目覚めたのは……誰だろう?
目を覚ますと何もなかった。
「……? ……え?」
上体を起こして見下ろすと、コンクリート、そうコンクリートで出来た地面、床が、ある。
変だ。
なにが変か、具体的にはまるで分からなくて、とても困ってしまうが、変だ。
なぜ自分はベッドに乗っているのだろう、寝ているのだろう。
ここはどこだろう、今はいつなんだろう、なにより。
「私は、えっと」
私は誰だろう、なんでこんな目にあっているんだろう? こんな目ってなんだろう?
記憶、記憶がこんがらがってる。絡まった靴紐をほどくのは得意なの。……いや、大嫌いだったような?
「……頭、いたい」
やめよう、頭の中を白くする。考えを締め出して、空っぽの状態でベッドに寝転び直す。
「なんなんだ……」
裸電球一個で照らされた部屋は薄暗く、驚くほど広い。壁と天井全て床と同じコンクリートで出来ていて、ドアは赤黒い錆をこぼした重苦しいのが一つだけ。
……閉じ込められている? いや、ドアを開けてみれば分かるのだけど……。
「……やだ」
動きたくない。ドアに触れて、もしも鍵がかかっていたら? どうしろというのだろう、なにも分からないこんな自分が。
真っ白いシーツに顔を押しつけて、何もない現実から逃げることにした。
意識をちらして、ただただ、時間が過ぎ去るのを待つ。
どれくらい経っただろう?
「……っ」
音がする。扉の向こうからカンカンと、規則的な足音が。
引き返して、入ってこないで、私を放っておいて、そんな、声にも出せない情けない祈りなんてどこにも届かず、重苦しい、悲鳴のような軋みを上げて、ドアがこちらへと開いた。
……どうやら、鍵は掛かっていなかったみたい。