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初めてのパーティーでの依頼を受けてから二月ほどが経ち、少しずつ依頼にも慣れてきた頃。
季節はもう秋へと突入し、時折冷たい風が肌を撫でていきます。
そして、こちらの世界にもソレはありました。
『文化祭』
クラスで何をするかを決め、今週中に生徒会へ提出しなければならないらしく、このHRの時間をその決めごとにあてているのだ。
毎年喫茶店を希望するクラスは多く、各学年で一クラスと決まっており、複数のクラスが希望を出した場合、クジで決めるのだそう。
外れてしまったクラスはまた一から決め直さねばいけないので、Sクラスはそれ以外のもので決めることに。
とはいえ、Sクラスはリンとウィリアム以外は貴族の子息令嬢である。
何をするのも使用人任せな子息令嬢に出来ることなど、あまりないだろう。
「とりあえず十分やるから、周りのやつと話し合って幾つか案を出すように」
ヴァイス先生はそう言って「十分後に戻る」と教室を出て行った。
リンとウィリアムの机をくっつけて、キースとカレンは後ろを向き、四人が向き合うようにする。
「何かいい案はありますか?」
いい案と言われても、文化祭といえば、
・喫茶店
・お化け屋敷
・迷路
・演劇
・ゲーム(的当てなど)
これくらいしか、思い浮かばない。
一番最初にあげた喫茶店は選択肢から外れるので、カレンが考えつくものはそれくらいだろうか。
皆もだいたい同じようなものをあげていた。
「お化け屋敷と迷路は準備が結構あるけど……」
リンの言いたいことはだいたい分かる。
貴族の子息令嬢がそれを手伝ってくれるのかどうかということだろう。
「演劇なんかはもっと無理じゃね?」
キースの言うことも分かる。
貴族の皆が素直に決められた役柄に納得するかどうか……。
村人Aとか……無理だろう。
「大食い大会とかは?」
リンがキースの方を見て言う。
「おい、いま何で俺の方見ながら言った?」
「何か頭の中で、喫茶店→飲食店→食べ物→キース→大食い→大食い大会の連想ゲームが」
「……何だよ、その連想ゲーム。ま、大食い大会は結構いい案だとは思うけどな」
前世ではあまりテレビを見ることがなかったカレンには、大食いといえばホットドッグや椀子そばくらいしか思い浮かばなかった。
……そもそも、この世界にホットドッグや椀子そばってあるのだろうか?
大食いの料理も手の込んだものにしてしまうと、それを作らなければならないので、準備や作り手のことがある。
ヴァイス先生が教室に戻ってきたので、クラス委員であるキースが教壇に立ち、皆の意見を聞き、それをウィリアムが黒板に書いていきます。
・演劇
・ダンスホール
・大食い大会
現実的でないものを省き、比較的真面な案はこの三つだけれど、演劇は役柄が決まらないだろうことで却下となった。
そしてダンスホールだが、貴族はダンスは嗜みなので当然踊れるとして、文化祭に参加するのは平民の方が多いのだ。
あんなに平民を下に見ている人たちが、丁寧にダンスを教えることなど出来るのだろうか?
こちらも無理だろうということで却下。
そして大食い大会が残ったが、誰からも異論は出ず、決定したのだ。
「で、大食いする食べ物だけど、簡単に作れて運びやすいものがいいよな」
キースがどんどん話を進めていく。
「パスタはどうだ?」
「調理に手間がかかるのでは?」
「ではサンドイッチはいかがでしょう?」
「具材によっては手間がかかりそうですが……」
クラスの皆も積極的に意見を出していく。
「お蕎麦ならどうでしょうか?」
カレンがポツリと呟けば、リンが「蕎麦?」と聞いてくる。
「はい、お蕎麦でしたら茹でるだけです。お蕎麦はお皿の上に乗せて運び、食べ終えましたらそのまま挑戦者の前にお皿を重ねていきます。これでどの方がどれだけ食べられているかが一目で分かります。麺つゆはポットのような物に入れてテーブルの上に置いておき、薄くなればご自分で足して頂けば、こちらの仕事は少なくて済みます。最後に重ねたお皿の数の多い方が優勝です。いかがでしょうか?」
リンに説明していると、クラスの皆も耳を傾けていたようで。
「面白そうですわね」
「いいんじゃないか?」
皆肯定的に捉えてくれたようだ。
気を良くしたカレンは更に続けた。
「折角ですので、優勝者には金一封やお食事券などのように、何か特別なものをつけたら盛り上がるのではないでしょうか」
「でしたら、サンチェス商会の系列のカフェから提供させて頂きましょう」
ウィリアムがそれに乗って提案してくれた。
お蕎麦とお皿などの準備も、商会が手配してくれるとのこと。
後は茹でる人、運ぶ人、司会役、宣伝役など。
何処に何人ずつ配置し、何処を担当するかを決めるだけである。
教室では手狭なので場所の確保が必要だと、キースがヴァイス先生に講堂などの広い場所の手配をお願いする。
気付けば結構な時間が過ぎていたので、細かい部分はまた次にと、キースとウィリアムが席に戻ってきた。
ウィリアムが黒板に記入していたものと、皆から出た案などを纏めたものを記入した用紙を、リンがウィリアムに渡す。
「キースに渡すとなくしちゃいそうだから」
ウィリアムはそれを否定することなく笑顔で受け取り、鞄の中にしまった。
「ありがとう、助かるよ」
キース様は「悔しいけど否定出来ねぇ」と拗ねるのだった。




