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勢いよく蕎麦をすすり出す参加者たち。
観客からは「頑張れ~」という声援が。
「はいはい、そこのお客様。健全な学生の大会ですから賭けごとはナシでお願いしますね~」
ウィリアムが明るい声で注意すると、観客席よりドッと笑いが起きる。
こういう時は真面目に注意するより少し冗談めいて注意する方が、雰囲気を変えずに盛り上げることが出来るからと、後のウィリアムが語っていた。
参加者の胸元には、ゼッケンがつけられている。
向かって左から右に行くほど大きな数字になるように。
「ゼッケン三番、十杯目に入りました。続いてゼッケン八番、ゼッケン十二番、ゼッケン九番」
どんどんアナウンスしていきます。
「ここで参加者の紹介です。一番最初に十杯目に入られたゼッケン三番、当学園高等部二年ザックスさん十七歳。先週めでたく彼女が出来たそうで、おめでとうございま〜す!」
ゼッケン三番のザックスがブフォッと蕎麦を吹き出し、ゲホゲホと咽せている。
観客達から沢山の「おめでとう!」の声が上がる。
「おっと、その隙にゼッケン八番、鍛治職人バームさん三十五歳が十三杯目に入りました~。来月二人目のお子さん誕生予定。パパさん、頑張れ~」
バームは片手を上げてガッツポーズをし、観客達からの拍手喝采が。
「二番手はゼッケン十二番。当学園中等部二年ローガンさん十四歳、現在彼女募集中だぁっ! 懸命に八番鍛治職人バームさんを追っている。おおっと、ここで三番ザックスさんが復活されましたぁ。早い早い!」
思った以上に早い展開のようだ。
ちょっと心配になり、カレンはステージ横を覗きに行く。
寸胴鍋四つを使い蕎麦を茹でているので室温は高く、更に火に近い茹で担当の二人は、額の鉢巻の色が変わるほどに大汗をかきながら頑張っている。
邪魔をしてはいけないと、そっと部屋を後にした。
茹で係の皆には、後でスポーツドリンク(水、砂糖、塩、レモン汁を混ぜたもの)の差し入れをすることに。
そしてステージ上では更に白熱した展開を見せていた。
「只今五分経過しました。現在のトップはゼッケン九番、今回唯一の女性参加者アルソネさん。年齢非公開っ。定食屋『ほっこり』の看板娘っ! ちなみに『ほっこり』一番人気は煮魚定食だそうです。次いで八番、十二番、三番がほぼ横並び!」
参加者の向かって右斜め前にはどんどんお椀の山が築かれていく。
その後接戦を制したのは。
「優勝はゼッケン三番、ザックスさん。記録は百二十五杯。愛の力で勝利をもぎ取りましたぁっ! 二位はゼッケン八番バームさん。記録は百二十二杯。三位はゼッケン九番アルソネさん。記録は百二十一杯。それでは名前を呼ばれました三名様、前へどうぞ」
入賞者がニコニコしながらステージの前へ出て来ます。
「それでは、見事三位になられたアルソネさんには、お洒落な女性の間で話題の人気カフェ『Forest Fairy』のオリジナルブレンド茶葉を差し上げます」
アルソネはご機嫌で茶葉を受け取ると、ニコニコ顔でステージを降りて行った。
「見事二位になられたバームさんには、同じく『Forest Fairy』の予約なしでは購入出来ない人気のオリジナルケーキ、ワンホールを差し上げます」
バームも「妻が喜ぶ」と笑顔でケーキの入った箱を手にステージを降りて行く。
「それでは圧倒的勝利をおさめました、ゼッケン三番ザックスさんには、同じく『Forest Fairy』の……特別席ペア御食事券を差し上げます!」
特別席と聞いて、観客からどよめきが起こる。
今こちらの特別席でプロポーズする若者が急上昇中だとかで、本来は一年以上先まで予約が取れないそうだ。
「それでは優勝者のザックスさんから、一言お願いします」
ザックスは緊張しているのか硬い表情をしていた。
「えと、正直優勝出来るとは思ってなかったです。後半はめちゃくちゃキツかったですけど、客席にいる彼女の応援で頑張れました。アリス、愛してるぞ~~~!」
ザックスの言葉に、客席は大盛り上がり。
最後の一言を言うために緊張していたようだ。
無事一回目を終えることが出来た。
大食い大会は思った以上に盛り上がり、十五時からの回は参加希望者が殺到したため、先着十五名までとさせてもらった。
観客数は一回目を上回り、女性の参加者が三名いて、そのうちの一人が優勝したことも盛り上がりに一役買う結果となったのだが、二回の大会を終えた頃には皆力尽きていた。
本来文化祭は二日間行われるが、Sクラスは初日に休憩なしで全てを注ぎ込み、二日目をフリーの日と決めていたので、明日は他のクラスの催し物を自由に楽しむことが出来る。
今日の結果に満足したSクラスの皆は、一時間後に寮の食堂に集合して、打上げパーティーをすることに。
他のクラスは明日の準備で帰りが遅くなるらしく、この時間であれば多少盛り上がっても周りに迷惑を掛けずに済みそうだ。
文化祭のお陰で、クラスが一つに纏まった感じがする。
リンもウィリアムも、とても嬉しそうに見えた。