラウンドが広がっている。

 葵は校門の前に立てかけられ『賢木学園高等学校入学式』と綺麗な楷書で書かれた文字をうっとりと見つめる。



 その少女の表情に入学式に向かう生徒や、その保護者達が不審な視線を向け校門を通り過ぎていった。

「あの子……大丈夫か?」

「ああいうのとは、友達になりたくないね」

 その声に、彼女自身は気付く様子は無いが。



「葵ちゃん、遅れてごめんなさいね」

「どうしたんだ。急がないと時間マズイんじゃないのか?」

 聞きなれた二つの声に、葵はハッとして正気に戻った。

「お父さん、お母さん!!」

 暴走して先に学校へ向かってしまった娘をやっとの思いで追いかけてきた彼女の父と母だ。葵は二人の声を耳に腕時計に目をやって、「確かにマズイ!!」と、呟くと勢いよく校舎に向かって走り出してしまった。


「ちょっと、葵ちゃん! また走るのーー??」

「お父さん達は、入学式が終わったら帰っちゃうからなーって、おーい!!」


 両親の声が、全く耳に入っていない少女の姿は、あっという間に消えてしまったのであった。




 葵が教室に駆け込んだとき、既にほとんどの生徒が席についていた。

 この高校の新入生の多くは近辺の中学校出身であるため、皆すぐに打ち解けた様子で何やらお互いに話し合ったり自己紹介などをして和んだ様子である。

 葵は入学して早くも遅れをとっていたのだ。


 葵が席に着いて、しばらくするとこのクラスの担任である教師、山崎(やまざき) 久太郎(きゅうたろう)が入ってきた。

 山崎は教壇に立つと「入学おめでとう」と真っ先に口にして、続けて言う。

「これから1年、このクラスが君たちの生活の場となる。新しい環境での生活を楽しみながら、ぜひとも頑張ってくれたまえ」

 が、雑談に夢中になっている生徒達は、新しい友人との交流に夢中であからさまに話を聞いていない。


「趣味って何なの?」

「俺、バンドやりたくてさぁ」

「得意教科って何?」



──むむ……これは早くも、学級崩壊か!


 山崎は表情が歪みそうになるのを必死に堪えながら、生徒たち一人ひとりを観察する。


「俺、ここの裏にある中学なんだぜ」

「え! じゃ元中同じじゃん」

「わたし、バトミントン部入ろうかと思うんだけどさ……」


 彼らは担任がやってきたというのに無関心な様子だ。

 山崎は眉間にシワを寄せながら勇気を出してもう一度言った。

「がっ……頑張ってくれたまえ」


 しかし


「ねぇ、部活何入る予定?」

「私はバスケもやってみたいんだけど」

 会話に熱中してしまった若者たちは、周囲の音を完全にシャットアウトしてしまったようだ。

「君たちぃ? がっ……頑張ってくれたまえ」

 それでも山崎は必死に彼らに語りかける。


「この学校って、思ったよりルール厳しそうじゃない?」

「あぁ~なんか先輩とか怖そうだよね」

「そうそう、生徒会とか?」

 しかし、やはり彼らには響かないようだ。


 保護者のクレーム、警察沙汰、裁判、無職、社会的死亡

 山崎の脳裏では、学生たちを注意することで生じてしまいそうな様々な障壁を表す言葉が次々に流れていく。


「……でさぁ」

「……だよねぇ」



──学級ぅ崩壊ィイイイ……?!


