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29.仕立て直し



「お嬢様、そろそろそのお召し物はきつくなられてきたのではございませんか?」


「・・・それは暗に太った、と?」



 この使用人はいつもながら唐突に失礼過ぎませんか?



「いえ、そうではなく・・・と言いますか、確かにお嬢様はお歳の割りに全身の筋肉量は多いですが、とても引き締まった綺麗な体型でございます」



 あら、それはありがとうございます。

 相手がアルでも素直に褒められて悪い気はしませんね。


 でしたら、先の罵倒はどういった了見なのでしょうか。


「そもそも罵倒ではございませんから。そうではなく、前にお召し物をお作りした時分からもうそれなりにお時間が経たれていますし、お嬢様がすくすくとご成長なされて背格好に合わなくなって来ているように見受けられる、というお話でございます」



 言われてみれば肩周りを動かす際に窮屈に感じたり、訓練着の下は裾が足りずに動いているとブーツから出てしまうこともありました。

 確かにそろそろ仕立て直した方が良いかもしれません。



「お嬢様が今着られているお召し物たちを殊の外お気に召されていらっしゃいましたのでこうしてギリギリまでお使い頂いておりましたが、流石に見過ごせないレベルでサイズが合わなくなってきておりましたもので、お声をかけさせて頂きました」


「お気遣いありがとうございます。アルの言う通りこの訓練着も、今の普段着もとても着やすくて気に入っています」



 ついでに申し上げるのであれば夜着など含め、とても触り心地が良く丈夫なため丸々一式をとても長い間使っていました。

 指摘を受けるまで大きさが合っていないことが気にならない程度には。



「そこまで使い込んで頂けたなら、職人冥利に尽きるというものでございますね」


「職人・・・つかぬことを伺いますが、わたくしの服は何方(どちら)で設えたのでしょう? 他でここまで手触りの良く頑丈な生地を見た記憶がないのですが」


 代わりに、こういった他所様で見かけない類の品に最近心当たりがあり過ぎます。



「ケイト殿のおられる服飾店で、でございます」


「あら? ちゃんとあの方のお店で設えて頂いたのですね」


 てっきり、またアルがいつもの謎の技術で作ったものとばかり。


「あ、私も作成に携わっております」


「やはりですか」


「場所はお借りしていますが、むしろ主に私が手掛けております。あ、下着などのデリケートな類のものはケイト殿にお願いしておりますのでご安心くださいませ」


 貴方はもう少しデリカシーを学んでください。





「それはさて置くにしても、この生地はやはり見た記憶がないのですがどこから仕入れたのですか」


「魔界にございます」


「出ましたね魔界の素材・・・何を使ったのですか」


「ガイアスパイダーという蜘蛛の魔物から採れる糸を使っております」


 ・・・それは奥に行くほど強い魔物が蔓延る魔界の中でも、浅層にいるような魔物ではないはずです。


 虫型の魔物はただでさえ生命力が強く厄介なところ、蜘蛛という強靭な糸を吐き毒まで操る種の中に於いて、オークやオーガという人より二周りは大きな魔物すら捕食するほどに巨大な魔物がガイアスパイダーです。

 魔界でなくともとても強大な相手にて、それが魔界に生息する種となりますと王国騎士団でも壊滅を免れない手合いなのでは・・・もしそれがこの付近まで来ているのであれば早急に手を打つ必要があります。


「大丈夫でございます、お嬢様。奥まった、人の住む領域からはとても離れた地にて、獲物と引き換えに交換してきたものでございます。私も変に魔界の縄張りや勢力図へは影響しないように配慮しております故に、ご安心くださいませ」


 まぁ、それでしたら良いでしょう・・・。



 ・・・・・・・・・いえ、待ってください。


「交換と言いましたか」


「言いました」


 採取方法が予想の斜め四十五度上です。


 ・・・ではあるのですが、まぁ魔界はゴブリンやソラのような人語を解する種族が普通に存在しますし、蜘蛛と意思疎通できてもおかしくはありませんか。


「また、その魔物から糸を頂いてくるのですか」


「はい、そのつもりでございます。生地として使うために何度か糸をもらいに行っておりますので、今回もそうしようと思っておりますよ」



「・・・わたくしたちの必要とするものを提供して頂いているのですから、お礼くらいは申し上げに参りたいところですね」


「絶対に止めてください、魔界の奥って言いましたよね私」























「しかし、生地として使うのでしたらそれなりの量になりそうですが、足りますか? いくらガイアスパイダーの体が大きいといっても吐き出せる糸の量には限度があるかと思いますが」


「そこはほら、魔界でございますから。ご多分に漏れず外の種よりもとても大きなわけで、その巨体と比べれば私達が使う程度の糸などたかが知れていますよ。何せ普通にその上で人が暮らせるくらいには背中が広かったですから」


 ・・・身体の大きさのことなのに大きい小さいではなく広い狭いの概念を持ち出すほどですか。




「量などよりも私達が使える細さに調整して糸を出すことの方が遥かに苦労していましたし」


「せめてお土産は良いものを差し上げてください」




小説情報編集していたら、カテゴリーのミステリータグにチェックが入っているのを見つけました・・・いつからチェックされていたのかまるで気付かなかった・・・


ここまで読んで頂けたらお分かりになられているかとは思いますが本作には一切合切ミステリー要素はございませんのでご了承くださいませ。


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