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ウィリアム目線です
中間試験一週間前になり、キースとカレンが苦手な教科を教えて欲しいと言うので、リンと手分けして放課後の図書室で教えることになった。
僕とリンの実力は全く問題なく、キースは頭が悪いわけではないが、やる気の問題だろう。
カレンはどの位できるのか、まだまだ未知数といったところか。
図書室で四日ほど教えていたが、中間試験が近づくにつれ慌てて勉強を始める者が多くなり、席が取り辛くなってきた。
全く、毎日予習復習をキチンとすればいいのに。
これはまあ、キースとカレンにも当てはまってしまうので口には出さないが。
「私の部屋で勉強しませんか?」
カレンがにっこり笑顔で提案してきたので、ありがたくそれに乗ることにした。
初めて入った部屋は、流石は貴族専用の部屋だけあって広く、そしてとても落ち着く空間になっていた。
派手な装飾はないが、どれも素材の良いものを厳選しているだろう調度品に、センスの良さが伺える。
もっとゆっくり見たいところだが、とにかく時間が惜しいのでダイニングテーブルを囲んで勉強を始めた。
カレンは薬学が苦手らしく、リンが担当して教えている。
キースは暗記などの覚えるものが苦手なタイプだ。
中でも歴史は全く興味がないようで、なかなか覚えない。
……時間もないことだし、少しスパルタでいくか。
小一時間ほどすると、キースは魂の抜けたような顔で机に突っ伏し、怪しい呪文を繰り返している。
僕が教えているのは歴史であって、怪しい呪文ではないのだが?
リンもカレンも、怪しいものを見る目でキースを見ている。
そんなタイミングでカレンの侍女が声を掛けてきた。
「こちらにお茶のご用意を致しましたので、少し休憩されてはいかがでしょうか?」
この侍女、出来るな。絶妙のタイミングだ。
キースはさっきまで死んだ魚のような目をしていた癖に、ガバッと跳ね起きてさっさとソファーに座っている。
そこにはお茶だけでなく、ケーキも用意されていた。
甘いものはあまり得意ではないが、いただかないのも失礼だろうと口に入れる。
うん、美味い。これなら僕でも食べられる。
僕が苦手なはずのケーキを味わっていると、
「何これ。ケーキも美味しいけど、こんなに美味しいお茶、飲んだことない!」
リンが興奮した様子ではしゃいでいる。
そんなリンの様子にご機嫌になったカレンがドヤ顔をして言った。
「マリアはリード家で働く者の中で、お茶を淹れるのが一番上手なんですよ。因みにこのケーキもマリアが作りました」
いやいや、カレンが(お茶を)淹れたわけでも、(ケーキを)作ったわけでもないだろう?
他の奴が同じことをしたら、厳しい突っ込みを入れてやるところだが、カレンのそれは小さな子どもが精一杯「凄いだろう」とアピールしているように見えて、とても微笑ましい。
リンはクツクツと笑いながら、カレンの頭をワシャワシャと撫で回す。
きっと僕と同じようなことを思っているのだろう。
ケーキと一緒に出されたお茶は、先日町に行った時に買ったお茶とのこと。
店主が熱心に語るだけあって、とても良いお茶だ。
懐具合もあって買えずに帰ったが、カレンのお陰でどんなお茶か知ることが出来た。
今後の参考にと色々聞いておいて良かった。
気候や湿度に土など、栽培方法が難しいとのことだったが、この味わいのお茶なら多少高くても絶対に人気が出るだろう。
今のうちに交渉出来るか、商会に手紙を出しておくか。
「さて、休息も出来たことだし勉強の続きだ」
キースの目がまた死んだ魚の目になっているが、気にせずスパルタで詰め込むうちに、更に小一時間ほど経っていた。
「皆様、お食事は如何致しましょうか?」
その声に合わせて、キースのお腹がキュルルっと音をたてる。
「腹減ったな」
「マリア、お願い出来るかしら?」
「かしこまりました」
綺麗にお辞儀をしてから、カレンの侍女がキッチンへと向かう。
リンが気まずそうに小声で囁く。
「カレン、晩御飯までいただくのは流石に悪くない?」
「私が皆様と一緒に食べたいんです。それにマリアの作ったご飯はとっても美味しいんですよ? ……ダメですか?」
……カレンに垂れた耳と、垂れた尻尾が見える気がする。
最後の台詞にリンがノックアウトされた。
折角だし、ご相伴にあずかるとしますか。
◇◇◇
「こんなに美味しい和食をいただくのは、久しぶりですね」
いや、驚いた。
まさかこれほどとは思わなかった。
あの短時間でこれほどのものを作り上げるとは。
気が付けば、僕はマリアさんにレシピを聞いてしまっていた。
コレを試食で配って、食材購入者のみにレシピの書いた紙をプレゼントすれば、売上大幅アップに繋がるのではないか。
部屋に帰ったら、早速手紙を書かなければ。
僕は上機嫌でカレンの頭を撫で回してやった。
カレンは首を傾げて不思議そうにしていた。