 いよいよ山崎にしか聞こえない何かが盛大にブチ切れた。

 彼の脳裏に流れていた言葉が、一瞬で砕け散る。



「チェストォォォーーーー!!」


 バキッだか、メリッだか……とにかく、木の板が割れる鈍い音が教室に響き渡った。

 直後に教壇が真っ二つに割れ、ホコリを吹き上げながら床に崩れ落ちる。


 山崎が渾身の力をこめて教壇を頭で叩き割ったのだ。

 生徒たちは皆、その様子に口をあんぐりと開けてふさぐ事ができない。

 誰一人として声を挙げることはなく、一寸も動けないでいる。

 無論、葵も。


 山崎は額から熱い血潮を流しながら再び、力強い言葉を吐き出した。

「頑張ってくれたまえ!」

 彼は、満面の笑みで、それでいて清清しい表情で、そう言ったのである。


 そして、続ける。

「明日から授業始まってくから、教科書を事務局でキチンと受け取って帰れよ!」

 額から溢れ出る鮮血は、既に顎まで流れ、崩れ落ちて無残な姿を晒す教壇へと滴っていた。それでも山崎の顔は非常ににこやかだ。

 その姿は、この教室にいる誰もの目に、不気味に映ったのであった。


「あと、部活動の見学はもう始まっているから、今日からでも興味があるところは見学OKだから。以上だ。本日は解散」


――何、この担任……やばっ


 葵の脳裏に言い知れぬ不安がよぎっていた。



* * * * * * * * * *



「部活動の見学、か」

 葵は携帯に届いていた両親からの「先帰るね~!」とだけの連絡をスマホで確認した後、一人学内に残っていた。


 彼女が今立っているのは、調理室の前だった。

 調理室のドアには、小さな看板が引っかかっている。


【部活見学随時! みんなでおいしい料理を作ろう! 新入部員大大大歓迎!!】



 ドアの前で仁王立ちになる葵。

「中学のときからずっと家庭科部だったし、やっぱり私にはこれしかないよね!」

 不意に彼女の脳裏に、血を流しながら清々しい笑みを振りまく担任の姿が浮かび上がる。 思わず苦い表情を浮かべてしまうが、必死に顔を左右に振って脳裏の景色を吹き飛ばし顔を上げる。


「クラスがあんなんでも、部活くらい楽しくないと!」

 葵は「ふーっ!」と、鼻息を吹き出しながら、両手で拳を作って胸の前に引き上げた。

 扉を元気良く開けるべく、不必要に力をためているらしい。


 葵がそんな風に一人で独り言をつぶやきながらにやけ顔になっていると、後ろから男の声がした。

「あの、そうやってると入れないんだけどなぁ……」

 男子にしてはやや高めの、優しそうな声だ。

 葵は「わ、すみません!」と、ハッとして声の主の方へと振り向いた。


「ごめんね」

 そこにはメガネをかけた、いかにも真面目な優等生といった雰囲気の男子生徒が立っていた。

 彼を見た葵は、慌ててドアの前から右横に避ける。



 男子生徒の胸ポケットには3年S組とかかれたバッチが留められている。

 どうやら上級生のようだ。しかも、S組といえば特進クラスである。

 葵は、目の前の上級生の顔を無意識にジッと見つめていた。


 黒くて短い髪は清潔感があふれ、優しそうな瞳の彼は特進クラスらしく知的な眼差しの持ち主だった。体型は細身で、身長は高めで170くらいだろうか。

 少しばかりガラの悪い集団に放り投げられたら、“もやし”とか“ガリガリ”とか言われていじめられるのではないか。葵はそんな勝手な想像をしていた。


 葵が向ける複雑な感情が込められた眼差しを感じ、男子生徒は「何か……?」と苦笑しながら言葉をこぼす。

「あっ! すみません……ジロジロ見たりして」

 見知らぬ女子生徒が黙ったまま自分をじっと見つめてきたからか彼も「ははは……」と、なんとも言えない笑い声を上げるばかりだ。


「あのさ。もしかして、君って一年生?」

 彼は居住まいを正してから葵に問うた。

「は、はい」

 葵がそう返すと、彼はパッと顔色を変えて口を開いた。

「授業もないのに調理室の前にいるってことは……家庭科部入部希望?」

「え、はい……先輩は家庭科部の方ですか?」

「そっか、そっかぁ~! うん。僕、部員だよ」

 急に嬉しそうに響いた彼の声に、歓迎されている様子に葵も嬉しくなる。

「僕は3年の(たち) 太一(たいち)。今の時代男も料理作れないとね!」

 舘と名乗った男子生徒は葵に向けて右腕を挙げてガッツポーズをした。


 そしてすぐ何か思いついたような表情を浮かべると家庭科室の扉を開ける。

「入部希望だったよね! だったらちょっと見ていきなよ!」

 そう言って舘は、葵を教室に招き入れようとする。

「え……ちょっと先輩! 良いんですか」

「ここに書いてあるでしょ。部活見学随時って。いいからいいから!」

 葵は教室に入り、舘の背中を見つつ思った。


――男子で家庭科部? 舘先輩って勇気あるな。きっと女子ばっかだろうに……


 そんな女子の群れの中で舘がポツンと一人。

 しかし、柔和な彼の佇まいは、場の雰囲気に違和感がなさそうだ。

 ゆっくりと開く扉の向こうに、そんな光景を想像しながら葵は思わずクスリと笑ってしまう。


 が、次の瞬間その考えが間違っていることに気づいてしまうのである。



 一年生が見学するということで舘は気合が入ったようだ。

 家庭科室に入るなり彼は大声を上げて言った。

「皆、今日は新入生の見学があるぞ!」

 舘の声に葵は恐縮しながら部屋に入るとすぐに一礼した。


「どうも、おじゃましま……」

 言いかけた言葉は、途中で途切れる。


 葵が垂れた頭を上げて教室を見回すとそこは葵の想像を超えた世界が広がっていた。

葵の口が開いたままふさがらない。

 彼女は内心、絶叫していた。言葉が出なかったのだ。




 なぜなら、教室の中には三角巾をつけた男がうようよしていたからだ。

 

