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転生令嬢の異世界愛され生活〜ご褒美転生〜  作者: 翡翠
第二章 モフモフに出会いました 〜カレン11歳〜
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 大きさは百三十五センチ(自己申告)のカレンでもまだその狼の顎下まで届かないほどで、とても綺麗な白銀色の毛並に、吸い込まれそうな琥珀色の瞳。

 不思議と、そこにいる狼を怖いとは思わなかった。

 狼の纏う空気は気高く凛としていて、とても美しく、思わず「綺麗……」と呟いてしまうほどに。

 目線を少し下にずらした時、狼の後ろ脚に血が付いているのに気付く。


「大変、怪我してるのではないですか?」


 慌てて駆け寄るけれど、狼は特に警戒する様子もなく。

 これ幸いとギリギリまで近付いて後ろ脚を見ると、踵部分がパックリと割れて骨が見え、かなり酷い傷だということが分かった。


「酷い傷……。今治しますから。少し痛いかもですが、動かないでくださいね?」


 狼の傷に手を添え、まず傷周りの洗浄に水魔法を使って洗い流し、治癒魔法上級の『天使の息吹』を発動させると、傷はみるみると塞がっていき、まるで怪我などなかったかのように元通りになった。


「良かった……」


 小さく呟くと、突然頭の中に声が響く。


『我が怖くはないのか?』


 とても吃驚(びっくり)したけれど、これは念話というものではないだろうか。

 狼を見上げるようにして、つい質問に質問で返してしまった。


「今のはあなたの念話ですか?」

『いかにも。治療してくれたことに感謝する』

「いえ、私の自己満足で治療させて頂いただけですもの。それよりあなたはお話が出来るのですね。驚きました。私はすぐそこの屋敷に住んでおります、カレン・リードと申します。あなたのお名前を伺っても?」

『我はフェンリルの幼生故に、まだ名はない』

「フェンリルって、失礼ですがあの神殺しのフェンリルと言われているフェンリルですか!? 寿命が近くなると子どもを産み、そして子どもに喰われることで知識や力諸々を引き継いでいくという……」

『大凡それで間違いないな』

「ふぁぁぁぁっ!」


 余りにも驚いて変な声が出てしまい恥ずかしくなって俯くと、今度はお腹からグギュウゥゥゥ~という音が響いた。


『「…………」』


(嫌ぁぁぁぁぁ、恥ずかし過ぎるっ!)


 穴があったら入りたいとはまさにこんな時に使う言葉だと、身を以て体感している最中だ。


『……食べぬのか?』


 フェンリルの幼生に気遣われてしまった。


「すみません、それではお言葉に甘えて……」


 敷物に座りお弁当を食べ始めると、今度はカレンのお腹ではなく、後ろからグギュウゥゥゥ~という音が。

 振り返ると、フェンリルの幼生が気まずそうにソッポを向いていた。


「一緒に如何ですか? ……って、これでは足りないですよね……」


 このサイズのお弁当では、フェンリルにとって一口で終わってしまう。

 屋敷に連れて行っても、この大きさでは中には入れないし……。などと思っていると。


『我が小さくなれば問題ない』


 そう言って、フェンリルの姿がどんどん小さくなっていったのだ。


「か、可愛い~~~~~!!」


 フェンリルの幼生の居た場所には、カレンの両掌に乗るくらいの、とても綺麗な毛並みの仔犬がちょこんと座っていた。

 カレンは小さくなったフェンリルの幼生を抱きしめ、モフモフを心ゆくまで堪能させてもらうのだった。



◇◇◇



 やはり肉食獣というか、先ほどからフェンリルは唐揚げしか食べていない。

 カレンはサンドイッチを頬張りながら、横で唐揚げを無心に食べているフェンリルをぼんやりと見ていた。

 こうして見ていると、ただの可愛らしい仔犬にしか見えない。

 籠の中には、唐揚げがあと一つ。

 フェンリルはカレンに気を遣ってか、悲しそうに最後の唐揚げを見つめるだけで、食べようとしない。


「どうぞ、遠慮なく食べてくださいね」


 にっこり笑顔で言うと『良いのかっ?』と琥珀色の瞳はキラキラという表現がピッタリなほどに輝き、尻尾が千切れんばかりに振れている。

 本当に、なんて可愛らしい。

 こうしていると、この仔犬がフェンリルだなんて誰も思わないだろう。


「どうぞ召し上がれ」


 カレンのその言葉と同時に、最後の唐揚げはフェンリルの口の中に吸い込まれていった。

 元の大きさでは全く足りない量だったけれど、仔犬サイズのフェンリルには丁度良い量だったようだ。


『馳走になった。コレは何という食べ物だ?』

「唐揚げという、鶏肉に味付けして粉をまぶし、油で揚げたものですよ」

『唐揚げ……』


 フェンリルは唐揚げがとてもお気に召したようだ。


『我はカレンと共に行くのだ。カレンと居れば唐揚げが食べられるのだ』


 そんなわけで、カレンと一緒にお屋敷に帰ることに。

 初めの凜とした姿は幻だったのだろうか?


(……私は今のフェンリルの姿の方が親しみがあって、可愛いくて好きだわ)


 一緒に行くにあたり、フェンリルには人目のあるところでは元の大きさにならないようにお願いした。

 フェンリルが居ると分かったら、良くも悪くも大騒ぎになってしまう。


「フェンリルさんとはお呼び出来ませんし、このままお名前がないのも不便ですから、私が(名前を)お付けしてもよろしいですか?」

『構わぬ』


 本人(人ではないけれど)からの許可も頂いたので、フェンリルの名前を考える。

 フェンリルからとってフェン……はそのまま過ぎて隠している意味がないし。

 彼の白銀色からとるなら、白銀(しろがね)、シルバー、アルジャン(フランス語)、プラータ(スペイン語)、ジルヴァラ(オランダ語)といったところだろうか。

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