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カマクラ擬きに朝日が差し込んで、目が覚めました。
あの後はグッスリと眠れましたので、頭の中もスッキリとしております。
付属した防音効果を外し魔力探索を行いますと、半径二キロ以内にあった拠点全てが無くなっておりました。
私達のように、昨夜の内に襲撃を受けたのでしょう。
サバイバルもあと一泊二日、明日の正午までです。
リンちゃんが起きたようで、小声で「おはよう」と。
私も小声で「おはようございます」と返します。
ウィリアム様を起こさぬように、二人そうっとカマクラを抜け出し、朝食の支度を始めます。
パンのような実を皮をむいて薄めにカットし、角煮は少し厚めにカットします。
昨日作っておいたジャムを用意し、これで今朝のご飯の支度はお終いです。
皆さんが起きてくるのを待ちます。
少しして、エヴァンス様が起きて来られました。
「おはよう」
「「おはよう(ございます)」」
その後にキース様が、そしてその後にエドワード様が起きて来られます。
皆様と挨拶を交わし、ウィリアム様が起きて来るのを待ちます。
誰もウィリアム様を起こしに行きません……。
ウィリアム様が起きて来ないといつまで経っても朝食がいただけないことに気付いたキース様が、ウィリアム様を起こしに行かれました。
意外にも、直ぐにウィリアム様を連れてキース様が戻って来られました。
思わずキース様の、体の裏表に傷が無いかチェックしてしまったのですが、ウィリアム様は苦笑いを浮かべてそれを見ておられました。
「おはようございます。昨日は恥ずかしい面をお見せしてしまい、すみません」
皆様の前で謝罪されたウィリアム様は、ばつが悪そうにされております。
「実は、睡眠時間が極端に短いと駄目なんですよ。しっかりと睡眠を取れていたら、あんな風にはならないのですけど」
成る程、寝起きが悪いのでは無くて、睡眠時間の問題なのですね。
「どれ位寝たら大丈夫なの?」
「五時間くらい眠れば大丈夫なのですが、昨日は三時間ほど寝たところでの襲撃でしたので……」
皆が納得した所で、朝食に致します。
パン擬き? に角煮を挟んで食べても良いですし、ジャムを塗って食べても良いですし。
お好きなように食べていただいております。
「このジャム美味しいですね。普通のいちごジャムよりも好きかもしれません」
ウィリアム様が野苺のジャムにハマられたようです。
「最終日に大量の野苺を摘んで帰りましょうか……」
ウィリアム様は有言実行されそうですね。
その時は私もお手伝いさせて頂きます。
食後のお茶を淹れ、皆様に配ります。そして。
「就寝前までにありました半径二キロ内にある四拠点全て、消滅しております。私達と同様に夜襲を受けられたようですね」
と、報告をさせて頂きました。
ウィリアム様が少し考えて。
「一日目でどれ程のグループが消えたのか分かりませんが。昨夜のようにただ襲撃を待って返り討ちにするのか、それとも積極的にこちらから襲撃しに行くか、どちらがよろしいですか?」
迷わずキース様は「奇襲で」と仰り、リンちゃんも「同じく」と頷かれます。
エヴァンス様が「待つのは性に合わないからな」と仰ればエドワード様は「皆に合わせるよ」と。
「では、打って出ることに致しましょう」
一見爽やかな笑顔でウィリアム様が仰り、そして。
「その前に……トラップを作りましょう」
爽やかな笑顔から一転、黒い笑顔に変わりました。
そう言えば、サバイバル用のお買い物に行った時にエドワード様たちが言っておられましたね。
「どんなの作る気?」
リンちゃんが若干引きつった笑顔で聞いております。
「先ずは定番の、障壁の外側に落し穴ですね」
声だけ聞いておりましても、とても楽しそうな様子が分かります。
「普通の落し穴では面白くありませんから、直ぐには出て来られないほどの深さにしまして、水攻めという方法もありますねぇ」
エドワード様とエヴァンス様が引いております。
彼らの思うトラップとは、若干方向性が違った模様です。
「あの、もう少しソフトなトラップに致しませんか?」
思わずそう口にしますと、ウィリアム様は少し考える様な仕草をされます。
「ソフトなトラップですか……ある一定の場所を踏むと、追跡機能付の丸い岩が追いかけてくるとか」
いえ、ソレ全然ソフトじゃありませんからっっ!
結局は、水攻めなしの落し穴に落ち着きました。
ウィリアム様が土魔法で障壁の外側を囲むように大穴を開けられ、そこに魔力玉を極力薄く板状に広げた物で蓋をします。
薄く土をかけて、完成です。
「戻るまでに何人くらい掛かっておりますかねぇ」
ウィリアム様、Gホイホイのような言い方はやめましょうね?
昨日作っておいたチャーシューとジャムをパンのような実でサンドし、二種類のサンドイッチ弁当を六人分用意して、出発致します。
途中川で水を補給し、魔力探索をしつつ、進んで行きます。
小一時間ほど歩いたでしょうか。
魔力探索に戦闘中と思われる二グループが引っかかりました。
「では、我々は彼らの戦闘が終結したら、背後から奇襲ということで」
気付かれぬよう、ゆっくりと向かいます。
目視出来る距離まで近付きましたが、二グループ共に見たことのない方たちでした。
Sクラスは他のクラスから教室が離れているため、あまり接点がありません。
たまに合同訓練をする時はAクラスのみですので、目の前で戦闘を繰り広げられているこの方たちは、B~Fクラスの方なのでしょう。