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「次。エドワード・ヒューズとエヴァンス・クルス」
こちらの二人はどちらかと言えば、魔法<体術な人らしい。
前世で言うところのボクシングに近い動きをしているように思う。
……ちょっと(?)こういうのは苦手なので、魔法の練習をすることにする。
まずは直径一メートルほどの魔力の球を作り、そしを圧縮していく。
徐々に徐々に、小さくなっていく魔力球。
途中でリンがそれに気が付いた。
「カレン、何やってるの?」
魔力の球を綺麗な球体に保ったまま、圧縮をかけて小さくしていることを説明する。
これを続けることにより、魔力のコントロールが格段に上がると伝えれば「私もやるっ!」と、早速カレンと同じくらいの大きさの魔力球を作ろうとするが、大きくすればするほど密度が低くなってしまう。
「何これ? ホント難しい! 大きくすると密度が低くなるから、大きく出来ないよ?」
少し悔しそうである。
「いきなりは難しいですから、先ほどのテニスボール大のものを圧縮するところから始めて、慣れてきたら少しずつ大きくしていけば大丈夫ですよ」
カレンが言えば「だね。よっしゃ、頑張るか」と、意気揚々とテニスボール大の魔力球を出し、圧縮をかけ始めた。
ちなみにカレンの目標は、今の倍まで圧縮出来るようにすることと、圧縮にかける時間を今の半分にすることだ。
キース達は対戦を見ながら楽しそうに、この場合はこうしてああしたらどうだ? などと話し合っている。
カレンの魔力球が二十センチほどまで綺麗に圧縮されたところで、
「次。オリビア・モーガンとカレン・リード」
いきなり名前を呼ばれたことに驚き、集中力が切れたことにより魔力球が霧散してしまった。
前の人達の対戦は、いつの間にか引き分けという形で終わっていたようだ。
「頑張って」
リン達が笑顔で送り出してくれているのだから、笑わなきゃと自分に言い聞かせるものの。
今の自分はきっと、酷い顔をしているだろう。
(……ああ、行きたくない)
発動した魔法を見て降参してくれたらいいとは思うが、そんな簡単に降参などしないだろう。
けれど、そうでないとカレンの魔法はただの張りぼてと同じなのだ。
出来れば痛い思いをしたくないし、してほしくもない。
どうしたらいいのだろう?
いくら魔力コントロールの精度を上げても、使用することが出来なければ意味がない。
三分間逃げ続けるのはカレンの運動神経では多分無理で、仮に出来たとしてもそのやり方は褒められたものではない。
この対戦が終わってからも、皆と一緒にいられるのだろうか?
……とうとうステージに着いてしまった。
対戦相手のオリビアも、少し緊張しているようだ。
無情にもヴァイス先生の口から「始めっ」の声が発せられた。
それを合図にオリビアが詠唱を始める。
この詠唱は風魔法中級のウィンドビースト、所謂かまいたちだろう。
魔力の密度はあまり高くなく、コントロールもそこそこではあるが、このままいけば切り刻まれて傷だらけになるのは確実である。
カレンは咄嗟に、光の上級魔法を詠唱破棄していた。
「女神の障壁」
これは術者を中心にドーム状に障壁が張られ、物理攻撃は通さず、魔法攻撃は全て跳ね返される。
ちなみに内側から外側への魔法攻撃は可能。
ウィンドビーストが障壁に当たり、そのままオリビアに跳ね返される。
オリビアは慌てて逃げ出し……転んだ。
その頭上スレスレをウィンドビーストが抜けていき、転ばなければ危ないところだったのだが。
今ので緊張していることすら忘れてしまったのか、オリビアは憤慨した様子でウォーターランスを発動した。
そして跳ね返される。
憤慨して魔法を発動し、当然跳ね返される。
……もしかして、このまま障壁の中にいれば、運動神経関係なく三分間逃げ続けるのは可能では?
なんて甘いことを考えていれば、ヴァイス先生からそれはダメだと注意されてしまった。
とはいえ、凄い勢いで魔法を連発しているオリビアの前で障壁を消すのはちょっと……。
ということで。
「女神の檻」
これは女神の障壁の逆バージョンで、術者ではなく相手にドーム状に障壁が張られ、外側から内側に魔法攻撃は可能だけれど、内側から外側への攻撃は不可能。
ちなみに内側は反射するようになっている。
そんなわけで、オリビアが連続で放つ魔法が内側で跳ね返り、物凄いことになっていた。
複数個のボールを使ったドッジボールでコート内を逃げているような感じと言ったら分かりやすいだろうか?
ある意味、これがカレンの唯一の(他力本願の)攻撃魔法のようなものである。
ちなみに女神の檻を発動したと同時に、女神の障壁は消している。
先生は微妙な顔をしながら、女神の檻の中のオリビアを見ている。
オリビアは意外にも運動神経がとても良いのか、反射神経がとても良いのか、ギャーギャー騒ぎながらも全てギリギリで躱し、その間に三分が経ち引き分けとなったのでした。




