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足跡まみれの異世界で  作者: 馬込巣立@Vtuber
第十五章 樹海と人海の波濤編

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エピローグ 確かに不確かな未来

「この残骸、観光名物にする予定なんだってさ」

「図太いっすね……」

「住人としちゃあ悪趣味だからやめてほしいってのが本音だ」


 焼け焦げた巨大な樹木の残骸を前に、圭介とレオが並んで歩く。

 背後には改めて強化したレオのグリモアーツを渡しに来たウォルトもいた。


「お前らンとこの三人娘は来ないのか? 一度ちゃんとあいつらにも謝っておきたかったんだが」

「僕らの共通の知り合いがシプカブロガでの事件に巻き込まれてた関係で、ちょっと。僕にとってもお世話になった相手なんで、本当はそっち行きたかったんですけどね」

「いやお前は寧ろ行けよ」


 溜息とともにウォルトが言葉を吐き出す。


「アガルタでまだ学生なのに国防勲章もらったような奴がタダで作業の手伝いしやがるもんだから、見ろほら。あそこの役所のおっさんの顔をよ」

『絵に描いたようなしかめっ面ですね』

「めっちゃ難しそうな表情っす……相当扱いに困ってるのかな……」

「さっき止められたけど普通に無視して作業手伝い続けたら何も言わなくなった」

「マジで世話になったとかいう人ンとこ行けよ。せめてホテルに帰れ」


 ンジンカ緑地は土地全体に甚大な被害を受けたものの死者数は少なく、多くの人々が復興作業に従事している。

 周囲の反対を押し切って圭介も少し手伝ったため、作業は順調らしい。


 光清が第三魔術位階【フォレストキング】の発動に際し自分で召喚した植物を枯死させたのもあり、ところどころに生えた木の伐採も滞りなく進んでいた。


 なお、その原因たる【フォレストキング】はどこか哀愁を漂わせる神秘的なオブジェとして今後ンジンカ緑地の名物とする予定だと聞く。

 その話を持ってきた時、ウォルトは「まだしばらく食っていくには困らなさそうだ」とくたびれた笑みを浮かべていた。


「何だかんだ僕も戦ってる最中に団地めちゃくちゃにした部分はあるんで。ウォルト先輩もわかるでしょ、罪滅ぼしですよ罪滅ぼし」

「お前は襲われた側なんだから気にするこっちゃねえし、よしんばお前の意図を汲んだとしてもこっちからしたら客にそういう真似させるのは気が引けるっつってんの」

「関係ないですね! 僕がここにいる誰よりも早くこの団地を復興できる!」


 言っている間にも少し離れた位置にある瓦礫が【テレキネシス】で撤去されていく。


「ほれまた作業が秒で一段階進んだ。あ、【解放】すんの忘れてたわっべぇー! 僕もうこのくらいの距離ならカードの状態のままあの程度の瓦礫どうとでもできるわっべぇー!」

