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グッスリ眠っていたはずの先生は椅子から転げ落ち、かなり慌てたご様子。「な、な、なん……」
リンちゃんは悪い笑顔のまま。
「先生どうしたの~? いきなり椅子から転げ落ちて。悪い夢でも見てた?」
それにウィリアム様も便乗されました。
「先生が転げ落ちるほどの夢とは、気になりますねぇ」
二人とも、とっても楽しそうですね……。
とても息のあったお二人だと思います。
「お前ら、何で知ってんだよ!」
「いいえ~、私は何も知りませんよ~」
「僕も知りませんねぇ」
先生は苦虫を噛み潰したような顔をされております。
「黙っとけよ」
「「は~い」」
そして先生は私とキース様の方に目線を向けて。
「こいつらが知ってるってことは、どうせお前らも知ってんだろ? お前らも黙っとけよ」
「はい」
キース様は返事はしませんでしたが、片手を上げて了解の意を表しました。
改めて、ヴァイス先生に依頼書を提出し、先生が内容を確認されております。
「ふ~ん、お前らキラービーの巣の破壊を選んだのか。ま、大丈夫だろ」
と言って依頼書をウィリアム様に返されます。
「今日はもう帰っていいぞ。明日の支度でもしとけ」
と、犬猫を追い払うように手首を振り、倒れた椅子を起こして座られました。
リンちゃんがムッとして頬を膨らませるとウィリアム様が悪い笑顔で仰います。
「さ、帰りましょう。先生はこれから夢の中で愛しい愛しい彼女との逢引き予定のようですから、お邪魔しては悪いでしょう?」
と。リンちゃんは一瞬考えてから吹き出しました。
「ははは、そうだね。先生、お邪魔しましたぁ」
と手を振って、ウィリアム様と教室を出て行かれます。
先生は真っ赤になり「なっ、おまっ」と言葉も出ない様子。
その隙にキース様は私の手を引き、リンちゃん達とは違う扉から教室を後にしました。
少し離れたところでリンちゃんとウィリアム様が私達を待っていて。
「ねえねえ、お腹空かない? お昼ご飯、食堂とカフェのどっちにする?」
すっかり機嫌の直ったリンちゃんの問いかけにキース様が甘い笑顔を浮かべられました。
「カレンの行きたい方に合わせる」
……キース様は、私を甘やかし過ぎだと思います。
◇◇◇
ただいまカフェに来ております。
寮の食堂は洋食のみで、デザートはありませんので。
席に案内され注文を終えると、話は自然と明日の依頼の話になりました。
「明日は八時にロビー集合にしましょう」
ウィリアム様の言葉に皆が頷きます。
当日は現地へ直接向かい、依頼を終えたらギルドで手続き、証明書の発行をして頂き、それを持って学園に提出した者から帰寮出来ます。
キラービーの巣の破壊であれば、お昼頃には帰って来られるのではないかと思われます。
キラービーの巣は、蟻塚に似ています。
蟻塚は地中から地上へ小高く盛り上げて巣を作るのに対し、キラービーの巣は地上に小高く盛り上がったものが巣となります。
ようは目に見えている部分のみが巣ということになります。
キラービーの巣を破壊するには、入口を塞いで火属性でキラービーごと焼却するやり方と、水属性で巣を囲いキラービーを討伐後に巣を解体するやり方などが一般的です。
火属性でのやり方ですと、キラービーの針はギルドへの証拠として提出出来ますが、売り物にはなりません。
当然毒も回収出来ませんので、巣の破壊依頼分のお金しか手に入れることは出来ません。
水属性でのやり方ですと、針と毒の回収が可能ですので、依頼分のお金にプラスして針と毒のお金を得ることが出来ます。
ですので、水属性のやり方を選ぶ方が殆どです。
「巣の破壊の仕方だけど、水属性系のやり方で針と毒を採取しようと思いますが、それでいいですか?」
「賛成」
「いいんじゃね?」
「はい」
「水属性のやり方をそのままでやっても良いのですが、今回カレンがいますから。折角ですから、蜂の子の回収もしませんか?」
蜂の子。それは一部の方々の間で珍味として知られております。
その中でも長期の旅に出られる方に、貴重なタンパク源として好まれているそうですが。
……体長20㎝程の蜂の子、つまりは幼虫なわけで。
それを生きたままギルドまで運ぶわけで。
「「勘弁して下さいっっ!!」」
リンちゃんと二人、真っ青になりながら拒否の意を示しました。
私もですが、リンちゃんも芋虫系の虫が大の苦手です。
けれどもウィリアム様は諦めがつかないらしく。
「それならば、僕とキースで蜂の子を運びますので、針と毒をお二人で運んで頂くのはどうでしょう?」
と提案されてきました。
……ウィリアム様の中ではもう、蜂の子回収は決定事項なんですね。
「……あの、回収後はお二人から少し(?)離れて歩いても?」
キース様は大好きですが、それとこれとは話は別ですっ!
絶対に近寄りたくはありません。
リンちゃんも激しく首を縦に振られています。




