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恋してないけど愛してる

作者: 虹色 七音

一文、地の分の中に作者の声が混じっています。

 恋してないけど愛してる。


 まあ、当たり前の感情だ、妹が兄に向ける感情としてはな。

 だけど私は、兄と血が繋がっていない。まあ、いわゆる連れ子だ。要するに、その気になれば私は兄と結婚する事が出来る訳だ。

 まあ、年齢的に無理があるけど、そのままの意味で時間の問題だ。

 いや、まあ、状況的には何の問題も無いように見える。

 しかし、だ。

 私は兄を愛している。どのくらいかと言えば、自他共にブラコンと認める程度には、いや、それ以上。

 私は、兄妹愛の範疇に入らないレベルで兄を愛している。

 しかし、恋はしていない。


 ならばこの思いは、何だと言うのだろう。





     ☆





「そうねえ、いいんじゃない。あの子の母親としても、貴方の育ての親としても、応援するわ」


 そんな事を母さんに言われた。

 いやいや、いいのかよ。法律的には問題ないかもしれないけど、そういう問題か?

 だって、将来の夢は何かって訊かれて


「兄貴と結婚する事」


 って、答えたんだぞ。小学二年生や幼稚園児がじゃない、中学三年生の娘がだぞ?

 応援、するかねえ?

 と、そんな事を考えながら自分の隣の部屋――兄の部屋のドアをノックしながら開ける。


「兄貴ぃ、勉強教えてぇ」

「お前俺が中三だった時よりも勉強できるだろ」

「いや、あんた今高二だろ。それに勉強できるの良い兄貴がいるおかげですよ、っと」


 まあ、いつもの事ながら勉強を教えて貰うつもりなどは毛頭ない。だって、教えて貰うつもりならいきなりベッドの上に座らない。

 たまには本当に教えて貰いに来たりするが、ほとんどは兄と話す為だけにここに来ている。


「お前、そもそも勉強道具持ってきてないじゃんか」

「そりゃもう宿題終わってるし。勉強するつもりないし」

「勉強するつもりないって言っちゃったよ!?」

「まあまあ、兄貴だってほとんど宿題終わってるでしょ? 数学だったらちょっとは手伝えるよ?」


 なんたって、数検二級(高校2年生(数学Ⅱ・B)程度)を持っているのだ。それに今は準一級(高校3年生(数学Ⅲ・C)程度)の勉強をしている。まあ、そんな訳だから数学に関して言えばそれなりに天才少女であるという自覚がある。


「じゃあ教えて貰えるか? この問題なんだけど……」

「どれどれ。……ああ、これはね、こっちの式をこっちに移行して――」


 結局勉強を教えているのは妹の方だったが、そんな事はどうだっていいのだ。

 近くにいられるのだから。

 でも、何もかもが近くにいればいいと言う訳では、無い。


 近くにいるだけじゃあ叶わない願いだって、あるんだ。





     ☆





「兄の威厳とかぶち壊しだな」

「大丈夫、元々ないから」


 軽口をたたきながら勉強道具を片づける。

 さて、ここからが本題だ。あ、緊張してきた。

 ふぅ、女は度胸! やるか!


「ねぇ、兄貴って彼女いたっけ?」

「い、いねぇよ。と言うか今までまだ一人もいないって分かって言ってんだろ」


 いやいや、という感じで緩く首を振るが、まあ、忘れている訳がない。

 なんせブラコンですしね。兄に彼女なんて出来たら大事件だ。


「じゃあ、さ。好きな人とかは?」

「い、いないけどさ。そんなこと聞いてどうするんだよ」

「別に、言うのやめようかな、って思っただけ」

「言うって、何を?」

「ん~、それはねえ――」


 よし! 言うぞ! ふぅー。

 あ、すんごい噛みそう。だめ! 噛まない! 噛まない!


「えっと、さ。兄貴――」


 すぅ~。


「結婚、しにゃい?」


 セ―――――ッフ!!! 誰が何と言おうとセーフ!

