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20.最近の若い者の考えることは


まだちょっと不審者のお話です。




「ですので、彼の黒い全身鎧・・・そうですね、本人の名乗りも尊重して自称執事(仮)を盗賊の捕縛に加えてみてはどうでしょう」


「ふむ・・・」



 妙なテンションのアルが静かになるのを待ち、わたくしはお父様に冒険者組合での出来事を報告に上がりました。

 また、合わせて一つ提案をさせて頂いております。


 その提案が先に述べた黒鎧の自称執事(仮)を取り立てては如何か、というものです。


 その心根は悪しからず、戦闘能力は分かる範囲でもかなりの実力を有しと、最低限以上の好条件を備えています。

 最終的には侯爵家にて雇い入れることも考えて良いかもしれませんが、まずはもう少し近くで為人を見る機会を設けるのが先と思ったが故のこの度の進言です。



 盗賊については冒険者組合で伺ってきた内容ではありますが、元よりこちらでも把握はしていたこと。

 ただ、活動していた範囲が隣の領内であったため下手にこちらから手出しはできませんでした。


 ですが極最近になり我がクラウディアス領内にまでその魔手を伸ばしてきた、というのが組合で仕入れた情報になります。

 当然、お話の出所の確認と裏取り・・・あとは必要そうであれば証拠の収集(でっちあげ)など・・・も必要ですが、それでもこちらが手を打てる目が出てくれたのは重畳です。



 なればこそ、折角のこのこと姿を表した獲も・・・こほんっ、折角の機会ですから(かね)てより考えていたことを提案してみました。



「そう・・・だな」



 しかしお父様の反応は今一つといったところ。

 眉間に皺を寄せられ、難しいお顔をされています。


「何かご不安に思われる点でもありましたか?」


「いや、俺もその者のことは知っているが・・・まあ、どうしたものかと思ってな」


「と、申しますと?」


「・・・ふむ、まぁなんだ。こちらから打診だけはしておこう」


「あら、お父様はあの黒い方との伝がおありで?」


「いや、あくまでも会えたらの話だ」


「そうですか・・・」


 それは残念です。

 既知を得られているのであれば、お手合わせのお願いもし易かったのですが。

 それでも提案を飲んで頂けたのは僥倖です。


「とりあえずは、だ。そっちは俺の方で動いてみるから、リュミエールは気にしなくて良い」


「はい。お願い致します」


「他に何かあるか? なければ、もう下がって良いから少しでも休め。そろそろイーギスが来る頃だろう」


 イーギスは魔法の先生のお名前です。

 そうですね、時間があるならもう少し前回の内容を復習しておきたいです。


「では、失礼致します」


「おう、頑張れよ」


「はい」


 最後に激励を頂き、お父様の執務室を後にしました。





    ◆ ◆ ◆




「では、失礼致します」



 そう言って下がろうとする(リュミィ)に一声だけかけると、向こうからも短く返答があり、そのまま退室していった。



「・・・はぁ」


 そして思わず溜め息を付く。

 いや、別に娘と話すのが嫌なわけじゃない。

 それは断じてない。


 なんてったって、長女(リュミィ)は、そして次女(クリス)も可愛い可愛い愛娘たちだ。

 自分から会話しに来てくれるのが嬉しくないわけがない。

 ・・・・・・例えそれが仕事的な内容であったとしても。



 あ? 長男(フィリオ)


 男は良いんだよ。

 それにどうせ跡継ぎだから領地のこととか、仕事の諸々を引き継ぐのに嫌でも会話の機会は増えてくんだから。


 今はそれよか娘のことだ。

 昔はそれはそれは活発で、常に動いてないと気が済まないのか、とにかく元気に走り回って笑顔を振り撒いてた。

 そのまるで太陽みたいな様がまた可愛いのなんのって!


 ・・・しかしいつの頃からだか、可愛いのは相変わらずだが考え方とか行動とかが、こう、女の子らしからぬ方向に舵を切り始めた・・・貴族としての振る舞いを学んだせいか、笑い方が大人しくなり、楚々と微笑むようになったのは分かる。

 所作も様になり、既に貴族の集まりに出たって何の不足もないくらいだ。


 が、身を守るために必須とはいえ戦う術を学ぶことに滅茶苦茶積極的で、通称魔界と呼ばれる魔物の領域への見回りや盗賊の捕縛なんかに自ら参加したり、その中で蹴り飛ばした(これもどうかと思う)クソデカイ魔物を飼い始めるわ、その魔物に使用人の真似事をさせてみたりと、色々上げ始めればキリがない。


「なあ、どう思うよアルフレド?」


「それこそがお嬢様の個性でありますれば、お認めになって差し上げることが肝要かと。貴族のご令嬢として見るならば、まぁ、少しばかり過激かとは存じますが、立ち居振舞いそのものはご年齢に見合わずとても洗練され、日頃の戦闘訓練の甲斐もあり姿勢もとてもお美しくありますから一概にも悪いこととは言い切れませんし」


「だからなんでお前さん即答してくる。つい今しがたリュミィと出てったよな?」


「私は使用人にございますれば」


 使用人にそんなスキルはねーよ。


「まあ、今に始まったことじゃあねぇし、置いとくが。それよりご指名だぞ、黒い執事殿」



 俺はそこでいつの間にか後ろに立つ使用人を振り替える。

 要するに、リュミィから聞かされた自称執事はこの神出鬼没な使用人で、俺はそのことを知ってるわけだ。


 さっきはニヤつくのを抑えるのが大変だった。

 なんせ娘がやたら褒める謎の男本人が自分はまるで関係ないとでも言うように何食わぬ顔で後ろに立ってるんだもんよ。

 俺は途中で暴発しなかった自分をこそ褒めてほしい。

 

 

「はっ。お嬢様のご指名とあらば例え火山だろうが魔界の奥地だろうが、お供致します」


「・・・お前さんとあの鎧なら誇張ではなく、そんくらいできそうだな」


 こいつも大概強いが、あの黒い鎧も酷いもんだ。

 染色も込みで、材料全てが魔界産らしいしな。


 ・・・ぶっちゃけ俺も欲しい。

 

 今度頼んでみるか・・・。



「ま、とにかくまずは盗賊の件だ。着いてくるかは任せるが、早めにき「行きます」・・・明日か明後日には出るから準備だけしとけ」


「御意にございます」

































「ところでお前さん執事になりたいのか?」


「いいえ全然」


「じゃあなんで執事(バトラー)名乗ってんだ?」


「語呂が良く格好良いではありませんか」


「・・・・・・・・・え、それだけ?」


「それ以外に何がございましょうか?」


「・・・」





お気付きだろうか・・・・・・・・・




お父様=クラウディアス侯爵の名前が一度も出てきていないことに・・・


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