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体術の授業が始まる。
これは、前世で言うところの柔道や空手だろうか?
中等部では体術を学び、高等部になると武器を使用した本格的な戦闘訓練へ移行するようだ(魔武器精製や使い魔の召喚は高等部に入ってから)。
見れば見るほど、少し前に頑張りますなどと思っていた気持ちはミジンコほどに小さくなり、全く出来る気がしない。
まずは二人一組となって投げ技(背負い投げ?)の練習をするとのこと。
相手はもちろんリンだ。
かなり身長差があるが、そこは気持ちでカバーということにしておく。
先ずはリンが先にカレンを投げる。
「ここを持って、足はこうで腰はこうやって回していくの。腕力で投げるわけではないからね?」
細かい注意点なども混ぜながら、カレンに理解出来るよう丁寧にリンが教えてくれた。
「じゃあ、やってみて」
「はいっ!」
え~っと、まずここを持つんでしたね。
そして足は右が前……あら? 左が前でしたっけ?
で、腰を回しながら投げ……投げ……投げ……られない!?
「リンちゃ~~ん」
リンがお腹を抱えて大笑いしながら、カレンの頭をワシャワシャと撫で回す。
途中笑いすぎなのか、変な呼吸音が聞こえくる。
……笑い過ぎです!
◇◇◇
ランチタイムに突入しました。
今いるのは先日(中間テスト)お疲れ様会をやったカフェである。
「いやぁ、笑ったわ」
「リンちゃんは、笑いすぎなんですっ!」
体術の授業で、リンを一度も投げることが出来ずに一人ジタバタする姿を周囲に見られ、大変恥ずかしい思いをしたのだ。
キースやウィリアムに至っては、声も出せずに蹲って体を痙攣させるようにして笑っていて。
全く、酷いです!
「悪い悪い……何か、想像以上で……ブフォッ」
「キース、笑い過ぎですよ」
ウィリアムはカレンの頭を撫でながらそう言うが、先ほどキースと一緒に痙攣するほどに笑っていただろうと、カレンがジト目で見るとバツが悪そうに苦笑した。
ランチを済ませ、四人でカフェを出る。
前を歩いていたキースが「あ、そうだ」と言って振り返る。
「次は魔法学の実践授業だったよな?」
キースの一言で、カレンは一気に叩き落とされた気がした。
なぜカレンは実践授業を嫌がるのか。
それは魔法学の実践は対戦だからだ。
呼ばれた者から順番に、一対一で魔法と体術のみで対戦していく。
その他の生徒は、その対戦を見て参考にするも良し、魔法の練習をするも良し。
対戦する簡易ステージには防死結界が張られており、ステージを降りるとどんなに酷い怪我でも元通りに戻り、痛みも消える。
ステージ上の死も、ステージを降りればなかったことにされるのだ。
異世界は、国をグルリと囲った塀の外へ一歩出ると、死と隣り合わせとなる。
そのせいか、この世界では魔物を殺すことに関して全く罪悪感などない。
自分や大切な人が魔物に襲われそうになったとしたら、守るために殺すだろう。
お腹が空いて食べるものが何もなければ、生きるために狩るだろう。
けれどそれ以外の理由では、殺さずに済むのならば殺したくない。
そんな考え方が異世界では通用しないことくらい、カレンにも分かってはいる。
とはいえ、『死』というものに関する考え方が前世寄りのままで、いつまで経ってもこちら側に慣れないのだ。
戦うことに関してもそう。
スポーツと違い、怪我をするのは当たり前。
魔法で簡単に殺せてしまうのだから。
魔法の発動は可能なのだ。
……ただ、相手にソレを放とうとすると、無意識にストッパーのようなものが掛かるようで、魔法がかき消えてしまう。
この学園に通う前まで教えてくれていた先生にも原因は分からず、仮説として言われたのは、無意識に魔法の発動自体は認めているが、人に放つことを認めていないのではないか、と。
何度試しても結果は変わらず、それでは出来ることからと、治癒魔法と結界を中心に学ぶことにしたのだ。
現在、カレンはどちらも最上級までの魔法を習得している。
詠唱破棄は上級まで可能だ。
今のカレンは防御力百、攻撃力ゼロといったところだろう。
もし戦えないと分かってしまったら、リン達はどう思うだろうか?
なぜ今まで黙っていたのかと怒られる?
足手纏いは要らないと、パーティーを組むことを拒否される?
……また、独りになる?
色々考え過ぎて、だんだん分からなくなってきてしまった。
眠れていないこともあり、思考がどんどん悪い方へ悪い方へと進んでいく。
「何か顔色良くないけど大丈夫?」
リンが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「大丈夫、です……」
「我慢出来なくなったら言うんだよ?」
「……ありがとう、ございます」
魔法学の実践授業は第一訓練室で行う予定なので、教室には戻らずそのまま向かっている途中だ。
足が重いが、逃げ出したい気持ちを何とか押し込めながら、皆について行く。
……ああ、第一訓練室が、見えてきた。