 いや、ごめんなさい。アウトです。完膚なきまでのアウトです。穴があったら入りたい、ってか穴を掘ってでも隠れたい。


「今、噛ん……」

「でない。決して噛んでなどいない」

「というか、今……、なんて言った?」

「『結婚しない?』って、言ったんだけど。……聞えてなかった?」


 そう、結婚しない? だ。決して結婚しにゃい? では無いのだ。


「い、いや、聞えてたけど、お前……、何言ってんの?」


 まあ、これが当然の、というか、正しい反応だよね。母さんがおかしいんだから。

 でも、まあ、そうなんだけど、はぁ、って感じです。


「あーあ、傷ついた! 一世一代の告白を何言ってんの、ってのはないだろう」

「え? え、え~、あ。ごめん」

「いや、まあ私が悪かったよ。いきなり妹に告白されても意味分かんないよな」


 いきなりでは無くてもだいぶ意味分からないとは思うが、まあ、そこら辺はどうでもいいや。

 いつも通り会話の主導権はこっちが取ったし、これからこれから。いや、何がかは知らないけど。


「つまり、お前は俺の事が好き、ってことか?」

「そう、私は兄貴の事が好き」

「えっと、て、事は。お前に俺に恋しちゃってる、ってことか?」

「う~ん、違うと思う」

「んん? やっと少しだけ理解出来て来たと思ったらまた分からなくなったぞ」


 全く、男女間での“好き”が恋だけだと言うのは偏った考え方だと思うのだが。


「兄妹愛だよ、兄妹愛」

「いや、兄妹は結婚しないだろ」


 あ、それもそうか。というか、だからこそ悩んでいるんだけどね。


「……じゃあ、兄妹でヤっちゃう?」

「いやお前何言ってんの!!!??」

「えっと、ごめん。別にヤりたい訳ではないです。でも、モノの例え?」

「俺に聞くなよ。ってか何でそういう事がモノの例えになるんだよ!?」


 自分で考えんか! と、言いたいところだけど、ま、それじゃあ時間の無駄にしかならないからな。


「兄妹じゃあ、出来ないでしょ? そういう事も、結婚も、何も……」

「でも、お前。恋は、してないんだろ? 好きでも無い男と結婚したいって言うのか」

「え? 大好きだよ、兄貴の事」

「…………兄妹として、じゃなくてか」

「ううん。兄妹だけど、大好きなの。兄妹じゃあいられないぐらいに兄妹愛が膨れ上がったの」


 ……やっと、兄にも言いたい事が理解できたようだ。

 顔つきが、変わった。

 こういう所だよ、私が好きなのは。ちゃんと目の前にいて、考えてくれる。


「結婚ってのは……、兄妹愛の形なのかな?」

「さあね、そもそも、結婚って何なのかなんて私には分からないよ」

「こればっかりは、経験するってわけにもいかないしね」

「両親バツイチが何を言うか」

「あんま言うなよ、そういう事。……で、じゃあ、母さんにでも結婚の意味を訊くの?」

「いや、訊いてきた」

「ふ~ん、ん? あれ、え? もしかして、知ってるの? 母さん、そういう事」


 あ、そういえば、言ってもいいのだろうか。いや、言っても何の問題も無いのだけれど、何と言うか、何と言うかね!


「あ、あぁ~、その。知っていると言うか、ね」

「いや、ね、じゃないよ。ね、じゃ」

「あ~、うん、驚かないでね」

「おう、中学生の妹にプロポーズされた今、俺に恐い物はもうない」

「そう、じゃあ言うけど――」


「――私の夢は兄貴と結婚する事です。って言っちゃった(テヘペロ♡)」

「は?」


 あ、全力で驚いてる。面白いなぁ、兄貴は。


「え、ちょっと待って、お前、羞恥心は?」

「おい、失礼な質問だな。私にも羞恥心ぐらいはあるよ。だからこそさっき噛んじゃった訳だし」

「ん?」

「…………あ! 違う違う違う! 噛んでない! 絶対、噛んでない!」


 ヤバい、何やってんだ、私。

 ああ、穴掘りたい。いや、二階で穴を掘ったら一階に落ちるけど、というかそもそも穴を掘りたい訳でもないのだけれども!


「……うん。で、あ~、っとその。そ、そう、母さんは結婚についてなんて言ってたの?」


 ナイススルー! 兄貴、グッジョブ!

 母さんが、え~っと、なんて言ってたっけ。

 いや、覚えているんだけどね? その、さすがに長かったから全部は……。

 いいや、もう! 自分の本番力と頭を信じる!

