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22.後始末諸々とお茶


「・・・と、いうわけでして。先程フロイアー伯爵様・・・貴方のお父様に事のあらましをご報告するのと、こちらで分かっているクラウディアス領での被害状況などをまとめた書簡をお渡ししてきたところで貴方に捕まりました」


「お疲れ様。ていうか、あなたまた盗賊の討伐なんかについてったの?」


 わたくしの心ばかりの抗議は主犯によるお疲れ様の一言でさらっと受け流されました。

 目の前の友人のこの対応はいつものことですが、もう少しばかり心ある対応を要求致します。



 しかしながらついて行った、とは心外です。

 クラウディアス侯爵家の者として状況を把握し、伯爵様へご報告差し上げるという役目を帯びて“参加”したのです。


 何より・・・


「討伐そのものにも、きちと参加して参りました。ついて行ったという表現は些か不適切かと存じます」



「いやついて行ったよりよほど問題だわよ・・・」





 盗賊の討伐及び捕縛も成り、わたくしたちは今隣領の領主館まで来ております。

 捕縛までの日数も含めると六日かけ、途中からはフロイアー伯爵領の兵士の方々も同道頂いた上で領主館まで賊共を護送して引き渡し、わたくしは兵士の一部を伴い領主たるフロイアー伯爵様へとご報告に上がった次第です。

 いくら自領で捕縛ができず隣領(こちら)まで被害が出ていたからとて、捕まえてさぁお終い、とは参りません。


 法的処罰は盗賊が主立って活動していたフロイアー領にて執り行われるべきです。



「や、そこについては真面目に感謝してるわ。うちじゃあ尻尾を捕まえたと思った途端に逃げられての繰り返しで、正直もう士気がガッタガタでさあ・・・諦めるつもりは微塵もなかったけど、それでも良くない流れになってたのは確かだったし」


「そちらのお力になれたのであれば、何よりですわ」


 思い返してもみれば、確かにそれなりの期間に渡り蔓延っていたと記憶しております。


 今ほど大きくなる前からの被害も合わせれば、恐らくは二年以上・・・被害も行商から小さな村を襲ったかと思えば、時には街に入り込み大店への押し入りまで。

 領主側が手を打たないわけがありません。


 しかしそれでもしぶとく活動していたのは偏にその勘所を抑える手腕の冴えと、逃げ足の早さによるところが大きいように思われます。



 ・・・とはいえ、です。

 クラウディアス家の兵士から逃げるには、何もかもが足りていません。


 個々の戦闘技術。


 判断力、即応力。


 連携。


 生き汚さ。


 相手を屠るという強い意志。


 相対していたときより感じてはいましたが、どれを取ってもクラウディアス領内であれば落第点、連日の魔界巡回当番(とっくん)不可避です。


「その落第連合に毎回逃げられてた私たちが泣きたくなるからやめてよ・・・」


「今回に関して申し上げるのであれば、相手の頭を張っていた人間が切れ者だったことと、相性もありますから。フロイアー家の兵士の方々の練度が低いわけでは決してないかと」


「相性ねぇ・・・」


 わたくしたちは普段から魔界の魔物と遭遇する機会が少なくありませんが、その全てと戦闘になっているわけではありません。

 近いようで遠い過去に王国軍が魔界に押し入り壊滅したお話を教訓とし、人の生活圏への魔物の進出を防ぐと共に、逆に魔物の生活圏を犯しすぎないよう細心の注意を払って魔物たちと戦っているのです。


 ある一定の領域を堺に、こちらからは決して仕掛けず、対して相手がその領域を侵犯すれば逃がすことなく仕留めることを徹底します。


 何故ならば、逃げた先にいる仲魔を呼んで逆撃に出られる可能性があるため。



 そうなれば一人ひとりが精鋭たるクラウディアス領の兵士とてただでは済まない事態となるため、逃げる相手も・・・いいえ、そういった手合いをこそ徹底的に叩きます。

 そうしてそのような逃げる魔物の中にはときに本体と寸分違わぬ分身体を発生させたり分裂したりといった手段にて一度に複数方向に逃走するようなものまでいるのですから、人が少し誤魔化したり隠したりした程度ではクラウディアス領の兵士の追跡の目は誤魔化せません。


