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キース様は先程までと違ってとても機嫌が良くなられており、少し先を歩くリンちゃんとウィリアム様の後を追うように、校舎に向けて歩き出しました。
無意識にキース様を見ていたようで。
「どうした?」
優しい声で聞かれ、その声に、笑顔に、やっぱり私はキース様が好きなんだなぁ、と。
ただ、私は前世も含めて恋愛とは縁遠かったため、出来たら少しずつ慣らして頂けると嬉しいといいますか……。
いきなり抱きしめられたり膝の上に乗せられたりはハードルが高過ぎて。
このままですと、ドキドキし過ぎていつか心臓がもたなくなりそうで。
ですが、それをキース様に伝えるのはもっとハードルが高い気がして。
「いえ、何でもないです」
そう言って、繋いだ手をキュッと握り返しました。
するとキース様は悪戯っ子のような顔で、私の耳元へ顔を寄せて囁かれます。
「ちょっと急がないとヤバいかも。何ならカレンを横抱きにして走っても良いんだけど?」
「そ、そ、その時は、自分で走りますっっ!」
きっと私の顔は真っ赤になっているだろうことが分かる程に、顔に熱が集まっていて。
それを見てキース様が肩を揺らしながら笑われて。
「もうっ!」
悔しくなって空いている方の手で何度かパンチしてみました。
「猫パンチだな」
と八重歯を見せて笑いながら、私の頭をグリグリと撫でまわされるキース様。
もう、その笑顔は反則ですっっ!
私が頭を撫でられることが好きなことを知っていて、そういうことをするのもズルいです。
ちょっと不貞腐れたような顔をしながらも、心の中では喜んでいる自分。
……こういうのを惚れた弱みと言うのでしょうか?
◇◇◇
テストも無事に終え、長期休暇に入りました。
長期休暇明けまで、いつもの四人で集まれる日は多分無いでしょう。
特にウィリアム様は商会のお仕事で、長期休暇を利用されて幾つもの国をまわって来られるそうですので……。
長期休暇明けに色々な国のお話をお聞きするのが、今から楽しみです。
因みにリンちゃんとウィリアム様は、長期休暇前にギルドランクAに昇格されました。
キース様と私も頑張り、何とかBランクまで上げることが出来ました。
ですから今のギルドカードの色は、四人お揃いの、ゴールドです。
キース様とは長期休暇中の空いた時間で、一緒に依頼を受ける約束をしております。
依頼が終わりましたら、リンちゃんやウィリアム様も知らない、街の美味しいお店を開拓しようと。
高等部へと上がっても、長期休暇明けのグループでのギルド依頼は変わらずにありますので。
その依頼後にリンちゃん達を開拓したお店に連れて行き、吃驚させる計画です。
本日は特に予定もなく、それならばとアルとエテルノさんは「偶には体を思い切り動かさないと」と仰って、二匹で早朝から狩に出掛けられました。
なので、今私は一人で部屋におります。
学園の寮ではリンちゃんやマリア、アルとエテルノさんが常に一緒でしたので、寂しいと思う時間など皆無でしたが、この広い部屋に一人でいると少しだけ寂しいという感情が顔を出します。
……今日は巷で人気の小説の、新刊でも読みましょう。
マリアにお茶の用意をお願いし、真新しい小説を手に取ります。
今度の小説は、国一番の器量良しとされている王女様を攫った魔王と王女様の恋物語のようです。
この魔王ですが、読めば読むほどにウィリアム様としか思えなくなる程似ております。
そのせいか、感情移入が出来ずに読み終わってしまいました。
この小説は、長期休暇が明けましたら、リンちゃんにお貸ししましょう。
それにしても、魔王なウィリアム様……似合い過ぎます!
夕方にはアルとエテルノさんが戻って来られました。
かなりヤンチャをして来られたらしく、薄汚れておりましたので、一緒にお風呂に入り念入りに洗います。
出てからアルのブラッシングをし、もふもふを満喫致しました。
明日はキース様と一緒にギルドへ向かう約束をしております。
今まで毎日お会いしておりましたのに、長期休暇に入りますとなかなか簡単にはお会い出来ず。
キース様はいずれウォーカー家を継ぐお方ですので、長期休暇中に少しづつお仕事を学ばれておられるようで、とても忙しそうです。
そんな中、私との時間を取って頂けるのはとても嬉しく、幸せだと思います。
夕食の席でお兄様に「カレン、明日一緒に街に行かないか?」とお誘いを受けましたが、キース様とのお約束がありますのでお断りし、お兄様とは後日日を改めて出掛けることに致しました。
街に行くのであれば、もちろんアルとエテルノさんも一緒です。
お二人(二匹)とも、食べ歩き大好きさんですので。
眠る前に食べ歩きの話をしましたら、案の定お二人(二匹)とも大喜びされておりました。
興奮してなかなか寝付けなかったようで、眠る前にお話をしなければ良かったと反省です。




