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足跡まみれの異世界で  作者: 馬込巣立@Vtuber
第二章 変態飛行の藍色船舶編

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第五話 合同クエスト

「何で僕は異世界のお姫様に脅されてパシられそうになってんの?」


 フィオナがセシリアを連れて校長室を出て行ってから数分後。圭介は憔悴した様子で項垂れていた。


「別に断ったら帰る方法の手がかりぶっ壊すって話が決まったわけじゃねーし返事するの早かったようにも思うけどな。保留にしてもらうとかでよかったと思うぜ」

「それは私も思った。さっき言ってた変態飛行する船が圭介君の世界に戻る方法と直接関係あるかだってわかんないし」

「案外早めに決めて欲しいっていうのも本当に善意で言ってくれてただけかもよ?」

「姫様いなくなった途端に好き勝手言うな君ら」


 権力者が去った途端に饒舌になる仲間達を憂鬱そうに眺める圭介だが、彼も件のオカルト船に帰還するための手がかりがあろうがなかろうが首を横には振れなかったに違いない。立場の弱さは彼女ら以上だ。


「あのさ、僕がオカルトについて調べてたって皆に話した事あったっけ?」

「……そういや聞いてねえな。伯母ちゃん知ってた?」

「私も聞いてないわよ。そもそもいくら王族相手でも個人のプライベートを教えたりしないわ」

「ですよね」


 レイチェルはそのような非常識な人物ではない。圭介も彼女を疑ってはいなかった。


 そして圭介がオカルト現象について調べ始めた頃にエリカら三人は討伐クエストに出ており、そこで情報の共有はされていない。知っているのは当日圭介と共に調べ物を手伝ってくれていたモンタギュー一人だけだ。


 だが、フィオナはそれを知っていた。


「絶対どっかで僕のこと調べてんだよなぁ……。それ考えるとオカルト抜きにして考えても逆らうのは得策じゃないと思う……」

「まあそだな。伯母ちゃんもなあ、ビールの飲み過ぎで痛風に気を付けろって言われてからは毎年の健康診断で医者と面ァ合わせに行く度にビクビクしてっからな。弱み握られてる状態なら逆らわねえ方が身の為ってやつさ」

「余計なこと言ってんじゃないわよクソガキが。アンタがベッド下に隠してるエレベーターガールがどうのっていういかがわしい雑誌、今晩中に焼き捨てるわよ」

「んだよオメーいくら自分の結婚が絶望的だからって若いセクシー女優相手に嫉妬でもしてんのかあでっ! ってぇな悪かったよ痛風独身アラフォー女づぅっ! オイ謝っただろぶつなや!」


 余計な発言を重ねて引っ叩かれているエリカは放っておくとして、圭介が圧倒的に不利な立場にあるのは間違いない。

 まずは先ほど動画で確認した“変態飛行の藍色船舶”について自分なりに調べるべきと圭介は踏んだが、その前にやらなければならないことがある。


「ともあれ今は合同クエストだね。例のオカルト現象とも関係してるかもしれないって話だから、多分姫様も気合い入れて参加するだろうし」

「よし、じゃあ覚悟決めて行こうか」


 ミアの仕切り直しに一同が同意して、朝の集まりは解散となった。



   *     *     *     *     *     *  



 午前九時五十五分。天候は快晴。

 風はそよ風以上の強さを持たず、気温もまだ暑くはなり始めていない快適な状態を維持している。


 アドラステア山の麓、集会用に設けられた広いスペースにてアーヴィング国立騎士団学校の生徒らが集う。

 高等部だけで四百九十七名。全学部合わせると二千人を超える大人数だが、この日は誰一人として欠席する者がいなかった。


 それもそうだろう。学校側が企画する合同クエストは普段受けているクエスト以上に報酬の割がよく、更には内申点にも影響を及ぼす。

 逆に休めば期末テストの点数を問わず一部の成績に響いてしまうので、優等生は自主的に、劣等生は逃げ場を失う形で参加することとなるのである。


 特に今回は王城からわざわざ第一王女であるフィオナが参加するというのだから、誰もが一目その姿を見ようと高揚していた。


 圭介達一年生は今回、直接的な戦闘に駆り出されることになるものの大した活躍を見込まれてはいない。


 主な活躍はこれから騎士団に己が能力を誇示せんと奮闘する三年生らに譲る形となり、その後ろを二年生がついて回る。

 一年生にはどちらかというとそれら二重の陣が取りこぼしたモンスターを排除する言わば掃除に近い役回りが求められていた。


「戦いになること自体珍しい状況だし、気楽に構えてればいいの」


 以前会った時と変わらない無表情で背後のコリンが言う。


 クラスごとに並ぶ際、彼女は圭介の後ろに立っていた。

 以前ゴブリンの小隊を目撃した身としてこれから大勢の前で当時の様子を話すこととなっている圭介にとって、顔見知りである彼女との雑談は緊張を和らげるためのいい気休めになる。


