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転生令嬢の異世界愛され生活〜ご褒美転生〜  作者: 翡翠
第十四章 勘弁してください
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6

 お店はお昼少し前ですが、ほぼ席が埋まっている状態でした。

 お婆様がお一人で忙しそうに右に左に、無駄のない動きで働いておられます。

 それを見てキース様が「婆さん、まだまだ長生きしそうだな」と仰れば、鼻でフンッと笑われて。

「当たり前さね。馬鹿言ってねえで、さっさとあそこに座んな」

 両手一杯に食器を持ったお婆様が、顎で指した方にひと席だけ空いたテーブルがありましたので、私達はそちらに移動して席に着きました。

「相変わらず汚いけど綺麗だよね」

 リンちゃんの言葉に、澄ました顔でウィリアム様がツッコミます。

「それを言うなら『古いけど綺麗』が正しいかと」

 リンちゃんはムウッと頬を膨らまして、ウィリアム様の足の脛を蹴り上げます。

「痛っ。そうやって直ぐ足が出るのは昔から変わりませんねっ」

「つーん」

 と言ってソッポを向かれるリンちゃん。

「どうでもいいけど、さっさとメニュー決めて注文しなくていいのか?」

 キース様の言葉に皆んなで真剣に何を頼むか考えます。

 こちらの魚の煮付けは絶品ですし、角煮も口の中でお肉が溶けるほどトロトロとしていて、ご飯がとても進みます。

 八宝菜の黒酢あんも、回鍋肉も、エビチリも。

 何を食べても「美味しい」の一言しか出て来ません。

「カレンは何と迷ってるんだ?」

 キース様が頬杖をついて、柔らかな笑顔で聞いてきます。

 最近のキース様は、この表情で私を見ていることが多い気がしますが、何だか小さな子供を見守る親という構図に似ている様な気がするのは、気のせいでしょうか?

「魚の煮付けと八宝菜で迷っているのですが……」

「ウィルとリンは決まったのか?」

リンちゃんは「角煮と八宝菜で迷ってる」そうで、ウィリアム様は「そうですね、ミックスフライと刺身盛合せのどちらかにしようと思ってますよ」とのこと。

「じゃあ、全部頼んでシェアしようぜ」

 キース様の言葉に、皆異論はありません。

 ウィリアム様がバッグからメモとペンを取り出し、注文するものを記入します。

「お~い、婆さん。これよろしく」

 キース様が記入しましたメモ紙をヒラヒラと振っております。

「あいよ、ちょっと待ってな」

 お婆さんはキース様の手からメモ紙を抜き取り、奥の厨房へと向かわれました。

「お~い、婆さん。勘定してくれや」

 お食事の終わったお客様が会計の為にお婆様に声を掛けますが。

「今手が放せんから、テーブルの上に置いといておくれな」

 と、お婆様の声だけが聞こえます。

「いつも思いますが、このお店は食い逃げ可能なお店ですね」

 ウィリアム様が苦笑されております。

 安くて美味しいと評判のこのお店はいつ来ても客足が途絶えることなく、お婆様はいつ休憩されておられるのでしょう?

「セルフサービスにされたら、もう少しお婆様も楽になられるのではないでしょうか……」

 思わずポツリと呟きました私の言葉に食いつかれましたのは、ウィリアム様でした。

「カレン、そのセルフ何とかとは、一体何のことですか?」

 ……うっかりでした。この世界にはセルフサービスはまだありません。

 まあ、人様に迷惑をお掛けするようなことではありませんので、秘密にすることなく簡単に説明を致します。

「セルフサービスとは従業員が業務として行うことを、一部顧客自らが行うことを言います。例えば飲食店でしたら、お水やお絞りをカウンターなどの決まった場所に配置しておき、お客様自身に取りに来て頂きます。食事が終わりましたら、決まった場所にお皿やコップをお客様自身に運んでもらいます。これだけでお店の方の負担はかなり減りますので、少ない人数でお店を回すことが可能です」

 説明を終えた所でウィリアム様の方へ視線を移しますと、新しいおもちゃを目にした子どものように、目がキラッキラされております。

「高級店では導入出来なくても、カジュアルなお店ならば。セルフサービスを導入することにより人件費が減らせますから、それによってお客様にも安く提供出来て集客率もアップする……と」

 あぁぁぁ、ウィリアム様の商人スイッチを入れてしまいました。

 私はただ、お婆様の負担が少しでも軽減されたらと思ったのですが……。

 そんな思いが顔に出ていたのでしょうか?

「ウィル、そういうのは帰ってからにしろ。カレンだって、婆さんを思って考えたことなんだしな」

 キース様が私のかわりに仰って下さいました。

 ウィリアム様はバツの悪そうな顔をされて。

「失礼しました。つい商人目線で見てしまうのは、もう癖の様なものでして。後でお婆さんに提案してみましょう。いつまでも元気で美味しい料理を提供して頂きたいですからね」

 そうこうしているうちに、お婆様が出来立ての料理を次々と運んで来られます。

 どれも素晴らしく美味しそうです。

 運び終えるとお婆様は、注文を取ったりお皿を下げられたり、厨房へ向かってまた料理を作られたりと、息つく暇もない程働かれております。

 美味しい料理を頂きお腹も一杯になり、満足してお会計を……と思ったところで、招かざるお客様が店内へと入って来られました。

 昼間から顔を真っ赤にされ、足取りも微妙にフラついており、既にかなりの量のお酒を呑んでいることが分かります。

「おい、ババア。さっさと酒とツマミ持って来ぉい!」

 大きな声でそう言いながら、現在満席の店内をフラフラと歩き回りはじめました。

 皆様顔を(しか)めながらも面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁とばかりに、酔っ払いな彼と目を合わせないようにされております。

 厨房からお婆様が出て来られました。

「ふん、お前みたいな奴に出す酒もツマミも此処にはないね。ほら、商売の邪魔だ。さっさと帰れ!」

 左手に抱えた塩の壺に右手を突っ込み、掴んだ塩を酔っ払い目掛けて投げつけます。

 とてもお婆様らしいといえばそうなのですが、酔っ払いの顔がみるみる怒りで赤くなって……。

「こんのクソババア」

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