 三角巾をつけているのに上半身はタンクトップ、下半身はジャージ姿、そして腕筋を鍛えている文化系部活と言うには違和感まみれの男子生徒が一人。


 何故か、三角巾とエプロンをつけた上で、調理台の上にいくつもの扇子を机に並べてなにやら選んでいる雅な雰囲気の男子生徒が一人。


 一番奥の教室の壁に向かい、三角巾を付けてつつ、何か護符のような長方形の紙モノを壁に貼り付けてる陰鬱な雰囲気の男子生徒が一人。



 そして、もう一人見知った男が。

 担任の山崎だ。山崎は調理用具を出して準備をしていた。


「え……3人? つか、男だけ? にしても……本当に、コイツらが家庭科部ですか??」

 葵は目を見開いてその光景を凝視した。口からこぼれ落ちる言葉は、もはや数分前までの彼女ではない。


「あ、女の子だ! 可愛いじゃん!!」

 汗臭い腹筋男、笠崎(かさざき) 柳之助(りゅうのすけ)が、真っ先に葵に気付いて叫ぶ。

 タンクトップにジャージという姿だったが、見れば紺色の前掛けをしていた。

 しかし、その前掛けは汗にまみれて変色しかけていた。調理室にあるまじき不潔さだ。

 どう見ても彼は、家庭科部員に見える風貌ではない。頭は丸坊主だし、眉毛は太く男らしい。体つきもスポーツマン然としたほどよい筋肉で身長も高く、体格が良かった。目つきもギラギラとして鋭い。

 葵は心のうちでグラウンドに出やがれ、とツッコミを入れていた。


「おい、柳之助。お前が動くと汗臭い熱風がくるんだ。おとなしくしてろ。汚らしい」


 そう言ったのは扇子を選んでいた華頂院(かちょういん) (そう)だった。

 口元に閉じられた扇子をあて、どことなく高貴な雰囲気が漂い物腰が柔らかだ。

 髪の毛は色素の薄い茶色で、耳も襟足も髪の毛に隠れており男子にしてはやや長め。

 切れ長の目に鼻筋が通っていて、この部員達の中では線が細い。中性的な風貌だが、イケメンと呼ばれる部類であろう。それに、柳之助と比べても格段に清潔感にあふれている。彼のまとう雰囲気のせいか、高級な香の匂いでも漂ってきそうな錯覚を覚える。


 彼は、自身とキャラクターとして対局の位置にある露骨に柳之助を嫌っているようだった。あからさまに怪訝な表情を彼に向けている。

「は? 何だよ。華頂院、やるか?」

「僕はそういった無益な争いは控えさせていただきたい。美しくないから」

 いきなり口論が始まってしまった。穏やかだった教室の空気が一気に張り詰めた。



 一方で陰気な男、寺町(てらまち) 貴弥たかやは、二人の争いなどまるで気にしない様子で、手元に怪しげな札のようなモノを左手に6枚ほど持ち、教室の壁へ視線を這わせていた。

 彼は淡々とした口調で「今日はどうも良くない“影”の気配が多いですね……」と言いながら、札を選んでいる。その影とやらに札で攻撃でも仕掛けるつもりらしい。

 影、というのは悪霊か何かだろう。彼には、普通の人間には見えない何かが見えているようだ。

 彼の髪は奏ほど長くはないが、前髪が異様に長く、どんな目つきをしているのか何故だか顔の上部が暗くて見えない。しかし、鼻から下は整っており、もしかしたら綺麗な顔の持ち主かもしれない。


