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昼食を済ませた後、部屋に戻り少し読書をするのがカレンの日課になりつつある。
最近のお気に入りは何と言っても魔法書。
(五歳児が絵本ではなく、魔法書を愛読している時点でおかしいことに本人は気付いていない)
本来ならば五歳の誕生日に魔力値と属性の検査を受けねばならないのだが、カレンは記憶喪失となってしまったためにその検査は見送られ、いよいよ明日ギルドへ赴き検査を受ける予定なのだ。
ワクワクしている自分と、少し怖がっている自分が同居しているような妙な気分だけれど。
普段忙しい父とラルクとギルドまでのお出掛けである。
残念ながら母はお茶会の日にちと重なってしまったために一緒に出掛けることは出来ないが、まさか自分に家族とお出掛けする日が来るとは思っていなかったので、実は少しばかり緊張している。
今たくさんの幸せを経験させてもらえていることに、ただただ感謝の気持ちでいっぱいになるカレンだった。
最近、カレンが読書を始める頃になると、ラルクのところにお客様が現れるようになった。
水を司る貴族ライアテック公爵家長男のナギは、ラルクと同じ歳で親友なのだそう。
彼もまた、その才能を認められた将来有望な方なのだが……。
彼にもカレンと同じ歳のリアナという妹がおり、さすがラルクの親友だけあってか、筋金入りのシスコンぶりである。
リアナには一度だけ会ったことがあるけれど、フワフワな巻き毛に少しタレ目がちの大きな目をした、とても可愛い癒し系おっとりさんだった。
そしてラルクの婚約者でもある。
父とナギの父であるライアテック公爵は幼馴染であり、大親友なのだ。
それに伴い母同士も必然的に仲良くなり、互いに子どもが生まれたら結婚させようと約束をしていて、カレンよりも半年ほど早く生まれたリアナとラルクの婚約が決まったとか。
ちなみにカレンとナギは婚約していない。
真偽のほどは分からないが、カレンとナギの婚約話になるとラルクがことごとく邪魔しに来たらしく。
あまりにもしつこいラルクに、一組は約束通り婚約したのだからということになったらしい……と使用人が話しているのを耳にした。
前世では恋愛など出来る環境ではなかったので、カレンはまだ『恋』というものを知らない。
それでも彼氏彼女という存在に憧れがなかったと言えば、嘘になる。
ラルクのお陰かどうかは分からないけれど、とりあえず今のところカレンは誰とも婚約せずに済んでいるのだ。
(お兄様、ありがとうございます!)
遠くでナギの「リアナはお前なんかにやらないからなっ!!」という、悲痛な叫び声に近い声が聞こえてきた。
……とりあえず、ナギとの恋愛はないだろう。
昼食後の休憩をはさみ午後は魔法の実践の時間だが、カレンはまだギルドでの計測をしていないので、ラルク達の練習を見学させてもらっている。
こちらの世界の学校も、小学校、中学校、高校のようなものがあるが、貴族は中学校から学校に通い始めるらしい。
それまでは屋敷に『先生』を招いて教えを乞う。
家庭教師のようなものだが、それぞれ専門の有名どころを『先生』として雇い、学んでいく。
いつからか魔法の時間だけナギも合流して、ラルクと二人、我が屋敷で一緒に学ぶようになっていた。
良い好敵手として、二人ともに上達が早いと先生がニコニコしている。
先生は見ることも勉強だと仰るので、ラルクとナギの姿をしっかりと見せてもらっている。
上手に魔法の発動が成される度にラルクが、
「カレン、今の見てた~?」
と、満面の笑顔で駆け寄りギュウギュウと抱きしめてくる。
「ちゃんと見てましたよ。ラルク兄様は凄いですね」
笑顔で背中をポンポンするのが今では当たり前のこと。
「俺の魔法もなかなかのものだろ?」
「ナギ様も流石ですね」
競うようにナギがドヤ顔で寄って来るので、頭を撫で撫でする。
それを見てラルクが少し悔しそうに「次は負けないからな」と言って真剣に魔法の練習を始めると、ナギも「俺だって」と、真剣に練習を始めるの繰り返しである。
本当に二人は良い関係を築いており、とても羨ましく思う。
(私にもいつか、そんな好敵手が出来るといいな)
カレンは顔を上げて広い青空を見ながら、そんな風に思った。