死神の獲物
「勇者召喚」で呼び出した、女の子に嘘をついた。
嘘というか、一般に出回っている俺の「獲物」の話をした。
本当の最初の「獲物」は母上だった。
俺の小さい時の記憶は、母上が亡くなる少し前からだった。
3歳児の記憶なんて、と思われるかもしれないが俺は亡くなった母上のことをよく覚えている。
儚げな人だった。精霊かとおもうような。
空気に溶けてしまいそうな、雰囲気の笑顔が儚げな人だった。
周りの人々は、母上の最愛の人が戦争で亡くなってから、魂が半分連れて行かれたのだろうと言っていた。
俺の本当の父親は、戦争で亡くなった。
今の父親の親友だった人。
母上は、最愛の人が亡くなった知らせを聞いてからこの世で生きるのを辞めてしまっていたそうだ。
お腹に俺が居ることに気が付いた今の父親が、引き取った。
自分の側室として。
なんでも、親友の。母上の最愛の人の死を、知らせに行ったのが今の父親だった。
それ以来、母上のことを気にかけていたから、俺が居ることに気が付いたそうだ。
俺が生まれたとき、父方の祖父母が面会に来た。
亡くなった父親にそっくりの、赤銅色の髪をした俺は、生まれ変わりだとたいそう喜んだそうな。
母上も、少し生気を取り戻したらしい。
俺が2歳になるまでは。
無き父親そっくりの赤銅色をした髪が、成長するにつれて黄金色になった時から、母上はまた遠い人になった。
3歳になった時、父方の祖父母がやってきて、何か母上と言い争っていた。
いつも優しい祖父母だったが、その日は凄い目つきで俺を睨んで帰って行った。
それ以来、この城で祖父母を見かけることは無くなった。
こちらの世界に居る時は、優しい母だった。
俺は、母上が大好きだった。
少しでも自分を見てほしくて、いろいろなことをした。
あの日も、母上がとびっきりの笑顔で俺を良いところに連れてってくれると言ったので、俺もうれしくなって抱きついた。
母上に連れられた場所は、高い塔の上。
とても見晴らしが良くて、鳥が近くに飛んでいて、何より母上が笑顔で俺を見てくれていて・・・。
俺もうれしくなって、いろいろ母上に話しかけていたのを覚えている。
日が暮れかけて、あたりが赤銅色に染まった時、・・・・・。
母上が俺を抱えて、窓から身を投げ出そうとした。
とっさに柱にしがみついたのは、単なる防衛本能だったと思う。
母上が何か言っていたが、気にする余裕はなかった。
だが、所詮3歳児、そういつまでも、柱にしがみついてはいられない。
柱から手が離れた次の瞬間、俺は女官の腕の中に居た。
あわてて、母上に手を伸ばしたけれど、・・・届かなかった。
最後に見た母上のは、顔は・・・。
裏切られた、信じられないものを見た・・・。という、顔だった。
こんな、設定知りたくなかったんだけど、と主人公なら言うと思います。