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転生令嬢の異世界愛され生活〜ご褒美転生〜  作者: 翡翠
第十章 社交界デビューです
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5

「カレンは化粧なんかしなくても……綺麗だぞ」

 キース様のその言葉が、私にはとても嬉しかった。

 いくら素敵なドレスや宝石で着飾っても、本当の自分には釣り合わないような気がしていました。

 どんなに着飾った(そんな)私を褒められても、素直に喜べない自分がいて。

 ……それは前世で存在を否定され続けた私。

 けれど、キース様はそのままの私でいいと、言って下さるのですね。

 とても救われた気が致しました。

 舞踏会(こちら)に来てから、初めてちゃんと息が出来たというか、自分が自分でいられるというか、何て言ったらいいのか……。

 つまり、キース様といるこの空間は、とても居心地が良いのです。

 いただいていた飲み物で乾杯をし、他愛ない話をしているうちに何やらフワフワとした感じがして、とても楽しくなってきました。

「ふふふ。何だかとっても楽しいです~」

「カレン?」

「今日のキース様、王子様みたいで素敵です~」

 困り果てていた私を颯爽と救い出してくれたキース様。

 まるで自分が絵本の中のお姫様になったような、くすぐったい気分になりました。

 憂鬱だった筈のダンスも、とても楽しくて。

「キース様となら、ずっと、ず~っと踊っていたい気分です~」

 ふふふ。本当に楽しいです。けれども何やらキース様は慌てられて。

「これだけで酔ったのか? 参ったな、カレン弱過ぎだろ。……直ぐに水持ってくるから、ここにいろよ? いいな?」

 何度も念を押して、バルコニーから屋内へと入って行かれました。

 キース様の居なくなった空間は肌寒く、急に寂しく感じられました。

「キース様って、ホッカイロみたいな人ですね~」

 なんて独り言を言っていると。

「カレン殿、こちらにおられたのですか。探しましたよ」

 と、誰とも分からない人たちがバルコニーに出て来られました。

 そこまで広くないバルコニーに、逃げ場を塞がれるように立たれている方たち。

 それまでフワフワと気持ち良かった気分が、一気に冷え込みます。

「気分でも悪いのですか? それでは我々が介抱して差し上げねば」

 ニヤリと嫌な笑顔で私の腕を掴むと。

「あちらに部屋をご用意致しておりますから、安心して下さい」

 と、全く安心出来ないことを言いだす始末。

 人は沢山いるけれど、騒いで大事(おおごと)にする訳にもいかず……。

 声を立てずに手を振り払おうとすれば、男性は少し苛立ったように「いいからさっさと来い」と言って、私の腕を掴む手に力が加わる。

「いっ……」

 痛みに顔をしかめた時、私の腕を掴んでいる男性の頭上から水が流れてきました。

「その腕さっさと離さねえと、今度はその髪燃やしてやろうか?」

 水はキース様がコップの水を掛けられたようで、男性は勢いよくキース様の方に振り返ると。

「何しやがる!」

 怒りをあらわにされますが、一緒にいる方々が小さな声で。

「おい、マズイって。こいつはウォーカー家の次期当主だぞ! ほら、行くぞ」

 無理やり引き摺るように、連れて逃げて行かれました。

 キース様はその方達の後ろ姿を睨むように見ておられましたが、ハッと気付いたように。

「怪我は? さっきアイツに掴まれてた腕を見せて!」

 言うが早いか、私の腕からロンググローブ(手袋)を素早く外すと、そこにある掴まれて赤くなった跡に「チッ」と舌打ちをされて。

「あいつ……やっぱ毛根までしっかり燃やしとくべきだったな」

 と、物騒なことを仰いました。

「悪い。短時間とはいえ、一人にするべきじゃなかったな」

 申し訳なさそうな顔をされるキース様。

 あなたのせいじゃありませんから! それに、ちゃんと守って下さいました!

「そんな顔しないで下さい。大丈夫ですよ? ほら」

 腕に治癒魔法初級の治癒(ヒーリング)を掛けると、掴まれて赤くなった跡は綺麗になくなりました。

「それでも、だ。アイツに掴まれて痛い思いをしたんだ。だから、ごめん。次こそは、俺がちゃんと守るから」


 女の子ならば一度は言われてみたい「守るから」というセリフを、まさか自分が聞けるなんて思ってもみませんでした。

 ここが外ではなかったら、多分ですが転げ回って悶えていたのではないだろうかと。

 嬉しい気持ちと、恥ずかしい気持ちと、何やらよく分からない色々な感情が混ざって、体全体が心臓になってしまったかのようにドキドキして。

「……はい」

 そう一言返すのが精一杯でした。

 そして、その様子を屋内から見ている方がいたことに、私もキース様も気付くことはありませんでした。

 少しの間、二人無言で立派な庭を眺めてから。

「これ以上いたらカレンの体が冷えるな」

 一緒に屋内へと戻ります。

「一応ダンスもしたし、挨拶もひと通り終わってるから、飯食ったら帰ろうぜ」

 私の好きな八重歯を見せた笑顔で言われました。

「そういえばお腹空きましたね。そうしましょう」

 私も笑顔で返します。……コルセットのせいで、あまり食べられませんでしたが。

 キース様のお腹が膨れてから。

 お兄様と、キース様のお父様に先に帰る旨お伝えし。今、キース様に屋敷まで送って頂いております。

 馬車の中で向かい合い、たわいない話で盛り上がり。

 来る時と違い、帰りはあっという間に到着してしまったように感じます。

「送って頂いて、ありがとうございました」

 馬車を降りながら、もう少し一緒に居たかったと、名残惜しく感じているのは私だけでしょうか?

「じゃあ、また学園でな」

 キース様を乗せた馬車が去っていきます。

 明後日にはまたお会い出来るというのに。

 私の中で寂しいという感情が(うごめ)いて。

 自分でもよく分からないこれらの感情が、何かわかるようになるのは……。

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