 ・・・ソラのときは例外です。

 ソラを見失ったあとは怪我人や護衛対象を抱えたまま、それでも可能な限り探索を続けましたし、翌日にソラが姿を現さなければ早朝より探索隊が繰り出す予定となっておりました。



「いや、相性云々とか抜きにしてもあんたんとこはやっぱ頭おかしいって」



 頭おかしいは暴言が過ぎます。



「いいえ過ぎません〜。あなたの後ろの光景見たら誰だって同じ感想くれるって、絶対」



 そう言い、行儀悪くも彼女の指差す先に目を向ければ・・・・・・ソラがいます。


「ソラの存在を頭おかしいなどというのは流石に失礼ですよ」


「確かにソイツの存在そのものも頭おかしいと思うけど、私がさっきおかしいって言ったのは主にあなたの頭よ。そんでそれをナチュラルにそこの魔物のことと捉えたあんたのがよっぽど失礼だわ」


「あら・・・? 指を差されたのでソラのことかと。ですがそこまで仰るのでしたらどう頭がおかしいのか、教えてくださいな」


「本気で言っる?」


「はい」


「はぁ〜〜ぁあ〜〜〜〜〜・・・マジかぁ・・・」


 深い溜め息を絞り出すように吐き出し、目頭を抑えたまま固まってしまいました。

 ・・・テーブルに肘をつくのは行儀が悪いですよ。



 コポポポ――


 彼女が一時停止してる間に、ソラがお茶を淹れ直してくれます。


 ・・・・・・良い香りです。

 練習の成果が出てきましたね。



「それ!! まさにそこっ!!!」


 そうしてお茶の香りを楽しんでいると復活した彼女が目を見開いて力の限りツッコんできました。


 今、どの辺りにツッコミの要素があったのでしょう・・・?


「不思議そうに首傾げるんじゃないっ、徹頭徹尾全天周囲上下左右っ、どこから見てもおかしいでしょ!? なんでクソデカイ魔物が使用人みたいなお仕着せ着てワゴン押してきてお茶淹れてんのよ!!! しかもなんか様になってるし!」


「できることを熟してもらっているだけですよ? それに様になっているのは日々の練習の賜物です」


 それにこれは適材適所です。


「不適材不適所よっ! どう贔屓目に見たって戦闘職が一番の適所でしょうがっ」



 これが他家であればその考えで間違っていないのでしょう。


 しかしながら我が家は魔界と隣り合わせにて、使用人の雇用条件として戦えることが必須となっています。

 メイドや執事はもちろん、庭師や料理人まで皆何かしらの戦闘技能を備え、雇用後もその術を磨き続けるべく日々の仕事の合間を縫って訓練に励んでいます。


 そうして侯爵家を守る最後の砦とでも言わんばかりに戦闘職よりも強い方々がアルを筆頭として何名か・・・いえ、何名もいらっしゃいます。



 つまり。


「ソラには元より高い戦闘能力があるわけですから、通常であれば並行して更なる戦闘訓練も必要なところを、その時間分も使用人としての仕事の練習に充てられています。これを適材適所と言わずして、何と申しましょう」




「だから、頭おかしいって申してんだって」








































「まぁでも、こんな化け物みたいな魔物がいたんなら、そりゃ盗賊なんて相手にもならなかったでしょうね」


「いませんでしたよ?」


「は?」


「ですから、ソラは討伐にはついてきていません」


「え・・・は、え? じゃ、じゃあなんでここにいるわけ?」


「ここへ向かう前に捕縛完了の一報を伝えるため、我が家へ伝令を向かわせましたから、それを聞いて給仕の仕事をしようと追ってきたのではないでしょうか・・・あ、ほら頷いています」


「・・・なんでそれであなたたちと同じタイミングでここに着いてんのよ・・・」


「ソラは足が早いですから」


「早馬乗り継いだって四日はかかる道程を推定一日かかんないで踏破って・・・しかもそれで持ってきたのがワゴンとティーセット・・・やっぱどっちも頭おかしい・・・・・・」






初登場の友人、伯爵令嬢の彼女は例よってまだ名前が決まっていないのです・・・


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