 葵は貴弥の視線や動作に、言いようのない恐怖を感じながら「この教室、何かいるの?」と思わず口にしてしまった。

 その声に気付いたのか、貴弥は顔を上げて今だ入り口付近で立ち尽くしている葵へ視線を向けてニタリと笑う。


「そこのキミ、変な“影”……この部屋に持ち込まないでくださいね」

 口元だけで笑ってポツリとそう言った貴弥は、手にした札の一つを右手に取ると「ほら……」と、言いながら、それを葵に向かってフワリと投げる。

「え?」

 それが宙に浮いた瞬間に、突然矢のような勢いで葵に向かってすっ飛んで来る。

「ひぃいっっ」

 葵が絶叫する間もなく、その札は葵の頬を掠めて後方へと飛んで行った。そして、葵のすぐ背後で何かが燃え尽きるようなジュッという音がしたのである。

 すぐさま振り向いたが、そこには何も無い。彼女は背筋に冷たいものが走るような感覚を覚え、すぐさま貴弥のほうを見る。

 彼は「……ふふ」と、口元を緩めて笑っていた。謎の展開に、葵は恐怖のあまり口をパクパクと動かすばかりだ。



「なんなんですかぁああああ!!」

「突然どうしたの、葵ちゃん?」

 この一連の光景を、舘はまるで気にせず、むしろ何も見ていなかったかのような言い草だ。


 葵は、勢いよく身体の向きを彼に向ける。入ってすぐ受けた衝撃に耐え切れず、葵は舘に肩をふるわせながら尋ねた。

「たっ舘先輩、他の部員の方は……女子の方とかいらっしゃらないんですか?」

「え……これだけだよ。うちの部は、何でか女子部員はいないんだよねぇ」

 舘は苦笑いをしながら「なんでだろうね」と、右の人差し指で頬を掻きつつそう言った。

 葵からは溜まらず「え……」という声が漏れる。

 続けて「じゃぁ、見学しに来た人とかは……?」と聞けば、舘は「うーん」と、頭を捻りながらこう言った。


「さっき女の子が3人くらい来たんだけど、ドア開けるなりすごい声上げて出てっちゃった。どうしちゃったんだろうね」


―――そりゃ驚いたんですよアンタ


 葵は、誰でも分かるような事が分からない特進クラスの先輩の平和すぎる思考回路を疑わずにはいられなかった。




 舘と話している葵に気づいた山崎が、2人に近づいて葵を指差して言う。

「お前、俺のクラスの……寅田!! 家庭科部に入るのか!!」

 山崎は興奮した様子だ。

 先ほどのホームルームの名残か、山崎の額はまだ赤く血がにじんでいた。



―――た、担任きちゃったよ! これって入部しなきゃいけない流れ突入!?


 葵が脳裏でそう絶叫したが、その思いは隠しきれず彼女の表情に現れていた。

 無言にで向けられた少女の複雑な表情に、山崎は「何なんだ、その顔は」と眉をしかめる。


「こ、これは……真顔です」

 そう言う葵だったが、その思いはそう隠しきれるものではない。

 山崎は「真顔ってお前……。いや、だが希望して部活見学に来たんだろう? よし入れ! 今入れ!」と、ガハハと豪快に笑いながら葵を急き立てた。

 もちろん妙に冷静な舘は「先生、まだ彼女は見学ですって!」と苦笑いをしながら、山崎をなだめた。

 そうかぁ、と山崎は少し残念そうに言う。


 それから舘は、視線を葵へ戻すと口を開いた。

「とりあえず、今日は先生のことは気にせず見ていくだけでいいからね。あ~そうだ、名前聞いていい?」と、葵へ優しい眼差しとともに言葉を向けた。

「な、名前……」

 葵は面倒なことになると嫌なので、「えっと……」と少しばかり躊躇いの気持ちを吐き出してから続けて言った。

「1年B組の寅田葵だ!」

 山崎は、自己紹介にためらう葵を無視して勝手に舘に伝える。

 葵は「お、おい! コラ!」と、山崎へ反射的に言葉を投げた。

 それは、もはや教師に対する口調ではない。

 山崎の言葉に、舘は「OK、葵ちゃんね」と、ニッコリ笑って続けた。葵の山崎へのツッコミは聞こえていないようだ。


「じゃぁ、これから部活はじめるからちょっとみててくれるかな。後ろの席に座っててね」

「は、は……い。よろしくお願いします」

 渋々という思いを隠そうにも、彼女の気持ちは正直に言葉に現れていた。


―――でもでも、意外と普通だったり……するわけないか


 自分自身の想像に肩を落とした葵の予想は、ずばり的中するのである。





 部長である舘がなにやら合図すると、舘を含めた生徒4人がそれぞれ手近な調理台に備え付けられた席に着く。

 そして、顧問である山崎は、生徒たちが着席するのを確認して調理室の一番前、教員用の調理台の前に立つ。


 どうやらこの部は教員が主導のようだ。

 葵は突っ立っているわけにも行かず、のろのろと後ろの調理台のそばの椅子に座る。葵の動きを目に、山崎は嬉しそうにウンウンと頷く。彼は葵がいるせいか、やけにやる気満々といった様子である。


