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足跡まみれの異世界で  作者: 馬込巣立@Vtuber
第十三章 特別強化合宿編

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第十七話 良き旅を!

 シャーロット・グレイという客人がビーレフェルト大陸に異世界転移を果たした当時、彼女はまだ一歳を少し過ぎた程度だった。

 子供と言うのも憚られる赤子同然の年齢。言葉を習得するための適切な教育を受けられる環境が無ければ、今後他者と会話をすることすら困難となるだろう。


 そんな彼女の身柄を押さえたのは、貧富の格差が激しいことで知られるとある国にて辺境伯を務める男であった。


 彼は偶然発見したシャーロットを屋敷へと連れていき、体を洗ってから専用の個室を用意した。高価な衣服と柔らかなベッドを与え、一日三食の食事は栄養のバランスを神経質なほど気遣った。

 特に力を注いだのは、毎日メイドに絵本を読み聞かせること。大陸各国の様々な伝承、民話、おとぎ話を彼女に与え続けた。


 欠けていたのはそれ以外の全て。

 彼は決して愛情を持ってシャーロットに接していたわけではない。


 当時の彼が熱中していたのは「身寄りのない赤子を部屋に閉じ込めていかに歪な人間に育て上げるか」を研究するという悪趣味な遊戯であった。


 ある者は胴体を金具で空中に固定され床にも地面にも足をつけないまま、ある者は無数に用意された奴隷の剥製に囲まれた部屋で、ある者はピアノによる不協和音を起きている間ずっと聞かされながら成人まで育まれる。


 そうして成人したところで社会に放り出すのだ。

 未知なる常識と非常識に溢れた不慣れな貧困層での生活に戸惑いながら、間違った生育環境で植え付けられた価値基準を引っさげて悲劇に見舞われるところを安全圏で眺める。

 それがシャーロットを拾った領主の男にとって何よりの楽しみだったのだ。


 彼女は「絵本の読み聞かせ以外で他人の言葉に触れられない」という環境を用意された子供だった。

 彼女のために絵本を用意するメイドにも、内容の読み聞かせ以外でのコミュニケーションを絶対にしないよう厳命した。これにより彼女にとってメイドの存在は世話を見てくれる他人ではなく、ただ絵本の内容を読み聞かせるだけの装置と化す。


 順調に育っていく彼女は少しずつ寝床に用意したぬいぐるみ同士で会話させる癖がつき、やがて独り言を呟くにしてもぬいぐるみが言っているという体裁でしか言葉を紡げなくなる。

 徹底的に“他者”という概念を排除しながら言葉だけは物語を経由させて習得させ続け、男は悦に入るばかり。


 それから数年後。

 シャーロットが五歳ほどにまで育ったところで、彼女の部屋の壁がドロドロと溶け始めた。

 唐突に変化した日常の様子を見て声を上げることもできずにいる彼女は、同時に未知の存在を目の当たりにして興奮状態に入る。世界の全てとなる部屋の崩壊に、物語を通して冒険に憧れていた少女は胸の高鳴りを抑えられない。


 白い壁が液体と化していく中で空気に漂う薄い靄はまるで絵本の中にしか存在しない原っぱのような夏虫色。

 そして壁に開いた穴の向こうから現れたのは、絵本の中に登場したとあるキャラクターと似たような見た目の青年だった。


「やあ、どうもお嬢さん。乱暴な形で失礼しますね」


 全体的に緑色の部分が多く見受けられる祭服は、牧師の恰好だ。

 普通なら闖入者に対して警戒心を抱いてもおかしくないが、その感情は突き詰めれば自分以外の誰かがいてこそ成立するものでしかない。


 シャーロットにとって部屋の破壊者は“他者”ではなく“環境の変化”だった。

 だから即座に受け入れ、順応する道を選ぶ。


「私の名前はヘイス・レーメル。貴女をこの狭い部屋から外へと連れ出し、新たな生活を与える者です」


 そう言って、穏やかな表情に笑みを浮かべながら新しい世界を形作る存在は手を差し伸べてきた。


「小さな部屋しか世界を知らない貴女にとって、外での暮らしはつらい旅路となりましょう。しかしこの世界のあちこちにいる悪者を退治するためにも、どうか力を貸してはいただけないでしょうか」