「でも僕らがそんだけ前に出るってなると、中等部と小等部は何やるの?」

「中等部はゴブリンの死体を片付ける中でモンスターの死体そのものに慣れる為の解体作業、小等部はお昼ご飯作りをする過程で野草や茸の種類についての勉強も並行して行うらしいの。精々私達のご飯を作る子達がけったいな食材をぶち込まない事を祈るの」

「ちょっと小等部の連中に混ざって来ていいか? めっちゃ楽しそうじゃん」


 圭介の前にいるエリカがキラキラと目を輝かせながら何事かほざき出した。


「まあ見た目的には違和感なさそうだね」

「ぶっ殺すぞ」

「確かに。エリカちゃんは小等部に転入してきた頃から成長してないっぽいの」

「ぶっ殺すぞ」

「いやそんなに過剰反応する必要なくない? えっとアレだ、ほら何ていうかさ。うーん……あぁー…………」

「そこはフォローする言葉を思いついてから口を開くべきなの。エリカちゃん泣いちゃってるの」

「ロリコンに需要あるとか女子高生には侮辱でしかないかな、と気づいてからは何も言えなくなった」

「うぇぇ、助けてくれモンタ君!」

「あんたまで俺をそう呼ぶんかい! 知らねーよ体つきが貧相でも幸せに生きてる女なんざこの世にいくらでもいんだろ!」


 エリカの前に並んでいたモンタギューが襟を掴まれて振り回されながら怒鳴る。


「でもあたしがモテねぇのは事実なわけだし」

「ちっさかろうが見てくれ悪かねェのにそれってこたぁ、中身に問題があんだろよ」

「あーあーまた泣き出したの」

「え、何モテたかったのエリカ?」

「え、別に」


 嘘泣きをやめて素に戻るエリカは確かに中身に問題を抱えているように思えた。


 そんな四人も含めた生徒達に向けて、静かにするよう教師陣の声がかかる。

 それに応じて大勢の生徒が静まり始める中、圭介が前を見てみると階段一段分程度の高さに調整された指令台の上に立つレイチェルの姿が見えた。


「はい。皆さん、おはようございます」


 最早学生にとってはお馴染みの挨拶に、重なり連なる声が同じように返事する。


「本日は急遽決定した合同クエストに参加してもらえて、私としては嬉しい限りです。当校責任者として、改めてお礼を言わせていただきますね」


 充分な声量を保ちながら普段圭介に用いているものより若干砕けた敬語で話すのは、小等部の生徒もいるからか。まだ十にも満たない子供への配慮も絡み、その表情はどこか優しげな笑みを浮かべている。

 そこから彼女は口頭説明による一日のスケジュールと注意事項の確認を済ませると、軽く会釈した。


「では私からは以上です。次にこの合同クエストを企画するきっかけとなった、ゴブリンの小隊を目撃したという生徒から当時の様子を説明してもらいます。では、前へ」

「よし行け、噛むなよ」

「あんたなら噛まずに説明できると信じてるぜ」

「噛まないように気を付けるの」

「君らマジで残虐非道にも限度ってもんがあるぞ、そんだけ言われたら噛みそうで怖いじゃないか!」


 小声で言いつつ前に出て、レイチェルと入れ替わりに台の上に立つ。


「えー、どうも皆さん。こないだこっちに転移してきた客人の東郷圭介です」


 二千人分の視線が自分に突き刺さる感覚を得ながらも、大して緊張はしない。

 先ほどまでの雑談による気持ちのほぐれもあったが、何よりも次にフィオナの挨拶が控えている以上明日には自分の名前も憶えられていないだろうと見越しての余裕である。さっさと軽めに挨拶を終えて本題に入った。


「先日このアドラステア山にて山菜摘みのクエストに参加した時にですね……」


 特に噛むようなこともなく説明は進む。

 言ってしまえば今回圭介が発言すべきは当時の様子、ただそれだけだ。語るべき情報の量も知れたもので、少しまとめれば用意していたメモ用紙すら不要である。


「おいアイツ全然噛まねぇぞ……こんなんでいいのか、いやよくない(反語)」

「言われりゃ確かに物足りねえな。王族来てっから無難にまとめてんのかね」

「せめて意図しない形でしょーもない下ネタぶっぱするくらいの芸人根性を見せて欲しいの」

(アイツら後でしばこう)


 心の中でそう決意しながら問題なく話をまとめ終え、締めくくりに入る。


「僕が見たのは以上で全てです」

「はい、ありがとうございました」


 拍手と共に圭介が下がると、レイチェルが再び前に出た。


「それでは次に、畏れ多くも本日の合同クエストにご参加いただける運びとなりましたアガルタ王国第一王女、フィオナ・リリィ・マクシミリアン・アガルタ様よりお言葉があります」