 山崎は「よし、お前ら!」と呼びかけてから、続けて口を開く。

「今日は月に一度の手料理発表会だ。家で作ってきた物を持って前にでろ!」


―――発表会か。何か変だけどちゃんとやってるんだ


 聞けば、部員たちも何だかんだちゃんと料理を作っているようだ。これから始まる手料理発表に、葵は淡い期待を抱いた。



 山崎は鼻息を荒くしながら舘を指差して言った。

「まずは部長の舘! お前からだ!!」


 舘は少々驚きながらも前へ出て、持っていた包みを開いて何かを取り出した。

「はい。僕が作ってきたのはアップルパイです」

「すごい上手だなぁ。おいしそう……」

 葵はその出来に自然と声を出した。葵が見たこともないようなおいしそうなアップルパイだったのだ。

 葵が感嘆の声を上げていると、わざわざ席を移動してきた柳之助が「葵ちゃん」と、馴れ馴れしく呼びかけてから続けて口を開く。

「舘先輩は部内で一番料理上手なんだよ」

 すると、やはりわざわざ席を移動してきたらしい奏が柳之助に続けて言う。

「そうそう、作るものは美しい料理ばかりさ」

 奏は「まるで輝いているようではないか」と閉じた扇子を口元に当てて言葉を連ねた。

「美しい……ですか」

 葵は彼らの言葉に、分かるような分からないような思いを持ちつつも「舘先輩は料理が部内で一番うまい」ということだけは理解することができた。


 葵が二人の先輩から前方へと視線を戻すと、そこでは山崎主導の試食会が行われていた。山崎は切り分けられたアップルパイを口の中に放り込み、豪快に咀嚼する。そして、口の中に食物を入れたまま感想を述べた。

「うむ、いつもながらうまいぞ」

 が、あまりにも単純な言葉だ。それでは全く美味しさが伝わってこない。




「そうだ、寅田に試食してもらおうか。おい、ちょっとこっち来い!」

「え……! はっはい!!」

 いきなり振られてびっくりする葵。

「いやぁ……緊張するなぁ」

 照れながら舘は葵にフォークを渡した。

 葵には緊張しながらも食べてみたいという気持ちがあったので、フォークでアップルパイを刺すとゆっくり口へ運んだ。そして、それを味わう。

「……おいしい」

 期待通りの味だった。

 さっくりとしたパイの中に甘みを抑えたりんごのジャムがたっぷりと入っている。

「うれしいお言葉ありがとう」

 メガネの中の瞳が優しくなる。


「すごい。ただの変人の集まりかと思ったら。もしかして他の先輩たちも上手なのかな」

 舘のアップルパイに感心した葵は期待にワクワクしてきた。

 が、当然ながらそんな期待は露と消えることになる。


「じゃぁ、柳之助来い!」

 次に呼ばれた二番手の柳之助は席を立ち前へ出た。

「うっす。俺が作ったのはかぼちゃの煮物……を切る課程までだ」



ーー切っただけかよ!!


 そう心の声を抑えながら、葵は柳之助が取り出したかぼちゃの煮物を見た。

 山崎は腕を組みながら唸った。

「お前のとこの煮物はうまいよな。お母さんが作ってくれるんだよな」

「もしかして毎回煮物なんですか?」

 葵は、前に立つ柳之助に手を挙げて尋ねた。

「そうだ! とりあえず食っとけ!」

 柳之助は自信満々に皿にかかった布を取った。

 皿の上にはかぼちゃの煮物がころがっている。見た目はぼろぼろで、切ったとは到底思えない形状をしている。


「妙に不揃いなかぼちゃですね」

「それはしょうがないだろ。包丁で切ったんだじゃないし」

 葵は、その言葉に首をかしげる。そして、訝しげな視線を柳之助へと送った。

「は? では……どうやって……?」

 すると、柳之助はつけていたエプロンをバッと脱ぎ捨てタンクトップ姿になって「こうだ!」と叫ぶ。そして、何処からかぼちゃを取り出し、調理台の上に置くと、それを己の拳で上から割り砕いたのだ。