 後から知った話だが、彼は領主の男を殺傷して軟禁されていた子供を救うべく屋敷を襲撃したらしい。

 シャーロットとしては何でも構わなかった。刺激の少ない毎日にも不平不満は無かったが、新たな刺激を拒絶するほど満たされてもいない。


 その後、彼女は幼いながらも“大陸洗浄”に参戦することとなる。

 かつての友達を今度は自身の血と魔力から作り出し、ともに旅路を驀進する。それが何もかも管理されながら育った彼女にとって、最初にして最大の目的意識だったから。


 そうして“大陸洗浄”が終わってからも旅が終わることはない。


 彼女を救ってくれた[デクレアラーズ]から与えられる仕事がある以上、彼女と彼女の仲間達――血風旅団の面々は戦い続けるのだから。



   *     *     *     *     *     *



 自ら血風旅団と名付けたぬいぐるみの集団を人間の死体に縫合し、死体の中に仕込んだ魔力の綿を筋肉の延長として身体強化魔術を施す。

 シャーロットが“大陸洗浄”を終えてから手に入れた新たな戦術は、下準備こそ必要となるものの彼女にとって最大の強みとなっていた。


 何せ死体はどんなに動いても疲れない。長期間この状態を維持したとしても食事を必要とせず病気にもならない。

 体内に仕込んだ武器や魔道具が肉を裂いて飛び出しても痛がらず、何も支障ないまま運用できる。理想的な兵隊と言えた。


 加えて手足を変形させれば身体強化の恩恵を受けつつ変則的な攻撃も繰り出せるのだ。これほど優秀な人形を何体も用意してもらえた以上、人形魔術の使い手として負けるわけにはいかない。


