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足跡まみれの異世界で  作者: 馬込巣立@Vtuber
第十六章 無謀なる軍事同盟交渉編

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第十四話 屈辱と救い

 ブロンズパイル山脈にある竜棲領で族長を務めるアーマミャーフは、一言でまとめてしまえば典型的とも言える頑迷固陋なドラゴンだ。


 ドラゴン以外の種族を能力的に劣った存在と断定し、それでいて上位に君臨する者としてドラゴン全体に相応の振る舞いと誇りを求める。

 いかなる理由があれど下から上に対する敬意は常にあるべしと定め、相手の理屈や知識量を問わず非礼は非礼として断ずる。


 同時に彼は信心深かった。

 おとぎ話の主人公が実在すると信じて止まない子供のように。


 キノと呼ばれる伝承にしか存在しないドラゴンを至上の存在として崇めつつ、自らもその神に等しい者がいる場所を目指して突き進む。

 それこそが彼にとって生涯全てを捧げても構わないと思えるほどの至上命題であり、道標となる精神の基盤だったのだ。


 なのでキノの伝承にある「いつか再び我々ドラゴンの前に姿を現すであろう」という一文に期待を膨らませ、その姿形がこれまで見下してきた人間であったとしても実際に遭遇した以上は(こうべ)を垂れる。


 アーマミャーフの中でその行為は矛盾しない。

 大切なのはあくまでも中身。彼がドラゴン以外の種族に求める自分達への態度と同じものを、彼の信仰する対象に向けているだけなのだから。


 器がただの客人であればその客人を信仰するという、それだけの話。

 とどのつまり、彼は東郷圭介という個人を見ているわけではないのである。


「こんなものか。人の身であっても果実とワームの肉なら問題あるまい」


 彼が今いるのはブロンズパイル山脈の中心部分。

 カムロ山から南東に少し飛んだ先にあるメラニー大森林で、彼は圭介ら来客に晩餐として振る舞う食材を調達していた。


 敬愛するキノと同じ特性を持った圭介以外にも食事を用意するのは多少気になったが、それでも彼にとって仲間であるならば等しく歓迎しなければならない。


 今の彼にとって重んじるべきは、生きてキノの奇跡を目の当たりにできた栄誉とそれに対する喜びだ。

 歴代族長の誰もが出逢える日を待ちながら寿命を迎えていった中で、彼は例外的に実物と直接遭遇できた。


 総身を震わせてなお余りある歓喜は、生態系の頂点として抱いてきた矜持と優越感など比べ物にならないほど彼の心を満たしている。

 事実として竜脈を伝い空から送られてくる他の族長の言葉は、全てが驚愕と羨望で彩られていた。


(ご本人は否定されていたが、あの奇跡を人の身で起こせるはずもない。彼こそがお姿を変えたキノ様に相違なかろう)