 待ちわびてさえいたであろうその言葉を受けて周囲が湧き立つ。

 ざわついた瞬間に合わせるようにして、圭介が元の位置に戻って来た。


「おう、ご苦労さん。よく噛まなかったな」

「あたしは信じてたぜ。ケースケがあそこで噛むような奴じゃないって」

「ケースケ君が噛まずに最後まで言えたのは誇っていい偉業と思うの」

「お前ら言っとくけど聞こえてたからな! 噛め噛めって意志がこっちまで飛んできてたからな!」


 と、小声で話しているとフィオナがいつの間にか圭介と入れ替わりに前へ出ていた。お付きの騎士であるセシリアも後ろに立っている。


「皆様、改めましておはようございます。今回の合同クエストに参加させていただきます、フィオナ・リリィ・マクシミリアン・アガルタです。本日は私の年齢に合わせる形で高等部一年生の皆様と同じ立場で尽力致しますので、宜しくお願い致します」


 校長室で振り撒いていたものと同じ笑顔で、あの時にはなかったいかにも身近そうな親しみを込めながら学生達に語りかける。

 態度も表情も変えないままに印象だけを変えるのは何か魔術でも使ったのではないかと圭介が訝しむほどだ。


「さて、今更で恐縮ではありますが皆様は国立騎士団学校の生徒としてこの場に集結されたのでしたね。皆様が騎士団を目指す理由は多岐に亘るものと思います」


 ありきたりな挨拶も王族の、それも見目麗しい姫君からの言葉となると含まれる意味合いも変わるらしい。

 彼女の声を聞き始めた時点で多くの生徒が無意識に背筋を伸ばし、無言で耳を傾けた。


「大切な人の為、日々を過ごすお金の為、己の腕を磨く為……しかしそれらの理由がいかなる類のものであれ、騎士団に属するのであればそれは国家への、いては国民の皆様への貢献に繋がります。そうした意味で、この場にこれだけの人が集まっている事を私は第一王女という立場から嬉しく、そして誇らしく思っています」


 朗々と流される言葉の川は、王族からの賞賛というせせらぎによって生徒達の心を掴む。


 恐らくこれが国王や王妃の口から出た言葉であれば、彼らは特に何かを感じる事などなかっただろう。

 学生らと近いか同じ年齢であり、尚且つ極端に華やかな美貌と年齢不相応な落ち着きを持つフィオナの口から紡がれる言葉だからこそ発揮される信頼性があった。


 もっとも、真正面から情報量の違いを提示された上に都合良く使われそうになっている圭介から見れば薄ら寒い光景でしかない。


「今回のクエストは城壁の内部に現れたゴブリンの小隊という、市井に被害を及ぼしかねない脅威的な問題をきっかけとするものです」


 事実でもあり、虚言でもある。


 戦闘力を持たない民間人ならまだしも、現役の冒険者どころか高等部の上級生ですらゴブリンを脅威と見なす者は多くない。

 もちろん油断は禁物だが大半は知力が低く身体能力も高くない存在だ。やろうと思えば第六魔術位階の身体強化術式だけで充分倒せる相手だろう。


 それでも身を慮る同年代の権力者という存在は、彼らの防衛意識を高めた。


 無様を晒すわけにはいかないと、沈黙したまま奮起する者がこの場においては多数派である。


「張り切られている方もいらっしゃるかと存じますが、安全第一。どうかこれを念頭に置いて行動して下さい。私にとっては、皆様もまた大切にするべき国民なのですから」


 どうやらこの場では“変態飛行の藍色船舶”との関連性については触れずにおくようだった。確実な物証が無い限り結び付けられるものでもないので、当然と言えば当然だが。


「最後に。国の未来を担う皆様と、こうして出逢い一時でも共にいられる時間を光栄に思います。今日だけはどうぞ、王族ではなく一人の友として接して頂ければ幸いです」


 圭介は内心で(普通に嫌だな帰ってくんないかな寧ろ僕だけ帰らせてもらえないかな)と呟いたがその願いが叶うことはない。


「では、これにて私からのお話は以上となります。ご清聴ありがとうございました」


 話し終えると同時、拍手が響き渡る。中には王女からの心温まる言葉を受けて感涙している者までいる始末である。

 圭介もほとんど周囲に合わせるように拍手した。顔に浮かぶ不服の色はあくびの振りでどうにか誤魔化す。


「流石は王女様。お優しいの」


 背後から聞こえるコリンの声に圭介は思わず「同じ顔して他人を脅せるような女だぞ」と言いそうになりつつ、どうにか堪えた。


 やがてこの集会もレイチェルによる簡単な〆の言葉で終わりを見せ、


「んじゃ、やることないけど頑張るの」

「面倒だが内申の為だ。ついでに一儲けさせてもらうかね」

「せっかくだし前に出て新しい魔力弾の練習でもすっかな」

「帰りたい……」


 全学部全学年による、合同クエストが幕を開けた。

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