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キース目線です
「喜べ。リード家にお前の縁談を申し込んできたぞ」
「は?」
親父に呼ばれて学園から家に帰って来て、晩飯を食べながら親父がとんでも無い爆弾を投下しやがった。
今何て言った? このクソジジイは。
リード家って、カレンの家だよな?
「今頃カレン嬢もこの話をされている頃だろう」
いやいやいや、そんな話聞いてないんだけど。
しかもそのドヤ顔、ウザいんだけど。
確かにカレンはこの週末家に帰るって、俺と一緒に外泊届を出したけど。
何勝手なことしてくれちゃってんの?
俺が唖然としていると。
「本人同士が嫌がらなければ婚約することになっているからな」
俺の気も知らないでご機嫌に言う親父に、無性に腹が立った。
「断られたらどうすんだよっ。3年間同じクラスなのに、気まずいだろううがっ!」
思わず立ち上がって半ば叫ぶようにして親父を非難すれば。
「お黙りなさい。このヘタレ」
大きくはないが、凛とした声が響く。
俺はグギギ……と音がしそうな程ゆっくりと声のした方へと顔を向けると、そこにはナプキンで口を拭い、こちらに真っ直ぐに射抜くような視線を向ける母親がいた。
「ヘタレ……」
実の母親にまでヘタレと言われたら流石に凹む。
「あなたはこのウォーカー家の跡取りなんですよ? 女性は十六歳で結婚が出来、良いお嬢様方は皆十歳を過ぎれば婚約者を決めている方がほとんどだと言うのに。いつまでもウダウダと、残り物のお嬢様を押し付けられても良いのですか? ……いえ、違いますわね。あなたが残り物ですわね」
フッと鼻で笑うようにそう言ったのは、俺の実の母親……だよな?
実の息子にそこまで言えるこの母親は、最強ではないだろうか。
「リード家のカレン様と言えば、家柄良し、容姿端麗、性格も穏やかで、婚約者のいない方がおかしいと言うくらいの方。まあ、あちらはご当主が嫁に出したくないと言う理由で、全ての縁談話をお断りされてきたからですが」
そこまで言って、この最強母はジロリと目を細めた。
「あなたはこのお話、お断りするのですか? それとも望むのですか? 男ならハッキリと仰い!」
そして聞こえるか聞こえないかくらいの声で。
「全く、ご大層に前にぶら下げてるものは、御飾りなのかしらねぇ」
と溜息をついた。
「だぁぁぁぁ、分かったよ。言えばいいんだろ? 言えば」
と、頭をガシガシと掻きながら言うと、母親は呆れたような顔をしている。
「初めからさっさと言えばよろしいのです」
だとさ。まったく、この言いようには溜息しか出ないよなぁ。
「答えはYESだ。進めてくれ」
俺から肯定の声を聞くと、満足そうな顔をして。
「そう言うと思って、実はもうお返事を出しておきましたよ」
ほほほ、と笑った。
……は? ちょっと待て。
じゃあ今迄の件は何だったんだよっ⁈
男の象徴を御飾りとまで言われたんだぜ?
親父はとばっちりが自分へ来ないように、空気になってるし。
……泣きたい。まぁ、泣かないけどな。
そこへ長年働いてくれている執事が「失礼致します」と、空気になっていた親父へ何やら手渡した。
受け取った親父は、その場で真剣な表情で読み出す。
手紙だったようだ。
やがて読み終えたであろう手紙を母親へと渡し、それを読んだ母親は目線を手紙から離さぬまま。
「キースっ!」
と、いきなり俺の名前を呼ぶもんだから。
思わず「はいっ」と背筋を伸ばしていい返事をしてしまった。
手紙から目線を俺に向けると、フワッと優しい笑みを浮かべる。
「おめでとう。キースが望んでくれるのなら、お受けしますとお返事が来たわ」
は? 返事早くね?
母さん、いつカレンの家に手紙出したんだよ。
ってか、キースが望んでくれるのなら、お受けします……って、マジか、カレン。
お受けしますってことは、俺と結婚しますってことで。
カレンが俺のものになる……。
じわじわと胸に喜びが湧き上がってくる。
きっと俺の顔は気持ち悪いほどにニヤケて、締まりのない顔になっているんだと思う。
親父と母さんがとても残念なものを見るような目で俺を見ているが、そんなのどうでも良いと感じる程、俺は浮かれている。
嬉しさに叫び出したい気持を抑え込む。
初めてカレンを見た時は、まるで物語の中から出て来たような、完璧な美少女だと思った。
あまりにも綺麗すぎて、見惚れて固まってしまったっけ。
あれだけ恵まれた容姿と家柄にも関わらず、カレンは威張り散らすことも、権力を傘に着ることもなく、貴族も平民も分け隔てなく、そして天然のドジっ娘だったよな。
そんな感じで好印象ではあったけど、別に好きとかそんな感情はなかったように思う。
実は物凄い頑張り屋なところや、心配性で何かあると眉毛をハの字にして凹んだりするところも、ただ普通に可愛いなとは思っていたけど。
カレンが他の男と楽しそうに話しているのを見るとモヤッとするようになった。
俺の隣で(身長差のせいで)少し見上げるようにしてほわんと笑う顔を、ずっと見ていたいと思った。
そういう感情が自分にあることに、正直戸惑った。
恋愛に関してはド素人の俺には、どうすればいいかなんて分かるはずもない。
……それでウィルにヘタレ言われたんだけどな。
……余計なことをって思ったが、こうなると親父には感謝しないといけないな。
親父が動いてくれなければ、きっといつまでも友達としての関係を崩そうとはしなかったと思う。
あのぬるま湯のような居心地の良い関係をずっと続けて行くことなど、本当は不可能なことくらい分かってはいたのに。
「親父、ありがとうな」
親父はフッと小さく笑った。
「なに、近いうちにあちらに挨拶に伺わんとな」
それを見ていた母さんが拗ねたように呟く。
「私には感謝の言葉はないのかしらね」
その言葉に俺は慌てて「母さんもありがとうな」と。
怒らせるとこの人、ホント怖いんだよ。
けどとても頼りになる、自慢の母さんだ。
「それにしても……可愛い嫁が来てくれるなんて嬉しいわね~。着飾らせて一緒にお買い物に行くのが私の夢だったのよ~」
物凄い上機嫌だ。
親父がコッソリ「母さん、ずっと女の子を欲しがってたんだ」と言った。
俺を産んでしばらくして、病気で子供が産めなくなったらしい母さん。
カレンなら、母さんと仲良く出来るだろう。
母さんとカレンが着飾って買い物に出掛けるところを想像して……ん?
母さん、しょっ中カレンを引っ張りまわしたりしないだろうな? 少し心配になる。
「たまにならいいだろうけど、しょっ中連れまわすのはダメな」
と言うと。
「いいじゃない。男がケチくさい事言うんじゃありません」
だと。やっぱりか~。