 それを勝手な押し付けとは思わない。

 彼にとって彼の中にある信仰心が論理の全てであり、そこに信仰する対象の意志など関係なかった。


 だから罰が下った、というわけでもあるまいが。


「む?」


 結論を述べると。

 彼は敬愛するキノ様とやらに食事を届けることができなかった。


「なん、だ? 今のは」


 五感を通じて伝わるのは空間に生じた異常。


 マナの流れが不自然に歪み、その歪さが一ヶ所に集合していく。

 初めて見る動きだ。それでいて広域索敵とこれまでの経験から察するに、同族であるドラゴンが魔術を使用したわけでもない。


 つまり完全に外から来た何者かが、アーマミャーフの目の前で何らかの魔術を行使したのだ。


「何者だ」

「こんにちは。機嫌が良さそうで何よりだわ」


 誰何の答えは穏やかな少女の声として鱗に響く。


 並ぶ樹木の狭間から、ゆらりと赤い何かが目の前に現れた。


 見た目はヒューマンの少女だ。


 赤い衣装に身を包み、赤い靴で草を踏みつけ、赤い髪を揺らしながら赤い瞳でアーマミャーフを見据える。

 衣服に付属するフリルの末端と肌だけが、陶磁器の如く、あるいは白骨の如く真白だった。


「さてまずは一応名乗らなくちゃね。初めまして、ブロンズパイル山脈の族長さん」


 スカートの両端を左右の手で掴んで持ち上げ、恭しく一礼する。

 その姿はドラゴン以外に興味を示さない彼でもわかるような、人間の間で通用する目上の者に向ける態度のはずだ。

 畏まり、敬い、相手を上へ己を下へ位置付ける動作。


 しかし彼女が頭を下げても、そこに含まれるべき恭敬や畏怖といったものは一切感じられない。

 どころか広げたスカートは牙を剥く口に、向けられた頭頂部は獲物を見定める眼球に見えてしまう。


 初めて見た奇怪な生物の、そうとは教わらずともわかってしまう捕食の構え。


(何者だ……? いやそれ以前に、何だこの生物は!?)