 最悪自己解釈を入れる!


「あ、えっとね。確か、


『近くにいるって思っていても、本当はそうでも無いんじゃないかって不安な時があるから、そういう時のための、近くにいる、っていう証明。結婚ってのは、そういうモノだと思うよ。まあ、私の結婚が正しかったかなんてわからないけど、さ。本当に真剣(・・・・・)なら、結婚してもいいと思うよ』


 って、言ってた」

「本当に真剣、か」


 あ、そこなんだ。『近くにいる、っていう証明』とか、『結婚してもいいと思うよ』とかじゃなくて。

 というか、特に二つ目のは相当凄い事言っちゃてると思うんだが。

 まあ、いい。真剣、か。

 まあ、少なくとも。本当に好きか? って事じゃない事ぐらいは私にも分かる。

 たぶん、ここで言う“真剣”ってのは、ちゃんと考えてるかって事。


 経済的 理論的 精神論的 道徳的 論理的 感情的 理性的 感覚的 法律的 現実的 理想的 悲観的 楽観的 疑心的


 とかって言う、そういう事でちゃんと考えているのか、“真剣”に考えているのか、ってことだと思う。

 長いな。

 つまり、え~と、まとめるとぉ、


「まあ、たぶん。


 ――……………………――って、事なんじゃないかな


 きっと、そういう事だよ」

「ははは、お前らしいまとめ方だな」


 うん、やっぱり、そういう事だと思う。

 やっぱり結局人生なんて、そういうもんだ。

 そういう人生と、向かい合うんだ。

 向かい合って、歩いて行くんだ。


 歩きたいように、歩くんだ。





「そう言えば、結婚。どうするの?」


 兄の部屋のドアを開けながら思い出したように訊く。

 勿論、思い出した様に(・・)だ。正直ずっと気になっていた。


「あ~、それは。何時か、って事で、どう?」

「先延ばしかい。女が一世一代の告白をしたんだから、有耶無耶にしちゃだめだよ~」


 あれ、一世一代の使い方ってこれで当ってたっけ? ま、いいや。


「大丈夫、絶対有耶無耶にはしないよ。なんせ、可愛い妹の事だしね」

「嬉しいけどさあ、無理して可愛いとか言わなくていいよ?」

「む、無理してない……、訳ではないけど!」


 訳では無いんかい。


「可愛い、ってのは本当だよ」

「言うねぇ~。ま、うん。ありがとう」


 本当に、ありがとう。母さん達にも感謝だな。母さんと父さんが結婚してくれなければ兄とも兄妹になれなかった訳だし。


「でも……、兄妹で結婚とか、大変だと思うよ」

「まあ、そうね。でも、さ、そんなもんでしょ」

「うん、そうだね。きっと大変な事が色々ある」

「そう、きっと、沢山ある。歩き疲れるくらい」


 そう、人生は大変なのだ。

 歩きたい方に歩こうと思っても、


 上手く歩けなかったり、

 足がもたついたり、

 迷子になったり、

 壁にぶつかったり、

 歩き疲れたり、

 落とし穴があったり、

 歩きたくなくなったり、


 そういう事がきっとある。


 結婚だって、きっとそうなんだ。

 結婚したら、ゴールじゃない。結婚したって色々ある。

 結婚したら、家庭が出来て、疲れることだって増えるし、誘惑に負けたくなる事もある。

 例えば、浮気したりとか。


 そんな事が、きっと起こってしまうモノなんだ。


 新しい環境になればいろいろと変化が起こるし、何事にも飽きは訪れる。

 だから、きっと、


 結婚ってのは、人生の縮図なんだと思う。

 人生ってのも結婚みたいに思い通りには進まない事も多い事し、

 結婚ってのも人生みたいに流されてしまう事も結構沢山あって、


 そんな大変なモノであっても、生きなきゃいけないんだと思う。


 だから、きっと、そういう事なんだと思う。




























 結婚、なめんなよ!


 って、いう、そういう事だと、思う。

妹ちゃんは、

霧宮きりみや 悠璃ゆうり

兄は、

霧宮きりみや 昌吾しょうご 旧姓は、白橋しらはし

母は、

霧宮きりみや めぐみ 離婚した父親の性は、夕凪ゆうなぎ

父は、

霧宮きりみや 賢治けんじ

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