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足跡まみれの異世界で  作者: 馬込巣立@Vtuber
第二章 変態飛行の藍色船舶編

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第十六話 王族の力とその代償

「こちら城壁常駐騎士団本部! 第〇九一砦、応答願います!」

『うっるさいな聞こえてるってば!』


“変態飛行の藍色船舶”出現に伴い、第五アラバスタ通り沿いの砦の中で最も王都メティスに近い位置にある第〇九一砦と常駐騎士団との通信は荒れに荒れていた。


 アガルタ王国に限らず、大陸内の主要国家では都市間の非居住区域における治安維持を専用の騎士団が管理する砦に一任するのが慣例となっている。


 彼らの役割の大半は都市間の治安維持を目的とした見回りだが、今回のような非常時においては城壁常駐騎士団との連携を求められる場面も見られるのだ。

 そしてこの日、その連携は上手く機能していないと言えた。


「敵性飛行船舶“インディゴトゥレイト”は現在城壁付近にて滞空中! 何故ここまでの接近を許したのですか!」

『言っておくけど私達はきっちり空も地面も地平線も見張ってたからね! あのデカブツが突然空からヌッと出て来たんだから索敵のしようもないでしょうが!』


 鼻づまりを起こしたような()()()が弁解する。


 言い訳じみて聞こえるが、これは事実である。


 第〇九一砦に所属する騎士達は皆、間違いなく業務を全うしていた。

 寧ろこれまでオカルト現象と認定され下手に手出しできず、やきもきしていた所属不明の船にようやく攻勢を仕掛けられると意気込んでいたのだ。

 だというのに、敵は自分達の領分の外から出現してしまった。こうなれば砦側は動けない。


 あくまで彼らが持つ本来の役割は都市間の治安維持であり、あまりそこから逸脱した動きを見せてしまうといざという時に現れた大型モンスターなどに対応できなくなるからである。


『とにかく、こっちはもうやれることないからね! 後は城壁勤めの皆さんの方でよろしく! ほんじゃね!』

「あっくそ、もしもし!? もしもし!! っだよ畜生、やってられっか!」


 がちゃりと通信機を叩きつけるようにして元の場所に置く。

 肩で息をする青年騎士の視線の先には、彼を嘲笑うかのように藍色の船が舞っていた。



   *     *     *     *     *     *  



『やァやァやァやァ皆さんお出迎えありがとうございます!』


 轟音と暴風を撒き散らしながら回転する船の横に、四角く巨大な光の集合が出現する。そこには楽しげに狂気の笑みを浮かべるマティアスの顔があった。

 問うまでもなく魔術によって編み込まれた空中展開用の通信画面だろう。マゲラン通りでも浮遊島を中心としてよく見かける品である。


『ふふふふふふふ、有象無象が集まってて賑やかですねぇいいですねぇ! もっと見なさい敬いなさい崇めなさい奉りなさい銅像を建てなさい!』

「なあケースケ、お前もこないだやってたけどあの言い回し流行ってんの?」

「いや同じセンスなだけだと思う」

「テロリストとセンスが被るって時点でケースケ君結構ヤバいよ」


 大勢の防衛戦参加者を前にしてはしゃぎ回るマティアスだったが、視界に入る者達だけが全戦力ではない。


 六門のケンドリック砲が並ぶ歩廊の上には対象を透明化するコリンの魔術【インビジブル】によって姿を隠した圭介達が立っていた。彼らからそう離れていない場所には砲撃の合図を任されたテディの姿もある。

 砲撃が届く位置にまで相手が接近するまでの間、本格的な戦いの始まりまでに僅かな時間が残されていた。その間、圭介は現状の疑問を投げかける。


「んでさ、僕ら何で姿消してんの? ケンちゃん砲が爆撃喰らったら隠れてようが関係なくまとめてぶっ飛ばされるよね、正直あんま意味ないよねこの透明化」

「んもう、寂しい事言っちゃやーよなの! 次文句言ったら股間のところだけピンポイントで可視化するの」

「やめろトラウマになる!」

「現実的な話すると相手の認識を簡単に撹乱する為のちょっとした小細工なの」


 お互い透明なせいで声の聴こえる方に顔を向けながら話を進める。


「報告によると相手はこっち側に【テレキネシス】を使う客人がいるって知ってるらしいから、砲兵がいないのに動くケンドリック砲を見せて『あの念動力魔術使う客人がどっかに隠れている』って警戒させるの」


 事実として隠れてはいてもまさか光学迷彩じみた魔術で姿を消しているとは思うまい、というのがコリンの読みだった。


「それと敢えて数発わざとかすらせる程度に外して正確な砲撃が出来ていないように見せかけつつ、ケンドリック砲の脅威度と優先度を相手の中で下げさせて意識を広範囲に拡散させながら隙を作るの」

