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3.わたくしの踏みしめるもの2



「お嬢様、そちらの靴の使い心地はいかがでしょうか?」

「非常に、とても、凄く悔しいことに・・・快適です」



 アルからとても物騒な。

 それはそれは大変に物騒な代物(りゅうがわのくつ)を受け取ってから数日が経ちました。

 

 色々と葛藤はありましたが、アルがちょっと常識を逸したものを持ち込むのもこれが初めてではありません。

 わたくしもちょっと常識を投げ捨ててこの靴を履いてみれば、アルに答えた通り非常に履き心地が良く普段使いしてしまっています。



 ・・・アルがわたくしのために、と言って持ってくるものは多くがこの調子です。

 自分の中の常識にさえ目を瞑れば、とても使い心地が良くていつのまにかわたくしの生活になくてはならないものになってしまいます・・・・・・このままわたくしの常識が気付かぬうちに書き変え塗り替えされてしまわないか、不安です・・・



「私のご用意差し上げた品がお嬢様のお役に立てているのでしたら、幸いにございます。しかしお嬢様。普段から使って頂けるのはとても嬉しいのですが、折角のダンスシューズなのですからどうせでしたらダンスにお使い頂きたく存じます」


「いい加減これをシューズと言い張るのは諦めてください。わたくしの中でこれはもう『バーストグリーブ』と命名致しました。異論は認めません」


 素材となった赤いドラゴンの皮から命名しました。

 材料となった皮の部位は尻尾の先端付近で、すぐ生えるから遠慮なく持っていくよう、仰ってくださったそうです。

 素材を下さったドラ・・・んんっ。野良ゴン様にも感謝をお伝えしたいところですが、ご本人?はお名前もお住まいも秘密だそうですのでこれはアルにお願いするより他なさそうです。


 口頭での伝言のみ、というのも失礼ですし、ここは後でお礼のお手紙を書いてアルに預けることとしましょう。

 


「おぉ。お嬢様手ずから名付けて頂けるとはその靴も果報者にございますね・・・・・・ところでお嬢様」


「なんですか?」


「グリーブという名前のシューズがあっても良いと思「いません」かそうですか・・・」



 そんなの名前詐欺にも程があります。

 ダンスシューズを注文して見た目も名前もグリーブなコレが出てきたら、そのお店とは以降の取引を遠慮したいと思うのではないでしょうか。


 え?

 アルはどうなのか、ですか?



 ・・・この人についてはもう諦めています。

 商人ではなく使用人ですし、わたくしのためと言ってわざわざ自分で色々と仕入れたり作ったりしているそうですし、何より道具に罪はありませんから。




 いいえ。アルからもらった道具を気兼ねなく使うための理論武装ではありませんよ?

 えぇ、決して。






 ・




 ・・




 ・・・





 別の日のとこです。


 また、アルに聞かれました。


「お嬢様、お身体の調子はいかがでしょうか?」

「・・・?」


 ただ、今回は内容があまりにも唐突で、最初は何を聞かれたのか分かりませんでした。

 わたくしの記憶が飛んでいるのでなければ、直前までは学習に使っている筆がへたってきたのでそろそろ買い換えましょうか、どうしましょうか、みたいな話題だったはずです。


 話題の転換が急です。

 馬車なら間違いなく転倒しているくらいには、急です。


 ですが、


「・・・・・・とても、良いですよ」


「それは良うございました」




 そうなのです。

 最近とても体が軽くて、疲れにくくなってきたのを実感できる程です。

 これが体力が付いてきた、ということなのでしょうか?

 ちょっぴり嬉しく思います。


 あ、あとはアルから渡されたグリーブのおかげもあるかもしれませんね。

 靴はとても大切なもので、自分に合った良いものであればそれだけで動きが良くなるとお父様から伺ったことがあります。


 しかし、です・・・



「何故突然、そんなことを?」


「いえ、大したことではないのですが、お嬢様がそちらのお履きものに名付けをしてくださったではありませんか?」


「バーストグリーブです」


「はい。それでですね、その靴も名前を付けて頂いたことで一層のこと赤龍の加護が安定してきた頃合いではないかと思いまして」


「・・・はい?」



 とても誇らしげな顔で何かおかしなことを言い出しましたねこの使用人は?



「わたくしの聞き間違いでなければ、加護、と言いましたか・・・?」


「はい。バースト・ダンサーズ・グリーブの材料に使っ」

「願望を混ぜたミドルネームを勝手に付けないでください」

「どんなときでも信念(ツッコミ)貫く(わすれない)お嬢様は素敵です」


「説明」

「はい」


「提供頂いた皮に加護をもらっておりまして、加護に認められれば僅かながら龍の力を借り受けることができるとか。お嬢様にお渡しした段階で間違いなく加護が発動したのは見て分かったのですが、どうも伺っていた話よりも弱々しく、揺れているとでも表現すれば良いのでしょうか。そんな、酷く不安定な状態でした」



 ・・・・・・・・・様々な意味で頭痛がしました。


 加護の存在そのものは、わたくしでも知っています。

 それは大きな力を持つ存在より与えられるもので、有名なところで神様や天使様。

 悪い意味で有名なものとして悪魔や魔神といった存在からも授けられることがあるとも。


 加護が持つ力も病気になりにくくなるという身近なものから、果ては本来なら人には扱えないような規模の魔法が使えるようになるものまで、その種類は万にも及ぶと言われています。


 そして、どう考えてもアルの言う赤龍の加護は後者寄り。

 最近体の調子が良かったのは体力がついたからではなく、単に外付けの(加護)にフォローして頂いていたからという・・・



「わたくしの成長の喜びを返してください」


「え~っと・・・お嬢様はまだこれからが成長期では?」


「そういう意味ではありません」


「それにほら、ようやく安定した加護もこれからが成長期でございますし、一緒に大きくなって行きましょうっ!」


「え、この加護育つのですか・・・?」
























「大体がです」


「はい」


「何故、このような加護を賜れたのですか」


「いえ、素材を下さったときにお願いしたらあっさり付けてくださいましたよ?」


「・・・」



 ・・・あなた、提供者の名前は隠しても正体を隠す気ありませんね?


野良ゴンさんの鳴き声はきっと『ドぅぉラぁーーーーっ!!!』とか。

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