8
中等部の校舎へは、寮から歩いて十分ほどで到着した。
教室に入るとまだ数名しか来ていないようだった。
「おはようございます」
挨拶をし、席に着く。
昨日配られたプリントに記載されていた今日の授業は魔法学とHRのみで、今週いっぱいは午前中で授業が終わる予定だ。
用意していた真新しい魔法学の教科書などを鞄から机の中へ移した頃、ウィリアムとキースが教室に入って来た。
「おはようございます」
ウィリアムがにこやかに挨拶した後に、「はよ」と眠そうな顔をしたキースが挨拶する。
「おはよう」
「おはようございます」
リンと共に挨拶を返す。
キースが大きな欠伸をし、それを見たウィリアムがクツクツと笑う。
「相変わらずキース坊っちゃまは朝が弱いんだな」
「おまっ、坊っちゃまとか言うなよ!」
キースは顔を真っ赤にし、リンがその様子を見てお腹を抱えて笑う。
昨日はどうなることかと思ったが、何だか楽しくなりそうな予感がして気付けばカレンは自然と笑顔になっていた。
チャイムと同時に先生が教室に入って来る。
「全員揃ってるな」
空いている机はないので、全員揃っているのだろう。
「昨日は全員の自己紹介はしたが、俺の紹介はしていなかったな。担任のヴァイスだ。魔法学の担当だ。と言うわけで、そのまま授業に入るぞ。教科書開け~」
机の中から教科書とノートと筆記用具を出す。
ヴァイスが教科書を読み上げ、そして補足を黒板に書き、かみ砕いて説明していく。
ヴァイスの授業は今まで教えてもらったどの先生達よりも分かり易く、とても楽しく感じた。
上手く説明出来ないが、何となくぼんやりと見えていたものがしっかりと見えるようになった感じというか、理解出来ることが楽しくてもっともっと教えてほしくなる、そんな授業だった。
気付けばあっという間に魔法学の授業が終わってしまった。
さっさと終わらせて帰りたいというヴァイスの希望により、休憩時間なしでHRの時間となる。
今日はクラス委員を決めるとのことで、教室内は騒ついていた。
「あ~、我こそはと立候補する奴はいるか~?」
ヴァイスが面倒くさそうに聞いているが、誰も手を挙げる人はいない。
「んじゃ、ウィリアムお前やれ」
「え? 私がですか?」
突然指名されたウィリアムが戸惑いの声を上げると、周りの皆は昨日ヴァイスが言ったことをすっかり忘れてしまったのか、平民がクラス委員など……と口々に不満を吐き出し始めた。
前世の自分はテストで良い点数をとる必要があり、必死に頑張った結果を先生に褒められると、周りの皆から口々に不満や嘲笑が上がって、とても悲しい気持ちになることが多々あった。
いま正にその頃と同様に悲しく、そして自分が言われることよりも、自分の大切な誰かのことを言われる方が遥かに不愉快だということを知った。
「お前ら昨日の俺の話を聞いてなかったのか? そんなに文句があるなら、ジェイク。お前がクラス委員をやれ」
ヴァイスが不愉快そうに眉間に皺を寄せながら、一番騒いでいたジェイクという少年にそう告げた。
「なっ、なぜ私がそんなクラス委員などにならなくてはいけないのだ!」
ジェイクは勢いよく立ち上がり、机にバンッと手をついて怒鳴りながら、ヴァイスを睨みつける。
「平民のウィリアムが嫌だってんなら、他に誰かがやるしかねえだろうが。否定するだけならバカでも出来るんだよ。平民が嫌だ、自分がやるのも嫌だってんなら、納得いく奴をさっさとお前の責任で決めやがれ。俺はサッサと帰りてえんだよ」
ジェイクは悔しそうな顔をしつつ、誰かに押し付けようとしているのか、教室内を睨むように見回すけれど、皆押し付けられては堪らないとばかりに目を逸らす。
そんな様子を見て一つ大きな溜息をつくとキースが手を挙げた。
「ヴァイス先生。これじゃいつまで経っても決まらねえし、仕方ねえから俺がやるわ」
貴族だし文句ねえだろと、ジェイクの方に軽蔑の眼差しを向けて。
ジェイクは何か言いたげな顔をするも、伯爵家の彼よりも侯爵家であるキースの方が爵位が上なので、悔しそうに顔を歪めながら席に座った。
「よし、クラス委員はキースに決定。これにてHRは終了だ」
そう言うと、ヴァイスはそそくさと教室を出て行った。
……この二日間で、何となくヴァイスの人間性が分かったような気がするSクラスの生徒達であった。