 まるでこれから食い殺されるような予感。

 普段決して抱くことのないその感情が恐怖であると知るより早く、アーマミャーフは行動に出た。


「ッガアア!」


 口から噴き出す黒緑の炎。

 膨大な量の魔力と熱を有するドラゴンの吐息は、人一人など一瞬で消し炭にしてしまうほどの威力を有する。


「私の名前は――」


 だが相手はまともな人間ではない。

 悲しいかな、彼はそれをまだ知らない。


 知らないままこの自分以外にドラゴンがいない森の中、単独で立ち向かわなければならない。

 決して遭遇してはならない存在と。


「――[デクレアラーズ]最高幹部[十三絵札]が一人“シャルルの座”」


 炎を受けて焼かれながら、それでも少女だった黒い塊は焼け落ちず残り続ける声帯で言葉を紡いだ。




「ロザリア・シルヴェストリと申します」




 瞬間。


 大気に満ちたマナがまたも歪んだ形となり、アーマミャーフの目前に再び赤い少女が火傷一つない姿のまま出現した。


「な、ァ……!」

「ドラゴンと話すのはこれで四回目だったかしら。貴方達、いつも同じ反応をするわよね」


 長く生きてきた中で刹那たりとも経験したことのない感覚が、全身の鱗の末端に至るまで駆け巡る。


「自分より上にいる存在がそんなに怖いのかしら」

「ッザァ!!」


 すぐに後退して両手の爪をロザリアの体に向けて振るった。


 想定した通り、爪の軌道に合わせて切り裂かれる少女の矮躯。

 複数の肉となったその存在は、まず間違いなく絶命しているはずだ。


 死んでいなければおかしい。死んでいなければならない。

 生物はこんな姿になって、生きていられるものではない。


 だがそれで言うなら先ほども、彼は黒く焦がしたはずのロザリアが無傷で現れるのを見ている。


「二度目ね。これで勝てないと学習してもらえると助かるのだけれど」


 バラバラになった肉の一つ、綺麗な生首が空中に浮いたまま笑みを浮かべて楽しげに言った。


 死んでいなければおかしい形のまま複数の肉片を宙に浮かべ、そのまま目の前の少女は生きている。

 頭がどうにかなりそうな状況だったが、それでもアーマミャーフは諦めない。


 焼いても死なず、裂いても死なず。

 ならば焼きながら裂くのみ。


「おのれ!」


 双翼を広げて空中に躍り出た彼は、全身を回転させながら黒緑の炎に包まれる。


 第三魔術位階【アトロシティコメット】。

 圭介にも使い、そしてキノ様の体現者たる彼には相殺されてしまった。


 しかし今のところ不気味なだけで実力を示していない少女なら、ただの人間が相手なら話は別だと彼は考える。


 常人ではこの一撃を避けるのが精一杯。

 相殺するなど夢のまた夢。防御に至っては論外。


 何よりこの状況下でなら、アーマミャーフも本気を出せた。


「うおおおおおお!!」


 今は周囲に他のドラゴンやその住居が存在しない。

 つまりいくら周辺環境を破壊しても構わないということ。


 だからこそ先ほどできなかった方法を行使できる。

 縦横無尽に旋回し続けることで、より広い範囲を焼き払い叩き潰す攻撃手段。


 第二魔術位階【アナイアレーション】。


 離れた場所から見れば燃え盛る何かが高速で飛び回る度に大規模な爆発と衝撃波が生じ、地面を抉り続けているように見える。

 破壊力以上に攻撃範囲の広さと地形及び生態系への影響力で恐れられる、アーマミャーフの切り札である。


(何らかのペテンにかけているようだが、所詮はまやかし!)


