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サーナがギルドマスターであるツァイを連れて階段を降りて来た。
「待たせて悪かったね~」
「いえ、お忙しいのにお時間をとって頂いて、ありがとうございます」
「いやいや、遠慮はいらないよ~。デニスから『娘を頼む』と言われているからね~」
相変わらず歳を感じさせない綺麗な容姿と、残念な話し方である。
ツァイは優しい笑みを浮かべ、カレンの頭を撫でた。
「まぁ、頼まれなくたって〜、大事な親友の子どもは僕にとっても大事な子どもだから~。それじゃあ、登録前に魔力の測定してもらおうかな~。……と、その前に〜、そっちの彼氏くんを紹介してくれないかい〜?」
ニヤリという言葉がピッタリな笑顔で言われ、せっかく冷めた顔の熱がまた瞬時にぶり返してしまう。
「か、か、彼氏じゃないです。そんなっ、き、キース様に失礼ですっ!」
つい声を張り上げてしまい、周りにいる人の視線が痛い。
あわあわしていると、キースが咳払いを一つして、
「キース・ウォーカーです。カレンとは同じクラスの友人です。今日はよろしくお願い致します」
珍しく丁寧な口調で挨拶していた。
受付の隣の小部屋に、まずはキースとサーナが入っていった。
「カレンちゃんの魔力は僕が測定するからね~」
「はい、よろしくお願い致します」
五分ほどでキース達が小部屋から出てきたのだが、キースの顔が少し赤いような……?
入れ替わりにツァイとカレンが小部屋に入る。
「そっちの椅子に座ってね~。じゃあ、カレンちゃんから見て左側の水晶玉に触れてくれるかな~」
左手を水晶玉に乗せると、掌から何かが吸い取られるような感覚がして、ツァイが楽しそうに笑っている。
「八万か〜。カレンちゃん、また増えたね~」
「もう、笑いごとじゃないですぅ。ツァイ様から頂いた魔力抑制のピアスをしていても、二万を超えしてしまうんですもの」
ツァイの残念な話し方につられて、一緒にいるとつい子どものような口調になってしまう。
ツァイには、その方が喜ばれるのだけれど。
「じゃあ、もう少し抑制力のあるピアスを用意してあげるよ~」
「ありがとうございます。助かります。……あ、図々しいお願いとは思うのですが、お揃いのピアスを頂くことは可能ですか? 一つは何も付加させなくてよいので」
「さっきの彼氏くんとペアにするの~?」
ツァイがニヤニヤしながらそんなことを言い、せっかく落ち着いていたのにまた顔が火傷しそうなほどに熱くなった。
「ち、違いますっ。アルとお揃いにするんですっ!」
「顔真っ赤にしちゃって~。いやぁ、青春だね~」
「ツァイ様っ! もうっ、知りませんっ!」
ツァイは一頻り笑ってから、
「じゃあ、これに記入してね~」
と、一枚の用紙を出してきた。
カレンはそれにスラスラと記入していき、ある項目のところで手を止める。
「魔力量と属性ですが……」
「ああ、魔力量は一万八千。属性は予定通り光と風と水の三つで登録しておこうね~」
ツァイの言われるままに記入していく。
全ての項目を記入し、ツァイに渡す。
「よし、じゃあ受付に行くよ~」
小部屋を出て、受付のサーナの前へ並んだ。
ツァイがベンチにいるキースを呼び、二人一緒にギルドカードについての説明を受ける。
カードはブロンズ、シルバー、ゴールド、ブラックの四種類。
ギルドのランクはF、E、D、C、B、A、S、SS。
ブロンズカードはFとEランク、シルバーカードはDとCランク、ゴールドカードはBとAランク、ブラックカードはSとSSランク。
これはどのギルドでも共通して決まっているそうだ。
依頼を受けた報酬は全てこのカードに記録され、大抵のお店でカードで買い物が可能とのこと。
記載された金額以上のものは買えないので、デビットカードのようなものだと思えば分かりやすいかもしれない。
もし現金が必要なら、ギルドの受付で引きおろすことも可能だそう。
尚、誰でも最初はブロンズカードからスタートし、カードは紛失すると再発行にペナルティーとしてかなりの金額が掛かるため、気をつけるようにとのことだった。
そこまで説明を受けると、サーナがブロンズカードを二枚差し出す。
「こちらのカードに少しで良いので、魔力を流して下さい」
魔力は指紋と同様に同じものがないそうで、カードが悪用されないために魔力を流し登録するようです。
キースとカレンで一枚づつ、魔力を流したカードを一度サーナに戻し、彼女が機械のようなものにカードを入れる。
「はい、登録完了です。こちらがキース様のもの、こちらがカレンちゃんのもの」
と、順番にカードを渡された。
「身分証明書にもなりますので、決して失くさないように気を付けて下さいね」
「「ありがとう(ございました)」」
思った以上に早く登録が出来てしまった。
受付は更に混み始めたので、邪魔にならぬよう本日何度目かのベンチへと向かう。
ベンチへ二人腰を下ろすとキースがポソッと呟いた。
「案外簡単に登録出来るんだな」
「本当ですね。もっと時間が掛かるものと思っておりましたので、拍子抜けというか……」
顔を見合わせて笑い合う。
カレンもだが、キースも少し緊張していたようだ。
笑ったことにより肩の力が抜けたらしく、体が幾分か軽く感じる。
「なあ、腹減らね?」
「そういえばもうお昼ですね。奥のカフェでも良いですし、キース様のオススメのお店がありましたら、そちらでも……」
「じゃあ、俺のオススメの店で」
「では、アルを迎えに行ってから参りましょう」