 ぐしゃりっと音を立ててかぼちゃが粉々に砕けた。無残な姿になったかぼちゃの欠片が、調理台の上に儚く転がる。

「あわわわわ……」

 漫画だったら今葵の目からは目玉が飛び出しているだろう。

 山崎は腕組のポーズを崩さずうなずきながら言った。

「うむ。男の手料理って感じで良いな」

「手料理ってそういう意味か!!!」

 葵のツッコミは、家庭科室に果てしなく響いたのだった。




「次、華頂院!」

 山崎に呼ばれた奏はすっと立ち上がった。

「華頂院……? すっごい名前……」

 それもそのはず、この華頂院奏は室町時代から代々続く、由緒ある家系のお坊ちゃんなのである。

「ふ……。僕の料理はこれです!!」

 前に出ると奏は閉じた扇子で口元を押さえながら皿にかけてある布をとった。

 皿の上に盛られたそれは、一般の食卓でもよく見かけるものであった。


「キャベツの千切り!?」

 葵は愕然とする。

 皿の上にたっぷりと盛られているのはただのキャベツの千切りだったのだ。すごい形相をしている葵とは正反対に部員どもの反応はふーんっといった感じだ。

 そんな彼らに、葵は「なぜ、慣れた感じ?」と、きょとんとしてしまう。


 山崎は相変わらず腕を組んだまま口を開く。

「華頂院、お前またキャベツの千切りか」

「お前それ何回目だよ」

 続けて柳之助が手にしたかぼちゃの煮物をほおばりながら言う。

 黙ったままの奏の代わりに舘が答えて言った。

「確か、去年の10月からずっとだよね」

 舘の言葉に、奏は「どんどんと研ぎ澄まされていく感じがします」と、何故か自己陶酔したようにウットリとした言葉を紡いだ。


 葵は「キャベツの千切りだけ半年以上続けるのも逆に凄いわ!」と、声を上げていた。

 奏は葵の言葉を褒め言葉と受け取ったらしく「ふっ照れるね」とキザったらしく髪の毛をかきあげてから、続けて言う。

「今日のキャベツは群馬県嬬恋村産です。とりあえず召し上がってください。マヨネーズどうぞ」

 それに答え、山崎は箸でキャベツを食い始めた。

「確かにお前の千切りの技術はすごいよ。回を追うごとにどんどん細くなってくな。今日のは髪の毛みたいに細い」

 そこまで細いと、キャベツの良さが活かされているのか不明である。

 奏は、口元にあった扇子を開いてから、自身の口も開いて言う。

「華頂院流扇術(せんじゅつ)、必殺流扇斬(りゅうせんざん)の修行の成果です」

「はいぃぃいい!?」

 葵はそのはじめて聞く意味不明な言葉の羅列に戸惑い、リアクションに困った。

「古来より我が華頂院家に伝わる殺人術さ。扇子に刀を仕込ませ、舞うように相手を切りつけるんだ。これを使えばキャベツの千切りなんて簡単さ」

 殺人術。そう説明する彼から微妙に殺気が漂ってくるのが分かる。

 目つきが鋭くなったようだ。柔らかかったはずの物腰が、どこか針のように鋭く尖り、殺気が痛いくらいに感じられる。

「そんなのどうでも良いですけど殺人術を料理に使わないでくださいよ」

 葵がそう言うと奏の表情が曇った。

「平和的な流用方法じゃないか。葵ちゃん、とりあえず試食してみてよ」

 葵は「あぁ、まぁそうですけど……試食、します」とボヤきながら、箸を皿に伸ばし、キャベツを口に含んでみた。


 そして、口に含んだ後でキャベツの千切りに何かついていることに気づく。

「あれ? これ赤いソースみたいなのついてますけど……何ですか?」

「あ……ホントだ。工夫したのか?」

 相変わらずキャベツをほおばっている山崎も気づいたようだ。

 すると、奏は扇子でポンとひざを叩いて思い出したように言った。

「あぁ! そういえば千切り中に背後から曲者に襲われて、それで、奴を斬り倒して…洗わずにそのまま……」

「…ってこれ血かよ!!!」

 葵は口に含んだ全てのものをブーーっという気持ち良い音を立てて一気に噴出した。

「飲んじゃった……」

 山崎に至っては突っ伏して嘔吐している。

「先生、それ後で自分で処理してくださいね」

 舘は山崎を見ながら笑顔で捨て置いた。

「すまなかったね」

「曲者って、どんな家に住んでおられるんですかぁぁぁ!!?」

 この部には怪しい人物が多すぎる。怪しいやつの作った料理はよく観察してから食べよう、と葵は改めて力強く思った。



「じゃぁ……気を取り直して最後は貴弥だな」

 山崎は最後の力を振り絞って顔を青くしながらも次の生徒を呼んだ。

 前に出てきたのはさっきから影の薄かった寺町貴弥だ。

 貴弥は、なぜだか今にも倒れそうな様子でフラフラと前へ出てきた。まるで実態のない幽霊のようだ。


「さっきの謎の能力者の先輩……」

 いい加減この部の人々と関わりあいたくないという気持ちが葵の顔を嫌な表情にしている。彼女の脳裏には、既に『入部』という言葉はない。


「はい……僕はこれを作りました」

 貴弥は細い腕で大きなものを教壇の上にドンと置いた。

 現れたそれは、なんと巨大なウェディングケーキだった。

「あんた今、どっからソレ出したんじゃぁぁああ!!!!」

 再び葵の叫びが家庭科室に木霊した瞬間だった。




 葵の声は教室にビリビリと響き渡る。

 絶え間なく絶叫をし続ける葵を舘は心配そうな目で見ていた。