「ほーん。でもそこまで徹底して対策取らなくても六発まとめてぶっ放せば勝てるんじゃない? 相手見たところそんなに大きな船ってわけでもないよね、もっとデカいの想像してたよ僕」


 某アニメ映画にて政府軍が所有していた大型飛行戦艦を想像していた圭介としては、目算で一〇〇メートル未満と見える藍色船舶の大きさにやや拍子抜けさえ覚えていた。


 が、それでも大きいことに変わりはない。地球の歴史に登場する戦艦で例えるならば太平洋戦争に駆り出されたオーストラリア海軍の駆逐艦“ヴァンパイア”に匹敵する大きさだ。

 それが地上に風を届けるほどの勢いを持って縦に回転し続けているのである。


「それやったら多分あの回転で弾き飛ばされた弾が不規則な方向にぶっ飛んで、下手したら市街地にまで飛んでいきかねないの」

「じゃあダメか……」


 城壁防衛戦の主な内容は文字通り城壁の防衛だが、そも城壁を護る理由が市街地の防衛なのだ。

 今回のクエストは奇妙な話、クエストの達成よりも優先すべき事項がある。


「そうでなくても地上の味方戦力を巻き添えで全滅させる可能性がある作戦は論外なの」

「まあ、そりゃそうか」

「下にいる冒険者達だって根無し草も混じってるとはいえ基本的に国民として受け入れている以上、姫様もいるこの状況下で騎士団が所持する魔動兵器の犠牲にはできないの」


 やや騎士団側に感情移入しているように思えるコリンの言葉選びに疑問を感じつつ、圭介は「確かに」と頷いた。


「つまり安全第一ってわけだ」

「戦いで安全をおざなりにする奴は余程運がよくない限り確実に死ぬの。そんなら初めから体に爆弾巻きつけて吶喊しとけば死者数も数えやすくて丁度いいってなもんなの」

「それあるなぁ。『戦場で臆病を恥じる者は死んで恥ずべき笑い者になる』って故郷のお爺様も言ってた」


 剣術を習っている関係で常在戦場の意識でも刷り込まれているのか、手厳しいコリンの意見にユーが我が意を得たりと同調する。

 戦争の存在を映像媒体か学校での行事、あるいは祖父母の話を通してでしか知らない身としては戦いの話など遠い国の出来事にも思えた。


「おい、あんにゃろう何かやり始めたぞ」


 エリカの声に反応して一同が“インディゴトゥレイト”に視線を移すと、甲板を城壁に向けた状態で空中に静止している。

 何事かと見ていると船体の左右から何かが無数に這い出して、船全体を覆い尽くすように蠢いているのが確認できた。


『せっかくお集まりいただいたわけですしどうせなら楽しんで欲しいなあ、というわけで可愛いワタクシの発明品、“オーサカ・クラブ”の出番でございます! どうぞ見てって下さいそして身を以てその威力を体感して下さい!』


