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実践授業当日。
「依頼書の確認をするから、順番に持ってこ~い」
ヴァイス先生が教壇の横に置かれた椅子に腰掛け、適当な感じで言った。
リーダーのウィリアムが用紙を持って先生の元へ向かうと、その後ろに他のパーティーのリーダーになった人達が並んだ。
Sクラスはカレン達のパーティーを含め、六つのパーティーが出来ているようだ。
「Cランクの依頼……。キースとカレンはDランクになったのか。頑張ったじゃないか」
ヴァイス先生がこちらを見て褒めてくれて、キースが照れたように「まあな」と笑った。
ヴァイス先生が手帳のようなものに依頼内容を記入し、「オッケー」と言って依頼書をウィリアムに返す。
次のパーティーはEランクの薬草採取、その次のパーティーも同様にEランクの薬草採取が続き、最後のパーティーはDランクのスライム討伐依頼のようだ。
特に先生から注意を受けるような依頼内容のものはなく、一通り簡単な説明を受け、各パーティー毎に依頼を受けるために教室から出ていった。
依頼を終えたらギルドで手続きをし、学園に戻り先生に報告して、パーティー毎に解散となる。
カレン達はキラービーの巣がある、危険度Dランクの駆け出しの森の奥を目指していた。
ーーー危険度Dランク 駆け出しの森ーーー
ここは西門を出て二キロほど行った場所にある、通称『駆け出しの森』と呼ばれる所。
その名の通り、討伐ランクDの魔物が生息する森である。
そしてこの森を更に二キロほど奥に進むと、Cランクの魔物の生息地帯(危険度Cランク)となる。
因みに長期休暇中にカレンとキースが東門から向かった森は、魔物が殆ど出ない(全く出ないわけではない)と言われる森で、『名も無き森』或いはただの『森』と呼ばれている。
南門から向かう森はBランク以上の魔物の生息地となっており、森の中心部に向かえば向かうほど、高ランクの魔物が生息しているのである。
「キラービーの巣は日差しの届かない大木のうろとか、洞窟の中とかが多いんだ」
ウィリアムが歩きながら色々な情報を教えてくれる。
森の中ではまず音に気を配ること。
それは魔獣の鳴き声や、羽音や足音や、茂みを分け入る音など。
魔獣の通り道にある足跡などにも。
新しいものか、多数か、どちらに向かっているのか、草はどちらの方向に倒れているか。
他にも色々だが、少しずつ覚えていくようにとのこと。
魔物と対峙してしまったら戦闘は免れない。
何もせずに逃げ帰るなど、余程運が良くなければ不可能である。
であれば出来るだけ魔物と対峙しなくて済むように、注意し過ぎるくらいに注意しておく必要があるのだ。
先頭にウィリアム、次いでキース、カレン、リンの順に進んで行く。
何と言っても、カレンとキースはこの森の初心者なのだ。
Bランクの二人から学ぶことは沢山ある。
途中、遠目にゴブリンが居るのを何度か目視し、見つからないように背を低くして茂みを抜けたり、通り過ぎるのを木の陰に隠れてやり過ごしたり。
頭では分かっているつもりでいた。
でも何処かで、異世界を認めていなかったのかもしれない。
生まれ変わっても、いつまでもこちらの世界を『異世界』と呼んでいたり……。
今の私にとって、異世界がリアルな世界であり、地球が異世界なのだ。
一瞬の気の緩みが死に直結する。
その現実を受け入れなければいけない。
改めてそう思うカレンだった。
小一時間ほど歩き回り、漸くキラービーの巣らしきものを発見。
目的はキラービーの巣ではなく、あくまでも巣の周辺に群生する薬草採取なので、キラービーに見つからないように探していく。
二十メートルほど離れた場所で、薬草を発見した。
ただ残念なことに、キラービーの巣から丸見えで、見つからずに採取するのは難しいだろう。
「どうするか……」
ヒソヒソと皆で作戦会議に入る。
せっかく見つけた薬草だが、危険を回避して次を探すか、どうにかして目の前の薬草を採取するか……。
「ねぇねぇ、カレンがこの前の授業でやった、女神の檻でキラービーの巣を囲っている間に採取するのはどう?」
「それなら安心して採取出来んじゃん」
「……採取後に女神の檻を解除したら、怒ったキラービーが一斉に飛び出して来ますよ」
ウィリアムの言葉に皆が、ハァと大きな溜息をつき、首を垂れる。
「あの、一時間ほどでしたら、近くに居なくても障壁を維持することは可能ですよ?」
カレンの言葉に皆が小声で叫ぶ。
「「「早く言ってよ(くれよ)(下さい)」」」
「す、すみません」
ウィリアムが、コホンと小さな咳払いをする。
「では、改めて。カレンの女神の檻で巣を囲っている間に、速やかに薬草を採取し撤退しましょう。この薬草の採取方法ですが、採取して良いものは葉が十枚以上あるものに限ります。そして必ず下の葉四枚は残して採取すること。絶対に全部を毟り取るようなことのないように。特にキース、私は君が一番心配ですね」
「なんでだよ! 薬草が取れなくなったら困るからだろ? そんくらい俺にだって分かるわ!」
ウィリアムが目を細めてキースを見ている。
きっと心の中で「本当に?」と思っているのだろう。
「まあ、分かっているなら良いでしょう。じゃあカレン、お願いします」
カレンは頷き、一つ深呼吸をして「女神の檻」と唱え、キラービーの巣に障壁を張る。
それを目で見て確認し、薬草の所まで皆で向かった。