「さっきから叫んでばっかりだけど大丈夫?」

「はぁ、はぁ……こっこれが叫ばずにいられますか?!」

 葵は息が切れ切れだ。

 彼女は調理台に両手を突き、項垂れながら肩を上下させながら必死に呼吸をしていた。

「何か妙なところでもあったかな?」

 そう言ったのは殺人料理人の奏だった。

「みなさん、普通の料理は作らないんですか?」

 葵は汚いものを見るような目で部員を見ていた。

「普通? どこかおかしい点でもあるのかな?」

 山崎はあっけらかんとしている。

「この教師頭イカれてんのか?」

 もはや葵は、心の内を隠すことなく全て口から思いを放出していた。


「まぁ、この部にしばらく入ってれば慣れるからさ」

 葵をなだめるように舘が言った。

 葵は「舘先輩……慣れてしまったんですね!?」と、同情的な視線を彼へ送る。


 その様子に黙ってられなくなったのか、柳之助と貴弥が口を挟んだ。

「それで、葵ちゃんの言うところの普通って何? 俺たちは俺たちなりにやってるんだけど」

「ウェディングケーキは普通ではありませんか?」

 あからさまに憤慨した様子だ。葵には、二人のバックにはあるはずもないのに燃える炎が揺らめいて見える。

 その様子を目に、流石に葵は小声で呟く。

「私が悪いんか……あぁ、喧嘩腰になってきちゃったよ……くそぉ!」

  それから彼女は、意を決した様子で背筋を伸ばして口を開く。

「わ……分かりました!! 私が普通の料理って奴をお見せしましょう!!」

 


―――この変な家庭科部に私が一喝入れてやろうじゃないの!


「見せてもらおうじゃないか。その普通の料理って奴をさ!」

 その喧嘩を勝ったのはやはり腹筋男、笠崎柳之助であった。

「ええ! 望むところです!!」

「ちょっと、柳之助……葵ちゃんまで……」

 舘は二人の口論に困惑するばかりだ。

 奏は「決闘か。これは見ものだな」と、扇子を取り出し優雅に見物するつもりらしい。

「もし、その料理がまずかったら家庭科部には入部させないぜ」

 柳之助は、葵をにらみつけて言う。

「分かりました!!」


―――って、誰が入部するか! この筋肉男ぉおお!!!


 二人の間には不必要に火花が散り始めたのである。



 家庭科室で立っているのは葵と柳之助の二人だけだ。他の部員と教師は壁を背に椅子を並べて座っている。葵と柳之助の周りには何やら怪しげに不穏な空気が立ち込める。二人が抱いているのは純粋な料理への情熱だけだ。そして今、その二人の想いがぶつかり合おうとしているのである。

 葵はエプロンと三角巾を電光石火の速さでバシッとつけた。準備万端、やる気満々だ。


 葵は挑戦的な視線を柳之助に向け、彼を指差していった。

「で、何を作ればいいんですか?」

 柳之助は、無意識に殺気を振りまく葵にたじろぐことなく、睨み返して言った。

「そうだなぁ。じゃぁ、野菜炒めでも作ってもらおうか」

「え。野菜炒めですか?!」

 柳之助の要求にギャラリーは「おぉ……」という声を上げた。

「へぇ……」


「野菜炒め!? あの火を使って調理する料理か!!」

「人参を銀杏切りにしたり肉を切ったりする料理か……! 見ものだね」

「カサ君もひどいこと要求しますね……」

 山崎、奏、貴弥が燃える二人を見ながら口々に言った。

「女だからって容赦しねえ。それ作ってもらおうか!」

 葵は完全になめられていると思った。その要求にびっくりしなかったのは葵だけなのだ。

「野菜炒めくらい誰だって作れますよ……。そんな簡単な料理でいいんですか?」

「チッ。料理上手ぶりやがって……。腕前、みせてもらうぜ」

「はいはい」

 小学校の調理実習で最初に行うような料理の要求に、葵は怒りを通り越して呆れ果てるばかりである。もはやこれから料理をすることすらダルくなってきた程だった。


 葵は手を洗い、冷蔵庫から野菜を選び出し、包丁を持って調理台へ向かった。

「私を馬鹿にしているのですね……」


 そんな彼女の様子に、ギャラリーはどよめく。

「葵ちゃん、なんて余裕たっぷりなんだ」

 扇子を口元に当てて言う奏に、貴弥も「包丁を持っているのに、全然緊張した様子も無いです」と感嘆の言葉を吐き出した。


 葵はなれた手つきでピーマンのヘタと種を取り、食べやすい大きさに切る。そして人参を銀杏切りに、玉ねぎを串切りに、肉を一口サイズに切り、キャベツも食べやすい大きさ切った。そんな葵の腕前にギャラリーからは感嘆の声が飛び出す。

 奏は「美しい。まるで流れるような手つきだ」と、言葉を零し、舘は「やっぱり上手だなぁ」と穏やかに発言する。貴弥も「すごいです」と手を叩いていた。


 柳之助は葵の包丁裁きにただただ感心するだけであった。

「包丁を使って……手をつかわねぇなんて……」

 その発言を聞いた葵は逆に驚かされてしまう。

 葵は包丁を持つ手から視線を離さぬまま、「って……あの筋肉、包丁握ったことないのか!?」と、眉間にシワを寄せていた。



 野菜を一通り切り終え、ガスレンジに向かう葵。

 奏は「ガスを使うのだね」と、当たり前すぎる発言を重たい展開のように口にした。貴弥は葵の姿をじっと見つめながら「この部でガスを使えるのは舘先輩だけです」という、調理部にしてはあるまじき言葉を放つ。


