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「戻りました」
ウィリアム様が戻って来られました。
リンちゃんがキラキラした目を向けられます。
「どんな感じの人だった? 綺麗系? それとも可愛い系?」
「特別綺麗とか可愛いという訳ではありませんが、何というか癒し系の雰囲気の方かと」
ウィリアム様の返事を聞き「次っ、私が見て来るっ!」と立ち上がり、嬉々として御手洗いへ。
お隣の二人は、今店員さんに注文をしているところのようです。
店員さんが注文の品の復唱をし、確認が終わり席を離れると、ひと息ついてからお相手の女性がヴァイス先生へと話しかけられました。
「ヴァイス様は、学園で先生をされておられるのですよね? 何を教えてらっしゃるのですか?」
「俺……いや、私が教えているのは、魔法学ですね」
先生は少しぎこちなく答えられておられます。
先程から女性が質問をして下さるから会話が成立しておりますが、そうでなければ会話がストップしてしまうのは明らかで。
先生、もう少し頑張って下さいっ!
「お相手の女性の声と言いますか、話し方と言いますか。とても好印象なのですが」
私がそう言いますとウィリアム様も同意して下さります。
「確かに話の間と言うか、この女性の話し方はとても感じの良い話し方ですね。是非ともサンチェス商会に欲しい人材ですねぇ」
いつの間にか商人目線になっておられましたが。
「ただいまっ」
リンちゃんが戻って来られました。
リンちゃんは興奮したように前のめりになられて。
「私相手の女性みたいなタイプ、好きだわ~」
と仰いました。
「確かに美人とか可愛いとかでは無いかもだけど、笑顔がね、何か癒されるんだよね~」
次にキース様が席を立たれ、戻って来られると「リンの言う通りだな」と、概ね好印象のようです。
最後に私が席を立ち、御手洗いに向かいます。
ゆっくりとした足取りで横目に見ますと、お相手の女性は嫌味のない柔らかな笑顔が素敵な女性でした。
御手洗いへ寄り、席へと戻る時にもう一度目線を向けますと丁度店員さんが注文の料理を運んで来たところのようで。
「以上でよろしいですか?」
との問いに笑顔で返事をされておられました。
「はい、ありがとうございます」
やはり私もリンちゃんと同様にこの女性が(人間として)好きです。
肝心のヴァイス先生の表情などは見えませんので(見えたら大変なのですが)、先生がお相手の女性にどのような印象をお持ちなのか図りかねますが、先生とお相手の方が、うまくいかれたら良いなと思います。
「ねぇ、先生のタイプの人じゃなかったのかなぁ」
リンちゃんがポソッと呟きます。
お店に入って来てからずっと先生の口調は硬いままで、お相手の女性の質問に答えるだけ。
私達にはとても良い御縁だと思いますが、当の本人がその気でなければ意味がありません。
「とても良い方だと思うのですが、こればかりは……」
私の言葉にウィリアム様も頷いて、残念そうなお顔をされております。
「そうですね、先生の決めることですから」
と仰り、キース様は特に興味も無さそうに先程から私の手を取り、撫でております。
さすがに外で膝の上に乗せるのは控えて下さっているようです。
すると隣から「今日はお時間頂いて、ありがとうございました」と女性の声が。
そろそろお見合いが終わりそうです。
「いえ、こちらこそ、ありがとうございました」
……最後まで先生の言葉は硬いままですね。
「あの、こうしてお会いするのも何かの御縁だったとは思いますが、私のことは気になさらずお断りして頂いて構いませんので」
「……え?」
先生だけでなく、思わず私達も声を出しそうになるのを何とか我慢致しました。
「この数時間お話させて頂いて、私は色々なお話が聞けて楽しかったですが、私自身に興味を持って頂くことは出来なかったようですので、とても残念ですが私の方からもお断りを伝え……」
お相手の女性の顔は見えませんので分かりませんが、声だけ聞いておりますと、本当に残念そうに感じます。
「待ってくれっ!」
焦ったような少し大きめのヴァイス先生の声がし、そして一呼吸おいた後、少し冷静になった先生の静かな声が聞こえます。
「あんたはこの見合いにどんな奴が来ると聞いて来た?」
その声が少しだけ、不安そうに聞こえたのは私の気のせいでしょうか。
「あの、学校の先生をしている方で、私より二歳上だと……」
「え? それだけ?」
「……はい。あの、それが何か?」
少し間が空いて、ヴァイス先生の今まで聞いたことのないきちんとした言い方で謝罪をされました。
「失礼な態度をとって、すまなかった」
「え? あの……え?」
先生の謝罪の言葉に、焦ったような声を出される女性。
次に先生のいつもの皮肉な笑い方ではなく、本当に楽しそうな笑い声が聞こえてきました。
「何で笑うんですかっ!」
女性の拗ねたような声がして、もしかしてこれは……と思ったその時。
と。
「改めて俺の名前はヴァイス・オーランドだ」
「え……? オーランドって……え?」
ヴァイス先生が貴族の出であることを初めて知りました。
いつもヴァイスとしか名乗られませんから、私だけでなく皆平民出身の方だと思われているのではないでしょうか。
それから先生は自らを語りだされました。
こんな話を勝手に聞いてしまってよいのだろうかと思いはしましたが、つい好奇心にかられてしまいまして……。
ヴァイス先生、申し訳ありません。心の中で謝罪致します。