 相手が殺しても死なない怪しげな力を持っているのは認めるが、魔術をいくら使ったところで使う方は生物に過ぎない。

 つまりいかなるインチキをしたとしてもそれが人である限り、空間全体をドラゴン以外の生物では耐え切れない熱と炎で満たせば片付く。


(どこぞに本体が隠れて人型の肉塊を操っているか、あるいは回復魔術に対して不死と見せかけられるほど規格外の適性を有するか)


 関係あるまい。

 脆弱な人の身ならば脱水症状と酸欠のどちらかで確実に死ぬ。


 常識的に考えて、こんな壊滅的な攻撃を受けて生きていられるはずもないのだ。


 そしてアーマミャーフはこれまで幾度となく脆弱な生物を狩ってきた頂点捕食者である。

 今回も肉を叩き潰し焼き払う馴染み深い感触が、絶え間なく鱗越しに伝わってきた。


 下等種族どもが恐れている[デクレアラーズ]など物の数ではない。

 ドラゴンの力を全力で発揮してしまえば、こうも呆気なく決着がつく。


 そうやって油断していたからだろう。

 甘い考えを否定する目の前の光景を受けて、彼は完全に思考を停止してしまった。


「……は?」


 もはや薙ぎ倒す木も残らないほどに森林を蹂躙し尽くしたアーマミャーフが、不意に炎の噴射を止めて滑空を止める。


 爪で焦げた大地を引っ掻きながら立ち止まったその目前には、変わらず無傷のロザリアが笑顔を浮かべて彼を見上げていた。


「そろそろお話できる程度には冷静になれたかしら?」


 今度こそ、アーマミャーフは自身の内に生じた恐怖を自覚する。


 彼女は汗一滴かいておらず、呼吸すらしていない。

 生物の枠外に位置する存在が生物のように振る舞って対話を試みている。


 ドラゴンとして長く生きてきた彼も、ここまでおぞましい存在と遭遇したのは初めてだった。


「こ、のッ!」


 振り払うようにまたも爪を振るう。

 心のどこかで無意味と理解しているだろうに、凝り固まった矜持と経験したことのない怖気が彼から判断力を奪っている。


 今度は相手を切り裂けなかった。


 ロザリアは無造作に振り上げたか細い左腕だけで、身じろぎもせず爪を受け止める。

 衝撃は彼女の体から大地へと逃がされ、ロザリアの足元で土が陥没した。


 ドレスの延長として伸びる薄い袖しか纏わない腕を、ドラゴンの膂力で傷一つつけられない。


 明確化された捕食者としての差から生じる耐え難い屈辱と敗北感は、アーマミャーフをひどく混乱させた。


「あ、あああぁ?」

「貴方、アガルタとハイドラの軍事同盟交渉に応じるつもりでいるでしょう?」


 まるで虫でも追い払うかのような腕の一振りで、アーマミャーフの爪が腕ごと吹き飛ばされる。

 そのまま接続している胴体ごと引っ張られて焼けた土の上を転がった。引きずられる体に痛みはないが、爪の付け根部分が強烈な衝撃を受けて痛む。


「あまり貴方達が彼らに協力的だと困るのよね。悪いんだけど今からでも断ってきてくれない?」

「ッ!」


 彼も[デクレアラーズ]についていくつか話を聞いてはいた。

 だが下々の諍いなど頂点に立つ者には関係ないと思っていたし、東郷圭介にキノ様の片鱗を見ていなければアーマミャーフも協力しようなどと思わなかっただろう。


 何よりも、そんな弱者と戦いが成立するなどとは想像すらできない。

 いかに他の種族が脅威としていたとしても、ドラゴンにとって一国家も[デクレアラーズ]も大差なく容易に蹂躙できる矮小な存在だと認識していたが故に。


 そこを踏まえて前提から見直す。


 聞いていた話と、否、抱いてきた印象と現実が食い違ってはいないか?

