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大興奮のリンちゃんとマリアがようやく落ち着かれたので、話を続けます。
「カレン……あんたって……」
『初めての(ダンスの)お相手がキース様で良かった』の台詞を聞いた時の、リンちゃんたちの呆れたような哀れみのような。
何とも言えない表情でリンちゃんが頭を抱える意味が分かりません。
「何かおかしなところがありましたか?」
「……ううん、もういいや。続けて?」
何がもういいのかは分かりませんが、とりあえず続けます。
一曲踊り終えて、飲み物を手にバルコニーへ向かい、キース様が着ていた上着を掛けてくれたところで「キース、やるじゃん」と、リンちゃんとマリアのニヤニヤが止まらなくなり。
「いつものカレンの方が俺は好き」
「カレンは化粧なんかしなくても綺麗だ」
キース様の台詞に、マリアとリンちゃんが床にゴロゴロと悶えながら大騒ぎして。
下の階からの苦情は大丈夫でしょうか?
少し心配になります。
その後、キース様が無理やり部屋に連れて行かれそうになった私を助けてくれた時の。
「次こそは俺が守るから」
この台詞で、興奮し過ぎたリンちゃんが鼻を押さえ始め、マリアが慌ててティッシュを持って来ました。
慌てるマリアなんて、珍しいものを見ました。
マリアから受け取ったティッシュを鼻に詰めたリンちゃんが、真面目な顔をして。
「そ、それでカレンは何てこたえたの?」
と聞いてきますが、鼻に詰められたティッシュが残念感を演出されて……笑ってはダメよ、カレン。
笑いたい衝動を逃がすために一つ長く息を吐き出しました。
「まさかそんな言葉を頂けるとは思ってもみなくて。嬉しいとか、恥ずかしいとか、湧き上がってくる色々な気持ちを何て言ったら良いのか分からなくて。それに、体全体が心臓になってしまったようにドキドキしてしまって。なので、『はい』と……」
その時の事を思い出すと、まだ胸がドキドキしてしまいます。
その後は会場内に戻って食事をし、キース様に屋敷まで送って頂いて。
屋敷に着いて、もう少し一緒に居たいと思ったことを素直に言葉にすれば、リンちゃんとマリアが目をこれでもかと言う程に開いて。
「そこまでなっても、まだ自分の気持ちが分かっとらんのかい」
というツッコミを頂きました。
自分の気持ち……ですか?
「じゃあ聞くけど、キースと踊るのは楽しかったんだよね? ずっと踊っていたいと思ったんだよね?」
「はい」
「じゃあ、ウィリアムとだったらどう?」
私は少し考えて。
「ウィリアム様とのダンスは嫌ではありませんが、ずっと踊っていたいとまでは……」
「じゃあ、お兄さんとだったら?」
「お兄様とは練習でよく踊って頂きましたから、踊り易くはありますがずっと踊っていたいとは思いません」
ウィリアム様の時には言葉を濁したましたが、お兄様の時にはバッサリと答える私に苦笑しながらも、リンちゃんが続けます。
「キースに守るからって言われてドキドキしたんだよね? じゃあ、ウィリアムに同じ台詞を言われたら?」
私は目を瞑り、ウィリアム様に言われた所を想像してみます。
「ありがたいお言葉ですね。嬉しくはありますが……」
ええ。嬉しくはありますが、それだけです。
ドキドキすることはありません。
「お兄さんに言われたら?」
「口だけでなく、しっかりとお願いしますと言いたいですね」
……私、まだ少し根に持っていたようですね。
「キースに言われて、どうだったんだっけ?」
キース様に言われた時のことを思い出してみます。
胸がザワザワすると言いますか、ドキドキすると言いますか。
それをリンちゃんに伝えます。
「じゃあ、どうしてキースにだけドキドキしたり、ずっと一緒に居たいと思ったりするんだと思う?」
どうして……?
ウィリアム様やお兄様と、キース様は違う。
キース様だけが、違う?
何故?
ずっと一緒に居たいと思うのは。
リンちゃんやウィリアム様やお兄様とも、ずっと一緒に居たいと思うけれど、別れる時の寂しさは他の誰とも違う。
何故?
違うのは、キース様が私にとって、特別な存在だから?
じゃあ、特別な存在って、何?
難しい顔で悩むカレンに、更にリンが尋ねる。
「じゃあさ、例えばウィリアムに彼女が出来たとするじゃん? どう思う?」
想像してみます。
ウィリアム様の彼女……仲睦まじい姿……うん、喜ばしいことですね。
「じゃあさ、お兄さんと彼女が一緒にいたら?」
お兄様には婚約者が居られますから、今更特に何とも思いません。
「じゃあ、キースに彼女が出来たら?」
キース様に彼女……仲睦まじい姿……。
途端に胸を締め付けるような苦しさと言うか、チクンとした痛みが走ります。
そのような姿は見たくないです……。
「それが答えなんだけどね」
リンちゃんとマリアが苦笑いしながら私を見ています。
それが答え……。
友人や家族への愛情と、異性としての愛情の差と言うこと。
私は、キース様が、異性として好き……?
『好き』という言葉が、胸にストンと落ちて、私は私の気持ちが何であるかを、ようやく理解することが出来たのでした。