「新しいグリモアーツが思ったより強くてイキってただけみたいっす」

『バイタルに余裕があるわけでもないので寝ててください』

「やなこったぁぁウヴェェェベロベロベロ」

「マジで何だコイツ」


 グリモアーツの強化は済んだ。

 そして元々アガルタを離れる要因となった排斥派の動きも落ち着いたらしいと、ニュースサイトの記事とコリンからのメールで大体は事態を把握できている。


 今、彼らがゾネ君主国に留まる理由もない。

 ないが、そもそもいつまで滞在するかを決めていないのだ。

 復興作業が落ち着くまで、暫しの間シプカブロガとンジンカ緑地を往復するのも悪くないと圭介は思っていた。


「はぁ……。とにかく、落ち着いたら早く帰れよ。気持ちは助かるけどお前がいつまでもいるとゾネのお偉いさんがアガルタの王族に睨まれるんだから」

「えーでも」

『これ以上この地に居続ければ帰国後マスターも詰められるでしょうね。事によってはまたしばらく城での生活を堪能できるかもしれませんよ』

「明日帰るわ」


 何かと落ち着かない日々を思い出して圭介が綺麗に手のひらを返す。

 だがウォルトの関心は別の方に傾いたらしい。


「お前、一時的とはいえ城で暮らしてたんかよ。国防勲章やべぇな……」

「洞窟で野宿する方がマシだわあんなキモい場所」

「滅多な事言うなよ……」

「そうっすよ。王族の人達は普段からそのキモい場所で暮らしてるんすから、失礼じゃないっすか」

「キモい一族だなぁ。直接会って顔合わせて話した経験もある立場からもっかい言うわ、キモい一族だなぁ」

「滅多な事でコンボ組むなアホども」


 話しながら進んだ先にバス停がある。

 シプカブロガへと移動するバスが来るその場所は光清の魔術が及んでいないらしく、土が多少乾燥している以外は何事もなかったかのようにベンチが佇んでいた。


 戦いが終わってから二日ほどンジンカ緑地に通っていた圭介だが、アズマに言われずともそろそろ帰るべきタイミングには違いあるまい。


 また別れる時が来たのだ。


「バス来るまでもうちょいあるか。……ケースケ、わかってるだろうけど一応これだけ言っとく」

「何です?」

「多分今回の件、良くも悪くも“前例”になったぞ」


 前例、の部分に力を込めてウォルトが忠告する。

 その意味がわからないほど圭介は愚かになれなかったし、わかってしまう程度には生臭さに慣れてきていた。


「……めんどくさいけど戦わなきゃ殺されてたんで、そこは割り切りますよ」

「そうか。お前も大変だなぁ」


 最初からクエストでラステンバーグの三ヶ国首脳会談の護衛任務に行った時と、名目上ただの旅行で来ただけの今回では圭介の立ち位置が違う。


 使命ではなく善意での戦い。

 加えて今回またも圭介は[十三絵札]を倒してみせた。


 今後また諸外国で[デクレアラーズ]が、それこそ[十三絵札]が暴れていれば呼び出されることもあるだろう。

 アガルタ王国に対し「ゾネ君主国の時は無償で動いたのだから」と枕詞(まくらことば)を添えて。


 そしてこの場合、圭介の意志や事情は度外視されてしまうのだと察してもいた。


「もしかして俺とか他のメンバーも、っすかね」

『間違いないかと。逆に排斥派はこれまで以上に手を出しづらくなるでしょうが』

「望むところだい」


 呟くように言ってベンチに座る。


「こっちも[デクレアラーズ]には何かと用があるんだ。奥に引っ込んでる奴らを引きずり出せれば元の世界に戻る方法も、それに……いや、まあいいや」


 脳裏に藤野の顔がちらりと浮かび上がった。

 自然と不快感が顔に出る。仮に元の世界に戻る手段があったとしても、彼女は既に人間としての自分を棄てた後だ。

 どういう了見で日本での暮らしに、日常に戻れるというのか。


 圭介の目的意識は既に[デクレアラーズ]の打倒へと向かっていた。


「とにかく、元の世界に帰る方法を見つけるのが圭介君の最優先事項なんすね」

「まるで他人事みたいに言ってるけど、レオは帰りたくないのかよ」

「帰りたくないって言ったらそりゃ嘘っすけど、まだそこまで考えられないっす。正直悩んでるとこもあるっつーか」

『ミアさんもいますからね』

「まあ、そっすね」

「絶対レオだけはこっちの世界に置いてくわ。ついてくんなリア充が」

「回復のタイミングとか度合いとか、今後ちょっと考えようかな……」

「えっ、ウソウソ大丈夫だよ意思尊重するよ。ていうかそれはズルじゃん。ごめんて」


 軽口を交わすうちにバスも近づいてきた。

 ここからでも【フォレストキング】の残骸が見える。観光名所としては確かに申し分ないらしい。


「んじゃウォルト先輩、僕らはそろそろ。また何かの拍子に会いましょうね」

「お世話になったっす!」

『お仕事頑張ってください』

「……おう。色々とお疲れさん」


 手を振って別れの挨拶とするウォルトに見送られながら、到着したバスの中へと乗り込んだ。


 秋から冬へと移りつつある空は、高い位置に大きな雲を浮かせている。


 くっきりと見える割に届きそうにない。

 今の圭介なら届くのだろうが、届いたところで触れられるものでもあるまい。指の狭間をするりと抜けて終わるだろう。


 見えているものをただ求めるだけで本当にいいのか?

 疑ったところで答えは見えなかった。


 ただ、一つの確信を得る。


(見ただけで何でもかんでもわかっちゃうアイリスの魔術って、やっぱスゲーんだなぁ)


 席に座って窓の外から改めてンジンカ緑地を見てみた。


 皆が必死に支え合い、生活していくための場を整えていく。

 きっと国からの支援も今後受けていくのだろう。復興の日はそう遠くないはずだ。


 それでも未来を約束できるほど、圭介は強くも賢くもない。


(やっぱり僕には信じるしかできない)


 そしてその違いにこそ、圭介と[デクレアラーズ]の間に交われない理由があるのだと、何となく理解できた。

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