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「……仕方ありませんね。では私とキースが先を歩きますので、リンは殿でお願いします」
「ん、分かった」
リンちゃんはホッとした顔をされた後。
「けど、何でそんなに蜂の子回収したがんの?」
あ、私もそれを伺いたかったです。
ウィリアム様はニッコリと爽やかな笑顔を浮かべられました。
「実はお酒に入れて虫酒として販売しようかと」
恐ろしいことを口にされました。
「ウィル、あんたって……あ~、うん。もういいや」
リンちゃん、何と無く言いたいことは分かります。
流石はウィリアム様というか、ブレない商人魂と申しますか。
その後直ぐに注文した食事が運ばれて来たのですが、私もリンちゃんも一気に食欲を無くし、半分ほど残してしまいました。
料理を作ってくれた方には大変申し訳なく思います。
デザートも頼む気力がなく、カフェでなくてもよかったのかな、と。
明日の依頼に備えて、今日は早々に解散となりました。
「……こんなに後ろ向きな依頼って、初めてかも」
「そうですね……気が重いです」
部屋に戻りながらリンちゃんと二人肩を落とし、大きな溜息をつきつつ部屋の扉を潜りました。
「「はぁ……」」
私とリンちゃんのあまりのテンションの低さに、アルとエテルノさんが心配されております。
『カレン、帰って来てから溜息ばかりなのだ。大丈夫か?』
『主、体調でも悪いのかの?』
さくらもチイチイと私の肩に飛んで来て、頬に顔をスリスリと心配してくれているようです。
「心配ありがとうございます。体調は大丈夫なのですが、明日のギルドの依頼を思うと……」
「「はぁ……」」
リンちゃんと二人、溜息しか出ません。
『主、明日はやはり儂らも着いて行った方が良いのではないかのう?』
「いえ、大丈夫です。さくらに付いていてあげてもらえますか? 何かあればお呼びしますので。今回はそんなに難しい依頼ではないのですが、あまりにも目にしたくないものがありまして……」
そこへマリアが晩御飯の支度を終えてやってきました。
「カレン様が目にしたくないもの……もしかして芋虫、ですか?」
「いえ、蜂の子です」
リンちゃんが無表情で答え、先程のやり取りの説明を始めました。
「……蜂の子のお酒、ですか。一部のマニアにはウケそうですね」
マリアは微妙な顔をしてそう言うと、何処かから風呂敷のような物を二枚持って来ました。
「これを上に掛けてもらえば、直接目にしないで済むのでは?」
その手がありましたっ!
「「マリア(さん)、ありがとう(ございます)!!」」
リンちゃんと「良かった良かった」と言い合いながら、マリアの美味しい晩御飯をいただきます。
先程までの低いテンションは何処へ。
お昼ご飯があまり食べられなかった分、晩御飯はお代わりまでしてしまった私たち。
その後ゆっくりお風呂へ浸かり、いつも通り部屋のベッドに入り本を読み、アルにエテルノさんにさくらへ「お休みなさい」を言って就寝。
明日も無事に何ごともなく過ごせますように……。
◇◇◇
八時五分前に部屋を出ましたが、ロビーには既にキース様とウィリアム様の姿がありました。
「「おはよう(ございます)」」
キース様たちが腰掛けられているソファーへと近付いて行きます。
「おはようございます」
「はよ」
ウィリアム様が立ち上がり、キース様も立ち上がると、私の頭を撫で撫で。
リンちゃんとウィリアム様はいつものことというように、スルーされて。
「行きますか」
「行こ行こ」
お二人でサッサとロビーの自動ドアから出て行かれてしまいました。
キース様は慌てる風もなく私の手を取り「行こう」と歩き出しました。
初めてパーティーを組んで依頼を受けました時は、西門から出て行きましたが、今回は南門から出て行きます。
向かうはBランク以上の魔物の生息地となっている『陽炎の森』です。
名前の由来は不明で、いつからかそう呼ばれるようになったらしいとのこと。
森の中心部に向かえば向かう程、高ランクの魔物が生息しております。
キラービーは単体では討伐ランクBですので、森の入口から2キロ以内が彼らの行動範囲内となります。
それより内側(奥)に入りますと、彼らは途端にただ捕食されるだけの存在となってしまうのです。
森の奥に入り過ぎないように気を付けながら、キラービーの巣を探します。
キラービーは日差しの届かない大木のうろや、洞窟の中に好んで巣を作ります。
そういった場所を探しながら歩いておりますと、先頭を歩いておられますウィリアム様が、突然ピタッと足を止められました。
振り返るとニッと笑って。
「見つけました」
と、小声で仰いました。
思わず心の中でキラービーたちに「御愁傷様です」と手を合わせてしまいました。
だって、ウィリアム様の笑顔がちょっと……いえ、だいぶ怖かっ……何でもありません。
ウィリアム様は新しい商売になりそうな物を見つけた時など、まるで子供のように楽しそうにされる姿をよく拝見します。
それと同時に何か悪そうな笑顔も……。
思い出したくもない、「虫酒」が彼をあの笑顔にさせているのですね、はぁ。
私達は巣が目視出来、キラービーに気付かれないギリギリの所から様子を伺います。
「そこそこの大きさの巣のようですね」
ウィリアム様の言葉に皆が頷きます。