 その上で。

 シャーロットの主要な敵であるミア・ボウエンは厄介な相手だった。


「そいつは腕に電撃飛ばす魔道具仕込んでるから、水使う人は近寄らないで! そっちの刃物のやつはほっといていい、私一人でまとめて防げる!」


 周囲の空間にまばらに散る山吹色の花弁【パーマネントペタル】。

 これにより遠距離攻撃用の人員を守りつつ前衛部隊に支援魔術を適宜発動し、シャーロットと他の死体の動きも観察しながら司令塔としての役目もこなす。


 何よりもやりづらさを覚えたのはミアのグリモアーツ“イントレランスグローリー”なる盾の硬さである。


 死体に仕込んだ大砲で砲撃しても難なく砲弾を弾き飛ばし、一度迂闊に伸ばした死体の腕は裏拳で破砕された。


 単体でこれほどの防衛能力を持った相手が倒せばそれで終わる戦闘員としてでなく、よりにもよって的確な指示を送る指揮官として中心にいる。

 しかもその場その場で死体の特徴を掴んだ上で相性の有利不利を自在に操作できる。彼女がいるだけで集団全体の戦力は二段階ほど向上するだろう。


 あまりにも厄介。あまりにも危険。

 賭けに出ずに勝てる相手ではない。不確定な要素を不確定と理解した上で踏み抜かなければ、いずれ負けるのはシャーロットの方だ。


「えーい、これならどうだ!」


 死体の一つが口から膨大な量の煙を吐き出す。


「ヤバッ、全員そこから退避! 狙いがわかんないから風で吹き飛ばすのもちょっと待って!」


 これ自体は煙幕以上の意味を持たない。しかし事実を知らないミアはありもしない毒ガスを警戒して、その範囲にいた人員を退かせる。

 煙の中に紛れ込んでも相手は猫の獣人だ。隠れて動こうにも臭いと音で敵の動きを察知できるだろうし、それはシャーロットもわかっていた。


 だが細かな動作に関してはどうだろうか。


 懐から取り出した小瓶の蓋を開け、中に入っている黒い液体を飲み干す。

 中身は血液の量を一気に増幅させるための薬品。しかも肉体に負荷がかかる代わりに絶大な効果を持つ、本来なら取り扱いに免許が必要となるものだ。


 空き瓶を投げ捨てると同時に体温が急上昇し、臓腑全体が焼けるような熱さに苛まれる。血を増やすと言っても増える量と比較すれば消費する水分の方が圧倒的に多い。


 脱水症状で倒れる前に決着をつけなければ。

 死体に頼らずミア・ボウエンを倒さなければ。


 でなければ自分の人生を構成してきた血風旅団の赤い旅路が、彼らの物語が終わってしまう。


「っ……!」


 右手に握ったバタフライナイフ型グリモアーツ“ファーストフレンズ”で自らの左手を貫き、漏れる血を魔力で具現化した綿状の術式【マターナルコットン】で吸い込む。

 やがて溢れる血と綿が複数のぬいぐるみへと変形していき、一体一体が新たな仲間としてミアがいるであろう方向に顔を向ける。


 煙幕が散った先にいたのは他の生徒らを後方へ退避させたミア一人。ぬいぐるみが増えている事実と左手の傷で全てを悟ったのか、戦慄と緊張を携えた表情で臨戦態勢に入った。


 今なら他の戦闘員が間に入ることもない。

 強化した他のぬいぐるみとシャーロット本人が一丸となって強化された脚力で跳躍し、各々殺意を込めて攻撃を繰り出す。


「負けるな頑張れ、シャーロット!」

「血風旅団の希望、シャーロット!」

「絶対に勝つんだ、シャーロット!」


 一人芝居と言ってしまえばその通りだろう死体からの声援を背に浴びながら、狙うはミアの首筋。

 他のぬいぐるみも異なる急所を狙っているが、バタフライナイフという武器としては頼りない形状をした“ファーストフレンズ”の刃では膂力での殴打と攻撃の質が変わってくる。


 事前に聞いた話では、ミア自身を強化する筋肉硬化術式【メタルボディ】は発動時に体毛を山吹色に光らせるという。逆に言えばそうなっていない今だけは確実に攻撃が通るということだ。


 カレン・アヴァロンの用意したブレスレットは三回までダメージを無効化するとアイリスから聞いていた。

 となれば本命の前に三回、不必要な攻撃を繰り出さなければならない。


 ブレスレットの効果を無効化してから魔術が成立するまでの刹那、先に“ファーストフレンズ”が相手の頸動脈付近に届きさえすれば致命傷を負わせられる。

 そうなれば【マターナルコットン】の術式をミアの傷口で発動し、血液をぬいぐるみに変換し続けることで失血死に至らしめることができるだろう。


 しかし先に【メタルボディ】が発動してしまった場合、鋼のように硬くなった斜角筋や胸鎖乳突筋で首筋への攻撃は受け止められる。

 そうなると残された有効な攻撃手段は眼球や口内、あるいは筋繊維の隙間といったピンポイントな箇所への刺突以外にない。よほど密着しなければ難しく、密着しようとすると盾に防がれるのは目に見えていた。


