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ことの次第

どこから話そうかな。

僕は、生命の神秘ってやつに子供の頃から惹かれていたんだよ。もう、ぞっこんさ。浮気なんてしたことない。大好きな祖母が冷たくなって、土の下に葬られるのを見た日から、ずっと知りたくて、触れたくて、どうにかしたかった。恋だねコレは。


これでも頭はそこそこ優秀だからね、コレの赴くままにそりゃあ勉強して、研究の片手間で医者に成れるぐらいだったさ。患者を通して、命とか魂とかの観念に触れてるつもりのバカだったけどね。


色々な試行錯誤があって、僕は研究を一本に絞った。つまり「万能薬」だよ。

……胡散臭いって顔してるね。言えば言うほど胡散臭いだろうけど、言い方を変えれば「進化薬」かな。人間の細胞と融合して、再生力を高めながら増殖し続ける。生命を一つ押し上げる薬だ。


机上で完成させた時からはもう、それを現実にするためにあらゆることをやったっけ。下げられる頭は下げて、ほとんど脅しみたいなこともやって作製にのりだした。……そうやってまでして、成功率が天文学的な低さだったのが、笑うしかないんだけどね。……パトロンには秘密だよ?


ま、当然だけど結果は出なかったわけで、研究室を追い出される日も近いかなって時にね、奇跡、起きちゃったんだよ。


「雷鳴が、聞こえた」


そして、部屋の明りが消えたんだ。停電だ。試薬を混ぜてる装置がガタガタと嫌な音をたてた。

非常電気が働いて、部屋が明るくなって、薬が出来上がってるって気付いた時の僕の気持ちは、どうやっても言い表せないな。歓喜だけで死ぬかと思ったよ。生命そのものを手にして、笑えない。


さて、夢見がちから現実に戻ってきたらやることはいくらでもある。絶望的だけどね。僕はね、研究室を追い出されるところで、一人で荷物の整理なんてしてたんだよ。……デリケート極まる「進化薬」を長期間保存できる設備の当てなんか無かった。他のバカな連中にくれてやるならドブネズミの口にでも突っ込んでやった方がましだ。


いよいよその場で飲み干してやろうかと僕が思い詰めはじめて、また右往左往したりしてる様が面白かったんだろうな。神の福音のお次は悪魔の誘惑だ。


遠くから、サイレンの音がした。

とにかく酷い嵐だった。土砂崩れからの玉突き事故で街中の病院が怪我人と死人をもて余してたんだ。……僕が驚いたのはね、イヴ、自分がそんな恐ろしい事を考えられたのかって事と、鏡の中の僕が笑ってたことだよ。


「なんて好都合だ、神か悪魔か、もしかして両方が憑いてるに違いないってね」


神は中身を創り、悪魔が容れ物を運んで来た。人間たる僕は仕上げに注ぐだけ。……未だに人類史に残る偉業を、異形を成したって胸を張る気が起きないのは、そのせいかもだ。


君はね、イヴ、死体から産まれたんだ。

生き返ったとは、残念ながら言えないかな。記憶はその人がその人である最重要の証明だ。君は複数人の死肉に育まれ、君という新たな人格を有した。


だから……ねえ、なんで泣いてるの?

いや、君が涙を流せないのは知ってるよ。数少ない、退化だよね涙腺については。必要ないから消えたんだからやっぱり進化かな。


でも、泣いてるよ。涙を流せなくてもね。……ああ、どうしたら泣き止んでくれるのかな、僕のイヴ、愛しいイヴ?


「殺して」


それは出来ない。その上やりたくない。


「なら、せめて愛して」


もちろん、精一杯、ね。

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