 ガスレンジに向かう葵に柳之助が声をかけた。

「こっからが勝負だぞ!」

 柳之助の声によって葵の何かがプッツリと切れる。

「お前ら、私の、料理をその目ン玉に焼き付けやがれ!!!」

 ガスレンジを荒々しく着け、フライパンに油を垂らし、火の通りの悪いものから野菜を次々に入れていく。野菜をいためていく様子はまるで魔女のようである。

「うおおぁああああ……!!」


 葵の調理の様子に山崎が立ち上がって叫んだ。

「寅田!!! 感じるぞ、お前の魂の叫びを感じるぞぉぉぉぉ!!!!」

 山崎の言葉に、葵はフライパンを振るいながら叫んでいた。

「中二病みたいな褒め言葉はやめろぉぉおお!!」




 数分後。

 葵は出来上がった野菜炒めを皿に盛り、柳之助に突きつけた。

「どうですか? 私の野菜炒めは。今回は醤油で味付けしてみました。皆さんもどうぞ」

「…………」

 柳之助は声も出せないようだ。代わりに奏が答えて言った。

「葵ちゃん。とっても、おいしいよ。この男には美しいものを見定める能力は期待できないが、僕が保証しよう」

「うるせぇ、華頂院。俺だってものを見定めるくらいできる。たしかにこれは……うまい」

 この瞬間、柳之助が葵の料理の腕前を認めたことによって勝敗は決まった。

 舘と貴弥は顔を見合わせて喜ぶ。

「じゃぁ、決まりだね」

「入部できますね」

 柳之助も折れて、懇願するように葵の手を握って言った。

「確かに葵ちゃんの料理はうまい。さっきは悪かった。ぜひ入部してくれ!!」

 彼の言葉に、葵は満面の笑みを見せる。その笑顔はあまりにも爽やかで、その場にいる少年たちの心に気持ちのいい4月の風を運んでくる。

 そして、少年たちの笑顔に包まれながら、葵は口を開いてハッキリと言おうとした

「嫌です」

 が、その言葉を言い終えぬうちに「うおおおおお」という雄叫びが調理室に響き渡ったのだ。それは、山崎が生徒たちが和解したことを喜び、涙を流した結果に飛び出した喧しい声だったのだ。


「入部おめでとう、寅田。お前の魂、料理を通してみんなに伝えるのだ!!」

 その言葉に、葵の口からは「はぁぁあああ??」というネガティブな感動詞しか出てこない。


 部員たちが葵を取り囲み、拍手して祝福した。

「おめでとう、葵ちゃん」

「おめでとう」

「おめでとう」

「……おめでとう」

 祝福の言葉を受け、意味がわからず葵は円の中心で呆然と立ち尽くしていた。


 その異様な様子に、先ほどまでトリップしていた葵は正気に戻った。

「ちょっと、何? なんか知ってる! なんか深夜に再放送してたアニメに似てる!!」


「寅田、がんばろうな!!」

 山崎は葵の肩をぐっとつかんだ。

「痛っ。わっわかりましたよ。入ればいいんでしょ! 入りますよ……って、マジ痛っ!」

 もはや葵はヤケクソだった。そんな彼女に舘が一言。

「うん。葵ちゃん。言い忘れたけど、僕はあと数ヶ月で引退、奏と柳之助と貴弥も来年の夏に引退。だから進入部員をもうちょっと入れないと、そのうち先生と二人になっちゃうから頑張ってね!」

 舘は言い終えると、葵の肩をポンと叩いた。

「へ……?」

 葵は状況がよくつかめず挙動不審になる。

「頑張ろうな寅田☆」

「は……図られた……!?」

 舘と反対側の肩を山崎がポンと叩いた。

 葵は今、誰が見ても真っ白な状態にあった。先生の熱すぎるまなざしをもろに浴び、うなだれながら葵は思った。



―――絶対にやめてやる。そんで……こんな変な部、私がつぶしてやる!


 根は真面目な葵には、部活をサボって幽霊部員になるという思考は存在していなかった。

 そして、これは高校生活の序章にすぎないということに、彼女はまだ気づいていなかったのである。



 終



女子力が半端ないフワフワな調理女子たちが、むちゃくちゃ体育会系な活動していたら嫌だなぁと思っていたら、こんな話ができてしまいましたすみませんでした。


書いてて楽しかったです。

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