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どんな武器にも変幻自在ですのに、使いこなせない私には過ぎた武器だと思いますが、縁あって私のもとに来てくれたのですから、大切に使いたいと思っています。
杖で使用することが多いですが、鋼糸として使用することもあります。
(自分で言うのも何ですが)手先が器用なこともあり、相性は良いようです。
月虹の能力は『形状変化』と『魔力軽減』と『増殖』の三つですが、余りにも強力過ぎるので、形状変化以外の能力は隠しております。
正直、隠し事をしているという事実はとても心苦しいです。
右手に月虹を握り、左手で月虹の頭の部分を撫で、小さく「よろしくね」と呟きます。
何となくですが、月虹が喜んでいるように感じました。
そうだったらいいな、という私の願望なのかもしれませんけれども。
皆様が魔武器を手に、集中されております。
先程半径二キロの所にいたグループは、あと一キロの位置にまで近付いていて。
相手グループの中にも、魔力探索力のある方がおられるのでしょう。
真っ直ぐこちらに向かって来ております。
「8人グループの様ですね。間も無く到着するかと思われます」
私の言葉に皆様身体強化をされ、その上から私が皆様に強化魔法を掛けていきます。
「これに勝って美味しいご飯といきますか」
ウィリアム様が笑顔で仰れば、皆が笑顔で答えます。
「「「「「了解」」」」」
肩の力が抜けたところで、相手グループが姿を見せました。
見覚えのある方がおられるので、きっとAクラスの方たちなのでしょう。
男女混合のグループのようです。
先に魔法で攻撃してきたのは、相手グループの方でした。
私達はまだ障壁を出ておりませんでしたので、魔法は障壁に当たり、消えていきます。
「いっちょ暴れて来るか」
と、エヴァンス様とエドワード様が笑顔で障壁から飛び出し、それに続いてウィリアム様とリンちゃんが走り出しました。
私もキース様と一緒に障壁を出ます。
エヴァンス様とエドワード様が対峙されておりますのは、剣に炎を纏った方と、槍に雷を纏った方です。
エドワード様達の魔武器は肘から先を覆うようなナックルという物だそうで。
そのナックルを覆うように障壁を張ります。
障壁に触れた雷は霧散する為、これで雷に感電する事もありません。
ウィリアム様には二人の男性が対峙しております。
二人共に大剣を使用しており、それをウィリアム様が薙ぎ払われ。
ここから見る限りはウィリアム様が若干優勢な気がします。
リンちゃんには、ボーガンを構えたスリムを通り越していると言える程細い男性が対峙しております。
とても素早い動きをされており、若干リンちゃんが苦戦されているように思えます。
そして、私とキース様の元には三人の男女が。
一人は大剣を所持され、キース様の前に立ちはだかり、残る二人の男女は私と同じく杖を手にされ、斜め後方よりこちらに標準を合わせている様子。
大剣を持った方がキース様に攻撃を始めました。
それと同時に後方の二人が詠唱に入ります。
一人は風魔法を、もう一人は火魔法のようですね。
未だ攻撃魔法を使用する事が出来ない私。
色々な魔法を使って戦い、経験を積む為とはいえ『女神の檻』や『女神の障壁』が使えないのは、やはり少し不便ですね。
二人の目の前に詠唱破棄で『ウォーターカーテン』を何重にも張り巡らします。
言葉の通り水の幕を重ねているだけのものですが、一枚一枚の魔力密度は濃く、お二人の魔法では一度に一枚を破るのがやっとという所でしょうか。
二人が躍起になってウォーターカーテンに攻撃をされている内に、月虹を鋼糸に変化させます。
横目にキース様を見遣ると、キース様が相手の方の大剣を弾き、弾かれた大剣が宙を舞っている所でした。
目線をウォーターカーテンの先のお二人に向け、一つ大きく深呼吸をし、鋼糸の届く範囲まで走って近付きます。
二人はウォーターカーテンを破壊する事に夢中になり、周りが見えていない様子。
タイミングを見計らってウォーターカーテンを消し、鋼糸でグルグル巻きにし、手足の自由を奪います。
キース様が相手のペンダントを壊してからこちらに走って来られ、グルグル巻きになった二人のペンダントも壊してもらいます。
先程苦戦されていたリンちゃんが気になり目を向けると、足を怪我されて動けなくなったのか、座り込んでしまったリンちゃんに向かい、矢が放たれようとしておりました。
このままだと、矢が彼女に突き刺さるのは確実。
自覚のないまま、私は叫んでおりました。
「駄目~~~~~~っっ!!」
頭が真っ白になり、ただただリンちゃんを助けなければと。
無意識にリンちゃんに女神の障壁を張り、相手の頭上には夥しい数の光魔法のホーリーランス(光の槍)が発動中。
ボーガンの矢は障壁に阻まれリンちゃんには届かず、数の暴力と言える程の光の槍にどこにも逃げ場が無く、ペンダントが破壊された相手の方は強制転移となりました。