1
「は? 見合い?」
俺ヴァイス・オーランドは今、学園長室の革張りのソファーに座り、目の前にいる学園長から何故か見合い話をされている。
さっきまで俺は、いつも通りに職員室で資料の整理をして、明日の準備が終わればさっさと帰るつもりでいた。
そこをいきなり呼ばれたのだ。
目の前のこいつ……いや、学園長に。
その瞬間『俺何かやらかしたっけ?』と物凄く焦ったのだが。
いつまでも待たせる訳にもいかず仕方なく学園長室に行ってみれば、何故かソファーに座らされ、お茶にお菓子が出て来て世間話を聞かされて。
何なんだ? 一体。
何か面倒なことでも俺に押し付けようってか?
俺はさっさと帰りたいんだが。
ついイラッとして。
「で、俺に何の御用で?」
と言ってしまったのは、仕方のないことだろう?
目の前の学園長はコホンと咳払いを一つして。
「君に会って欲しい女性がいるんだよ。ま、一言で言ってしまえばお見合いというやつだ」
と宣ったのだ。
「すみませんが、他の先生を当たってもらえますかね」
……多分ダメだろうけどな。
ダメ元で言うだけ言ってみた。
学園長は右の眉をピクッとさせて、目以外は笑顔で。
「見合いの日時だが、今度の週末十二時にCIELというレストランを予約しておいた。新しい店の様だが、今若者に人気らしい。費用はこちらで持つから、楽しんで来てくれたまえ」
おい、俺の台詞は完全に無視かよっ!
ちきしょう、週末はのんびり適当に過ごそうと思ってたのによ。
あの顔は「行かなかったらどうなるか分かっているな」ってやつだろ?
「分かりました。行きますよ、行けばいいんだろ」
渋々了承すれば、今度は目元も笑顔で「そうかそうか、行ってくれるか」だと。
無理矢理行かせるんだろうがっ! ったく。
「けど、何で俺なんですか? 他にも独身の先生はいるでしょう?」
「ん? まあ、いいじゃないか。他の先生には次の機会にな……」
さっきまでは強気に押してきた癖に、妙に歯切れの悪い返しだな。
……こいつもオーランド家とのパイプ狙いか?
フン。なら、それ相応の対応をさせてもらうさ。
見合い当日。
断る前提で行くにしても、学園長の紹介だ。
適当な服ではなく、それなりの服を着ていくべきだろう。
仕方なく身形を整え支度する。
激しく行きたくないと思いながらも、仕方なく家を出た。
「仕方ない」ばかりを連発しているが、それだけ行きたくないということだ。
十二時五分前に店の前に到着。丁度いい頃合いだろう。
もし相手がいない場合、十分待って来なければ帰ってしまえばいい。
そんな風に思って店の扉を潜ったのだが、どうやら相手はもう到着していたようだ。
「すみません、お待たせしてしまったようで」
待ち合わせの時間より少し前だが、待たせたことに変わりはないしな。
相手の女の前に腰掛ける。
「本日はお忙しいところお時間を作って頂いて、ありがとうございます」
少し高めの柔らかな、耳に心地の良い声が聞こえた。
この声に喋り方は嫌いじゃない。
寧ろ好きな……って何を考えてるんだ、俺は。
断ることを前提に来てるんだろうが。
「いや、こちらこそ、ありがとう、ございます」
動揺して、カタコトの変な話し方になっちまった。
「リリスと申します。よろしくお願い致します」
目の前の女は綺麗な所作で頭を下げた。
「ヴァイスです。よろしくお願いします」
女にならって、俺も軽く頭を下げる。
見た感じ特に可もなく不可もなくと言った感じの容貌。
こじんまり(背が低いと言いたいらしい)としていて、特に華やかだとかではないが、この女の纏う空気というか、雰囲気? が、とても優しいというか、落ち着くというか……。
「ヴァイス様、お飲物は何がよろしいですか?」
と、さり気無くメニューを俺の前へ差し出された。
自然な流れでやっているので、普段から気の回る女なのだろう。
「じゃあ、食事も一緒に注文してしまいましょう」
と、飲み物と食べ物を高めの物から選んで、メニューをリリスという女に渡す。
学園長は費用は持つと言ったんだ。
精々高い物を食って飲んでやる。
メニューが決まったようなので、店員を呼んで注文をする。
「……御注文のお品は以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
……このリリスという女は、ずっと柔らかい笑顔を浮かべたままだ。
不思議なのは作られた笑顔ではなく、自然な笑顔だということ。
きっと誰もが彼女と一緒に居ることに不快感を抱くことは無いだろう。
……まあ俺には関係ないが。