 うぞうぞと波打つそれらが何なのか、探るより早くマティアスの声が正体を明かす。


「……あの時の蟹だ!」

「気持ち悪っ! ちょっとエリカ、あれ何体か撃ち落としなさいよ」

「大砲も微妙に届かねえ距離でハジキが当たるかっつの」


 ある程度出し尽くしたのか、十数体の“オーサカ・クラブ”が地上に降下し残りはホバリングによって空中に留まっていた。

 蟹達は無音を維持しながらこぞって城壁に向けて進行しており、それを防衛戦に参加している騎士団や冒険者達によるときの声が出迎える。


 数が揃っているからか地上での戦いは見事に拮抗しているが、空での戦いは芳しくない。


「滞空してる戦力が厄介だね。あの伸び縮みするバネの腕が縦横無尽に動き回るから、空中戦できる人達が次々と叩き落されてる」

「おまけに互いの腕が絡まり合わないようによく計算された動きをしてるの。多分あの蟹だかピエロだかには高度な演算能力を持った人工知能が備わっていると見たの」


 そして今、ケンドリック砲での攻撃を任された彼らにとって何よりも厄介な点が存在する。


「あの船、止まっちゃったね」

「勘弁願いたいの。どうしてあんな微妙な位置で止まりやがるのマジでキレそうなの」


“インディゴトゥレイト”がケンドリック砲の射程ギリギリの地点で止まってしまった事である。


 どういう手段によるものか定かでないが、マティアスは砲撃の有効範囲を把握しているものと思われる挙動を見せていた。

 現在前に出ていることで一応は射程圏内に存在する滞空中の“オーサカ・クラブ”も常に砲の射線上を避けるようにして左右に移動しているのだから徹底している。


「困りました。これでは空中に展開されている戦力が手つかずのままこちらまで来てしまいますね」


 姿を消している圭介らを気遣ってか、まるで独り言のようにフィオナが言葉を紡ぐ。それに応じたのは腰に携えた剣の柄を握り込むセシリアである。


「は。ですのでよければ自分が……」

「私が行った方が効率はいいでしょう」

「!?」


 基本的に仏頂面なセシリアも思わず口をあんぐりと開けて隣りの玉座に座る姫を見る。驚愕は彼女一人に収まらず、テディや圭介達までもがそちらに視線を移していた。


「な、何を」

「ただ城壁を防御結界で覆うだけなら消耗する魔力の量は多くない。それにセシリア、貴女の攻撃もここからではもう少し接近を許さなければ届かないでしょう」

「まだ戦いは始まったばかりです! 間合いに入れば、すぐにでも……」

「砲の射程手前で静止しているあの船が貴女の攻撃範囲まで網羅していないという保障が何処にあるの? だからこそ、私が行くのよ」

「お待ち下さい! いくら貴女様のご意志とはいえ、そのような提案は受け入れかねます!」


 流石に問題と思ったのだろう、テディも猛反対の意を示す。


「我々城壁常駐騎士団、貴女様の防御結界が展開されているだけでも大変に心強く感じております! もう既に畏れ多くも姫様の寵愛を受けている以上、ここで御身を危険に晒すようでは騎士の名折れとなりましょう!」

「では早急に対案を。刻一刻と近づきつつある航空魔動兵器、それも射線上を避けて移動しながらこちら側の飛行戦力をじわじわと削り士気までも削いでいるこの状況で貴方は何をどうされるおつもりで?」

「それ、は……」

「詰まる言葉の続きを促せる程の時間もありません。大丈夫、すぐに戻りますよ」


 ニコリ、と微笑むと同時に“ノヴァスローネ”が斜め上に上昇し始める。同時にフィオナを玉座ごと包み込むように、球状の結界が展開された。

 そうして、砲弾よろしくホバリングし続ける“オーサカ・クラブ”の群れに向かって突っ込んだ。


「え、え。姫様行っちゃったけど大丈夫なんですかテディさん」


 自分達が姿を隠しているという状況すら忘れて圭介が尋ねると、テディも気まずそうに返答する。


「……攻撃手段は持たない、とうそぶかれる姫様だが結界を展開した状態での“ノヴァスローネ”による突進は破格の破壊力を有する。見たまえ、あれを」


 言われるがままに見てみると、ピンクのボールが高速で動き回って“オーサカ・クラブ”の一体に体当たりをかましていた。

 高速で移動する結界にぶつかった蟹の体は無残にも砕け散り、破片を地上に落としている。


 地上戦を繰り広げる者達はいち早くその破片に気付いて、数歩後退してやり過ごす。

 迷惑に見える戦い方だがやらなければ空からの進行を許してしまうので、参加している騎士団はもちろん冒険者もこの展開を承知していた。


 何より相手は王族なのだから文句があっても言えないのだが。


「結界の防御力を圧倒的な速度によって理不尽なまでの攻撃力に変換する、“緊急対応”と呼ばれる戦神の御業。私も見るのは初めてだが、あの状態の彼女と張り合えるのはそれこそ魔動兵器くらいなものではないのかな」


 解説を受けて、圭介はその不条理なまでの力により一層恐怖した。


 あの状態のフィオナを相手取って勝てる未来が思い描けない。

 ただでさえ立場、人生観、交渉能力その他諸々の要因によってイニシアチブを取られている相手だというのに戦闘能力まで備えられてはたまったものではない。


 このまま元の世界に戻るまでの間、事実上の隷属関係になるのだけは阻止したかった。


「馬鹿者。姫様の“緊急対応”にも明確な弱点は存在する。だからこそ王族としての立場を抜きに考えても、あのお方が戦闘に参加する事態は回避したかったのだが……」


 そんな益体もないことを圭介が戦々恐々としながら考えていると、意外な人物がその絶対性を否定した。


「えっ、そうなのですか? しかしあれ程の動き、弱点らしい弱点など私には思い浮かびませんが……おや」


 テディが疑問を浮かべている間にも、フィオナが球状結界を維持したまま側防塔の屋上に帰還した。

 妙な事に砲の射線を避けつつ近づく“オーサカ・クラブ”はまだ複数体残っている。国防を重要視して軍事力万歳を謳う彼女にしては考え難い半端である。


 では何故、と圭介達が疑問に思っているとフィオナの細い腕がセシリアの方へと伸ばされた。掌を上に向けている事から、何かを要求しているようにも見える。


「セシリア」

「は」


 相も変わらぬ慈愛と威厳に満ちた笑顔で。




「エチケット袋」

「どうぞ」




 歩廊側にいる六人が、全員揃ってズッコケた。

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