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31.色白のあなた



「本日は特別講師の方にお出で頂きました」


「唐突でございますね・・・」



 わたくしの宣言を受けてアルが困惑しきりといった表情をしています。

 アルにとっては唐突でも、わたくしは先日よりずっと温めてきた案にて、少しずつ手回しもしておりました。


 まだ雪が本格的に積もり始める前、一日ほどお稽古にお休みを頂き本日お招きした講師へ承諾を得に出向いたり、渋面をお顔に貼り付けられたお父様に講師の方についてお話ししたりマックス執事長に許可を取ったりと、その日はとても慌ただしかったことを覚えています。




 今でさえロザリンデ先生を始めとした少なくない先生方にお越し頂いていますが、何ゆえここまでして新しい講師を招致したのか。


 理由はいくつか上げられますが、最も多くを占めるのは復習のために減ってしまった日課(くんれん)の時間の分を、質によって埋めるため。

 これに尽きます。


 ではどのように質を高めるかと考えたとき簡易に実行できそうだった案が、常とは異なる方から学ぶことでした。

 当然ですが基礎や普段からの訓練を疎かにするつもりはなく、いつもと違う視点による指導を受けることで普段の訓練を見つめ直したり新たな気付きを得ることこそが目的です。


 ・・・雪のせいで住み込みの先生以外は行き来が困難になり通常のお稽古の時間が減ったのに雪中行軍をアルに止められて折角できた時間すら復習に費やされているせいではありません。


 決して。



「というわけで、こちらが本日お招きした先生になります」


「カタカタ」


「スケルトンマッスルのワイトニングさんです」


「カタカタ、カタタ」



 ワイトニングさんはわたくしの紹介に合わせてその太く白い()()を強調するかのように姿勢を変えます。

 両腕を斜め上に伸ばしたまま肘を曲げ足を交差した体勢から、少し前かがみになり大きめの荷物を抱えるように腕を身体の前に持ってきました。


 いつ見ても姿勢がブレることなくきち、と美しく止まっているその身体は人の骨格を象っているものの、わたくしの知るそれよりも遥かに太く大柄です。






「・・・・・・・・・・・・お嬢様、私の悩みを聞いて頂けますか」


「なんでしょう」


「カタ」


「まず、ツッコミ所が多すぎて処理しきれません」


「あら、それは一つ一つ紐解いていけば良いのでは?」


「カッ、タリ」


 アルがツッコミ渋るなど、珍しいこともあったものです。


「別に渋ってはおりません。単にお嬢様のツッコミどころが多いのです」



 引っかかる物言いですね。



「もっと他のところで引っかかって欲しぅございました・・・」


「まぁ、引っかかったと申しますか、魔界で引っかけた過去があればこそ、こうしてワイトニングさんにお越し頂けたわけですが」


「そういうことではございません」


 では、どういう。


「然らば早速一つツッコませて頂きますが、その骨の魔物、何処から連れて来られたのですか」


「先に申し上げました通り、魔界からです」


「カタリ」


 ほら見てください、ワイトニングさんも頷いて肯定してくださっていますよ。

 そうでなくとも、ここまで骨太で大柄なスケルトンは魔界を除けば近くでは見かけたこともありませんので、元より魔界以外の選択肢はあって無いようなものですが。



「・・・いつそんなのを引っかけて来られたので?」


「比較的に最近のことですよ。まぁ、見かけるだけでしたらもう何ヶ月も前からお見かけしていましたけれど」


「カタカタ」



 そうなのです、わたくしもワイトニングさんも互いに相手を見定めていた期間があり、それぞれに敵意が無いことが分かって初めて本格的な接触をしているのです。


 なお、どちらも相手を見定める段に於いて同じゴブリンの一族から情報収集していたため、最初の邂逅は彼らに手引きして頂きとてもすんなり終わりました。



「あとその骨の種族とかお名前はいったい・・・寡聞にして存じ上げない種族なのと、どう見てもスケルトンて感じじゃありませんよね? どんなに低く見積もってもお名前の方に含まれるワイトですよね!?」


「種族とお名前は協議の結果です。あとご本人も『進化さえ経験していない自分はあくまでスケルトンでしかない』、と」


「謙虚!!」


「カタリ、カリカリ」


 ワイトニングさんが照れたように頭をかかれています。


「いや魔物がその脅威度に対して謙虚になられると人間としては判断材料が潰されるので困るのですが!?」


 ですので、せめて通常のスケルトンとは差別化を図るための種族名です。


「だからといって筋肉など欠片も持ち合わせていない相手にマッスルは如何なものでしょうか・・・」


「そこはご本人たっての希望です」


「・・・ではお名前は。これまた肌が無いのに美 白(ワイトニング)って」


「とても綺麗な白色ですよ?」


「それは否定致しませんが・・・」


「それにこちらに失礼がないようにと身体を洗ってからお越しくださったらしく、いつもよりもより白く輝く綺麗な素肌です」


「紳士!!」


「カタタ、タタタタ、タタ」


 やはり褒められて照れてしまわれたのか、今度はもじもじされています。

 ですが一つアルに訂正しなくてはいけないことがありますね。





「ワイトニングさんは女性です。間違わぬよう」


「ぇ、淑女!? あ、でも確かによく見れば骨格は女性のそれでございますね!!?」


「カタリ」






























「これは大変失礼致しました・・・」


「カタリ、カタリ」


 ワイトニングさんは気にするなと仰るように手を振っておられますが・・・アルも自分に非があればちゃんと謝罪ができるのですね。


「え、私お嬢様に謝らない系の人間に思われていたのですか?」


 はい。


「はい、て・・・」


「いつもお祖父様と言い争いをしても決して謝らないではありませんか」


「あれは私に非がございませんので。といいますか、あの変人頑固ジジイに謝罪するような言葉は私の中に存在しませんので」



 ・・・そういうことろですよ。


「カタカタリ」





いつも拙作をお読み頂きありがとうございます。

来週は諸事情により更新できないか、できても遅くなるかもしれません。


かしこ

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