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その中から選ぶのなら、白銀かアルジャンかな?
……どちらも好きな響なので悩む。
それならばと、本人に聞いてみることに。
「あなたのお名前ですが、白銀とアルジャンの二つで迷っております。あなたご自身では、どちらがよろしいでしょうか?」
お弁当を入れていた籠を肘にかけ、仔犬なフェンリルを抱っこしながら屋敷に向かっている。
フェンリルは顔をカレンの方に向け、首を傾げた。
『しろがねとは聞いたことのない響だが、何か意味はあるのか?』
その姿もまたとても可愛らしい。
カレンは思わずフェンリルの頭をナデナデしながら答える。
「しろがねとは、ここではない世界の言語で特定の色を指します。アルジャンも同色を指した言葉で、あなたの毛並みの色からとりました」
『ほう……我の色か。では呼びやすい方でアルジャンにするとしよう』
仔犬な姿では表情は分からないけれど、フェンリルの纏う空気が喜んでいるように感じられた。
尻尾も若干振れてる気がする。
「では、改めてよろしくお願いしますね、アルジャンさん」
『我もよろしく頼む。そして、さんは要らぬ』
にっこりと笑顔で言うと、アルジャンはそう言ってフイっと顔を背けた。
もしかして、照れてる?
「はい、アルジャン」
カレンはそう答え、またアルジャンの頭をナデナデ。
『してカレン、先ほどここではない世界と言っていたが……』
ナデナデしていた手がピタッと止まる。
カレンは少し考えてからアルジャンにはあの世のこと(閻魔大王、赤鬼、恩赦の件など)以外、全て話すことに決めた。
「はい、家族にも内緒にしておりますが、私には前世の記憶があるのです。私の前世はここではない世界の住人でした」
私はゆっくりと歩きながら、アルジャンに前世の私の世界を説明していく。
『魔法のない世界なぞ、考えられぬな。随分と不便な世界だったのではないか?』
「いえ、魔法のかわりに科学が発展しておりましたので、特に不便なことはありませんでした。魔物などもおりませんでしたし」
アルジャンはクワッと目を見開いてカレンを凝視する。
これはきっと、魔物がいないということに吃驚した表情なのだろう。
とても可愛らしい。
「その世界では、この世界のような魔法のある世界をファンタジーというジャンルで、様々な書物が売られておりました。私も大好きで、たくさん読んでその世界に憧れていたのです」
アルジャンは黙ってカレンの話を聞いている。
前世の私の境遇や交通事故で死亡したことなど簡単な説明をした。
「小さい時に頭を強打し、前世の記憶を思い出しました。逆にそれ以前の記憶は失ってしまいましたが……。気が付けば、私は小さな子どもになっていますし、姿形も変わっておりますし、何より憧れていた世界の住人となっているのですもの。とても驚きました」
ふふふ、と笑っていると。
『カレンは今、幸せか?』
カレンの目を見てアルジャンが聞いてくる。
これはきっと、アルジャンがカレンを心配してくれているのだろう。
「ええ、とても幸せです。アルジャンに出会えたことも、とても嬉しいです」
アルジャンは『それは良かった』と言い、目をつむり動かなくなった。
お腹がいっぱいで眠くなったのだろう。
とても温かい。
カレンは寝てしまった仔犬なアルジャンを見つめ、久しぶりの心からの笑顔と軽い足取りで、屋敷に帰るのだった。




