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NOVA

作者: 柳 大知

『ビー、ビー、ビー、システムエラー発生、システムエラー発生、オートモードからマニュアルモードに切り替えます』


 突然の警報音が目覚ましとなり、職務中に居眠りをしていた男は飛び起き、椅子から転げ落ちた。彼がこの仕事について三十年、一度も鳴らなかった警報音が鳴ったのだからそれだけ驚くのも当たり前だ。だが、彼はすぐに立ち上がり、事態を掌握するため、目の前のモニターを見た。


(エラーコードF09、オートモードOFF)

 モニターにはこう表示されていた。


 男は頭の中から、緊急時の対策マニュアルを呼び起こす。エラーコードF09、原因は不明だがオートモードが使えず作業が止まっている状態だ。

 

「オートモードが使えない…、ということは手動で…」

 男はそう呟くと椅子に座り、マニュアル操作用のキーボードを取り出した。男が装置を手動で操作するのはこれが初めてのことである。これから行うのは簡単な入力作業なのだが、場合によってはスピードが求められるのだ。男はふと時計を見た。昼の12時。これなら慌てる必要はない、男はゆっくりと開始ボタンを押した。


『スキャン開始します』


 アナウンスと同時に画面が切り替わる。画面には一組のカップルの写真とプロフィールが表示され、その下に、

(性別=女)(知能102)(健康 78)(運 55)...

 などの様々な項目と数値、さらに(所持する才能)や(寿命)など、写真のカップルから生まれてくる子供のデータが示されていた。そして最後に、(社会への影響度)と(危険度)という項目が一際目立つ大きさで表示されていた。

 

「危険度クリア、問題無しと」

 男はそう言ってキーボードの発射ボタンを押した。すると窓の外の発射台から小さな光の粒が地球に向けて飛んでいった。


「次…、よし、発射。次…」

 と、男は作業を進めていく。


 彼が行っている作業、それは地球でこれから誕生する人間のデータの確認である。両親の能力を元にランダムで子の能力が決められる。男はそれを確認し、問題があれば修正して地球へ送り出すのだ。勿論、人の運命を決めるこの作業は普段コンピューターが行っている。男の役目はそれを監視するだけで、能力を自由に変える権限は無い。ところが今だけは別だった。


 男が手動操作を始め、ちょうど三十個めの生命を送り出した後、部屋のスピーカーから低い声が響いた。

 

「日本10号、オートモードが復旧した。原因は単純な部品の消耗だった。もうエラーはでまい、モードを切り替えてくれ」


 男は指示通りオートモードへの切り替えを行い、再び居眠りを始めた。

 

 

‐それから二十年経ったある日。


 男はとうに引退し、とあるバーで酒を飲んでいた。

 店の壁は地球でも人気の高いサッカーチームのユニフォームで飾られ、店内の大型スクリーンでは、地球からの生中継で現在開催中の世界大会を放映している。


 店の奥で若者が騒いでいる。


「俺はイタリアに20万賭けてんだ。絶対イタリアだね!」


「へっ、言ってろ、最後は結局ブラジルなのさ」

 

 そこへ男が割って入った。


「いいか若いの、今年は日本の年だ」


 男がそう言うと、店中に笑い声が響いた。


「何言ってんだよ爺さん、いくら賭けたか知らないけど、もったいねえー、金の無駄無駄!」


 だがその中で男も静かに笑っていた。


(なあに、今に解るさ、今年の日本には、わしの息子達がおるのよ)



(完)

しばらく書いてませんでしたが、急に復帰ですw

オチをサッカーにしようとはコレッポッチも思ってなかったのですが…。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白い。 思わずうなってしまった。 読み手を引き付ける起、ぴりりと絞まっている結。 この少ない文字数の中で神様……だろうか、そういった世界観を違和感なく伝える文、どれを見ても心の底から面白い…
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