 加えて言えば、こんな常識から外れた存在と向き合うだけの理由がどこにある?


(私は、何を考え、て)


 ここでつまらない信仰心とプライドを捨ててしまえば、少なくともロザリアに殺される事態だけは避けられる。

 そもそもあの騎士やら冒険者やらはこれまでずっと、こんな化け物とぶつけるためにドラゴンに交渉を持ちかけていたのだ。


 ふざけるな。殺す気か。

 ドラゴンだからと言って何にでも勝てると思っているなら大間違いだ。


 こんな生き物は知らない。こんな化け物は知らない。

 こんなのは彼の知る“ドラゴン以外の種族”ではない。


 自分達ドラゴンが頂点ではなかったなどと、考えたくもない。


「ただでさえ東郷圭介みたいな例外中の例外に“騎士の札”を二人も殺されてる。そこにドラゴンまで敵側に加わると何かと面倒だから、できれば山の中に引っ込んでてほしいの」

「ハァ、ハァ……」

「別に難しいことじゃないでしょ? いつも通り過ごしてればいいのよ、貴方達が言うところの下等種族とやらに手なんか貸さずに」


 現時点で、お互いに目立った外傷はない。


 ロザリアは全ての攻撃を受けながらマナを歪めて再び無傷の状態に戻り、アーマミャーフは彼女から今のところ本格的に攻撃されていないためだ。


 そう、今のところ。


「それともこの場で死ぬ?」


 彼女の要求を飲み込まなければ、その言葉通りの結末を迎えるのだろう。

 きっとその未来は力尽くでは避けられない。今までドラゴンに歯向かった者達が死んでいったように。


「………………」


 考えるのに時間はいらなかった。


 キノ様と同じ特性を持つ客人の少年、東郷圭介。


 言ってしまえばそれだけの存在だ。彼のために命を投げ出して、屈辱と後悔にまみれながら死んでいく理由などない。

 既にアーマミャーフの中からキノ様()()()に対する信仰心は失われており、頂点捕食者としての誇りなどというものは頂点から引きずり降ろされた時点でかき消えた。


 信じるものも誇るものも失った。

 ならば次に優先すべきことは火を見るよりも明らかである。


「…………――」


 だから。


 彼は一般的なドラゴンとしてでなく、ブロンズパイル山脈の竜棲領を統治する族長として行動する。


「あら?」


 竜脈を通じて竜棲領にいる部下、そして一族全員へ告げる。


――強大な敵が現れた。恐らく自分はもう死ぬ。単独で勝てる相手ではない。

――だが奴らはトーゴー・ケースケと我らが繋がる未来を恐れているようだ。

――であれば、協力せよ。全面的に協力せよ。種族の垣根を越えて協力せよ。


――そうして、せめて生き延びてほしい。そう願うしか私にはできないから。


「へー、流石は族長ね。自分の命よりもコミュニティ全体の存続を優先するなんて。ちょっと見直したわ」


 業腹だが彼女の言う通りだった。

 宗教とプライドを捨てた先に至っても、族長としての役目だけは残る。


 そこで現状最もドラゴンという種族が効率的に生き残る未来に繋ぐため、この場で自身が殺されようとも最適解を選ぶ必要があったのだ。


 仮にここでロザリアの言いなりになったとして、本当にドラゴンがのうのうと生き延びれるとも限らない。

 確実に相手の戦力を奪う手段はただ一つ、殺すことなのだから。


「ま、生きるのは諦めたみたいだし。せっかくなら有効活用しましょうか」

「何……?」

「私の手で殺すのは簡単だけど、どうせならドラゴンとしての体をしっかり使わないと勿体ないもの」


 そう言ってロザリアが右手を振り上げて、手のひらを前へ倒す。

 わかりやすい合図の後、一瞬遅れて何かが飛来した。


 純白の光線である。


「ガッ……!?」


 魔力を凝集したと思しきその閃光に貫かれ、アーマミャーフの胴体に穴が開く。

 ドラゴンの鱗を穿ち肉を貫くような魔術など、常人に扱えるとは思えない。

 だが現実として彼は体の表面から反対側の肌まで、痛みと熱が続いているのを感じていた。


「部下のデモンストレーションに使わせてもらうわね。他のドラゴンや東郷圭介を狙う時、少しでもやりやすくするために」


 ロザリアの発言を信じるなら、今の光線は彼女が発動した魔術ではないということになる。

 つまり最低でも二人、ドラゴンを殺せるほどの敵が来ているのだ。


 やはり全員で協力するように呼びかけた判断は間違っていなかった、とアーマミャーフはほくそ笑む。


「殺される前に、聞いておきたい」

「なぁに?」


 またも一撃、光線がアーマミャーフの体を貫通した。


「がふっ……! き、貴様らはもしや、と思うが」


 ここまでの二撃で既にそれぞれ別々の重要な臓器が破損しているようだ。

 痛みも熱さもあとしばらくで消えるのだろう、と肉体から信号が送られている。


「今回初めて、ドラゴンを殺すわけでは、ないのか」

「そこそこ慣れてはいるわね」


 表情一つ変えずあっけらかんと言うものだ。

 せめて優越感の一つでも滲み出てくれれば、少しは救いになったというのに。


「竜棲領を襲撃する回数で言えば今回が四度目、今まで手にかけた個体数なら今回部下に任せる貴方を除いて一六九体。そんな質問するってことは竜脈で何か察したのかしら」

「…………ハハッハハハ。うぐっ」


 三度目の光線が脚に命中する。

 どうせこれからすぐ死ぬなら関係あるまいが、もう二度と走れない体になってしまった。


 一抹の寂しさを覚えながら、それでも最期に聞きたい情報だけ求める。


「フラゥチャ、というドラゴンを知っているか? スプリングトーン山脈の、竜棲領を治めている」

「スプリングトーン山脈の竜棲領ならちょっと前に片付けてきたわ。若いドラゴンが麓の村から作物奪ってくのが問題視されてたんだけど、族長がそれを止めるつもりもないみたいだったからこっちで代わりに群れごと潰したの」


 特に感慨も何もなさそうに、ロザリアはブロンズパイル山脈の竜棲領がある方向を見据えながら答えた。


「竜脈で他のドラゴンに連絡入れられる前にパパッとね。流石にあの速さで全滅まで持っていくのは大変だったなー」

「……そうか。大変だった、か」


 そんな簡単な言葉で片付けられてしまうほど、彼我の戦力差は開いているらしい。


 誰にも竜脈を使わせずに竜棲領を壊滅させるなどという真似は、恐らく同じドラゴンでも不可能だ。


 だが目の前にいる怪物はやってみせたという。

 そしてきっとそれは事実なのだろうと思う。


 少しでも話し合いで延命できただけ、アーマミャーフは幸運な方だった。


「じゃ、バイバイ。的当ての的としてはそこそこ使えたんじゃない?」


 ロザリアがマナの流れをまたも歪めて姿を消すと同時。

 純白に輝く光線が、アーマミャーフの目前に迫る。


(……ああ、しまった。一つだけ伝え忘れてしまっていたな)


 生命が尽きる刹那。


(次の族長は彼に任せるつもりでいたのだが)


 彼が思い出したのは親兄弟でも妻子でもなく。

 ペリドットのように鮮やかな緑色の鱗を持つ、冷静沈着にして将来有望なドラゴンの若者だった。

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