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カレンは今、白い小綺麗な建物の前に父とラルクに挟まれて立っている。
この建物は『暁』という名のギルドで、この国には暁以外にもあと二つギルドがあるらしい。
ここのギルドマスターは父の学園時代からの親友ということで、このギルドで検査を受けることになった。
四階建の建物は、まず訓練場のある地下室。
一階は手前に受付が。そして奥は酒場というよりも小洒落たBARのようになっている。
二階はギルド員のための宿泊施設。
三階はギルドマスターの執務室や大きさの違う数々の応接室があり、四階はギルドマスターの生活空間とのこと。
前世の記憶から、ギルドはもっと小汚ぐてザワザワうるさい感じを想像していたので、少しだけ驚いた。
ポケ~っと貴族にあるまじき顔で見上げていると「入るぞ」の言葉とともに、父に手を引かれる。
栗色の髪にトパーズのような瞳をした受付の女性に検査を受けに来た旨伝えると、受付横の小さな小部屋へと案内された。
「お待ちしておりました」
どうやらここで検査を受けられるようだ。
四畳半ほどの小さな部屋に長テーブルと椅子が並べられ、長テーブルの上には子どもの頭ほどの大きさの二つの水晶玉のようなものが置かれていた。
「どうぞ、お掛けになって下さい」
テーブルの奥に受付の女性が座り、手前側に左からラルク、カレン、父の順で腰掛ける。
「カレン・リード様でお間違いないですね?」と聞かれたので、慌てて「はい」と返事をする。
「それでは今より魔力測定を行います。私サーナ・リッツェルが担当致しますので、よろしくお願い致します。早速ですが、カレン様より見て左側の水晶玉に手を触れて頂けますか?」
早口な彼女の言葉のあとに「よろしくお願い致します」と、左側の水晶玉に手を置いた。
すると、何やら掌から吸われるような感覚がしたかと思うと、水晶玉に数字が浮き出てくる。
「一万五千?」
サーナが大きな目を更に見開いた。
「カレン凄いよっ! 普通は千くらいなんだよ。僕だって褒められたけど、五千ちょっとだったんだから」
目を見開くほどにおかしな数値なのかと少し心配になったが、ラルクからギュウギュウと抱きしめられ、父には頭を撫でられた。
少な過ぎでなくて良かったと言うべきなのか、けれど多過ぎてもどうなのだろう?
私の読んでいた魔法書には魔力の平均量など載っていなかったので知らなかったのだが、後に確認してみると初めての検査(五歳時)での平均量は千ほどで、十歳で一万、十五歳で二万、二十歳で五万ほどだそう。
もしかしなくてもこの魔力量は、閻魔大王様たちがあ〜でもない、こ〜でもないと話していた時の内容に含まれているのでは……。
「それではもうひとつの水晶玉に手を触れて頂けますか?」
気を落ち着けた受付嬢のサーナさんに言われ、今度は右側の水晶玉に手を置いた。
やはり掌から吸われるような感覚がして、水晶玉は中心から渦を巻くように色々な色が混ざり始める。
黄色に緑に赤、青、茶、白、黒、他にも混ざっているようだけれど、カレンを含めてこの場にいる誰もが無言で水晶玉に見入っていた。
これって、もしかしなくても属性多すぎなのでは……?
閻魔大王と赤鬼に向けて心の中で『いくら何でもコレはやり過ぎじゃないですか!?』と文句を言う。
この時点で普通はとうに通り越して、それどころか振り切った感しかない。
困惑した顔でサーナが「少しお待ち下さい」と言って部屋を出て行く。
チラッと横目に見た父は、難しい顔をしていた。
「カレン、よく聞きなさい。普通属性は一つか二つ、三つ以上持つ者もラルクや私のように偶にいるが、それでもカレンのように五つ以上の属性を持つ者はこの世界でもまだ確認されていない。それはよからぬ者から狙われる可能性が高いということでもある。マスターには私から話をするが、自分を守るためにも属性は三つということにしておいて、このことは誰にも言ってはいけないよ?」
その言葉にカレンは不安な気持ちで泣きたくなるが、父が続けて優しく微笑みながら頭を撫でてくれた。
「これだけ沢山のギフトを授かったのだから、カレンは神に愛されているのだね」
「僕は神様以上にカレンを愛しているからねっ!」
少し遅れてラルクも、いつものようにギュウギュウと抱きしめてくれた。
表現しようのないグルグルとした不安な心が、スッと晴れていくような、この家族がいればどんなことがあっても大丈夫という安心感? と幸福感が胸一杯に広がる気がして、カレンは今度は違う意味で泣きそうになるのを我慢したのだった。