 つまりこの瞬間、首筋への一撃が通るかどうかが勝敗を大きく左右する。

 腕を振り、刃が首に接触するまで五センチもないところまでは順調に進む。


 残り四センチ。


 三センチ。


 二センチ――。


「悪いけど」


 一センチ、のところで。

 ミアが不敵な笑みを浮かべた。


「それは通じないよ」


 ほぼ同時に、刃に衝撃が走る。

 硬化した筋肉に“ファーストフレンズ”の刃が止められた感触。


「何が起こっているのか、誰にもわかりませんでした」


 なのに髪の毛の色が変わっていない。

 ミアの姿は普段と全く同じまま、体だけが硬くなっていた。


「誰にも、ってのは視野が狭いね。少なくとも私はわかってる」


 首筋以外の急所に手や足を突きつけているぬいぐるみを振り払い、ミアは周囲に散りばめられた【パーマネントペタル】を左手にかき集める。


「元々私の髪の毛が光ってたのは、私が【メタルボディ】を使いこなせてなかったからだよ。筋肉に留めるべき魔力が体毛を通して外に逃げちゃってたんだ」


 山吹色に輝く花弁が再度撒き散らされる。今度は防御ではなく拘束を意図して。


 背後で待機させていた死体の中の一体が、腹部を膨張させて吸い込んだ空気を一気に吐き出した。

 シャーロットを縛りつけようとする花弁同士の連結は解除できたものの、まだ花弁そのものをかき消したわけではない。まだ防御に利用できる範囲だ。


「でもどうしてもあの派手な姿が見たいってんなら、手伝ってあげようか」


 強い風に身じろぎしながらそれでもミアは目をシャーロットに向け続けた。


「【薫衣香宿した綺羅あれば 君を飾るにこれより優れた華はなし】」


 その詠唱は知っている。

 ピナル・ギュルセルとの交戦時に使用した第四魔術位階相当の支援魔術【ムーンレスモーメント】。

 何か一つの能力を突出させるのではなく、全身のありとあらゆる能力を余すことなく大幅に底上げするという魔術だ。


 止めなければ、とシャーロットが思うよりミアの判断の方が一手早かった。


「【屍の臭い纏った暮露など どうか脱ぎ捨ててしまってくれ】」

「ガッ!」


 ミアの正拳突きがシャーロットの顔面を強く打つ。鼻血を吹き出すついでに両足から力が抜けた。


 それが致命的な遅れとなる。

 肉弾戦で呪文詠唱の時間を獲得する、まさしく異世界に伝わる古代格闘技術カサルティリオの真髄がそこにあった。


「【昼も夜もなく ただ其処に在る輝きを ただ美しいと愛でさせてくれ】」


――だからこそ。


 そこでシャーロットの遅れに注意を逸らしたからこそ、成し得る作戦があった。


「彼女は知りませんでした。血風旅団の頼れる仲間が、まだ諦めていないのだと」


 言うと同時、ミアの足元からフラミンゴ色の【チェーンバインド】が飛び出し関節部分を中心に縛り上げる。


「うわ、マジかよ」


 手の先まで鎖で覆われたミアが驚いた表情で硬直し、そのまま動きを止めた。


 鎖が伸びるその根元にいるのは下半身が土に埋まった熊のぬいぐるみ。

 先ほど煙幕の中で生成したうちの一体で、地面を掘削しながらミアの足元まで掘り進めてきた個体であった。


 勘違いされがちだが、シャーロットは戦闘の面において狂ったことなど一度もない。寧ろ冷静に戦局を観察した上で適切な判断を下せる少女である。


 複数のぬいぐるみがボトボトと地面に着地し続ける音で土を掘る音をカモフラージュし、その個体だけが聴力と嗅覚による索敵から逃れてここまで辿り着いた。


 更に言えば彼女がぬいぐるみに掘らせた地面は、先ほどモンタギューが死体人形の足を止めるため【ラビットイーター】で沼に変質させていた地面だ。

 魔術の影響を受けて一度液状に変質した土は柔らかく掘りやすい。こういった自分にとって有利な条件を“赤い旅路(レッドカーペット)”シャーロット・グレイは決して見逃さない。


「戦いが終わろうとしていました」


 そして幾重にも巻きつけられた鎖で関節を拘束された時点で、いかにミアが身体能力を上げたとしても身動きは取れないだろう。

 盾による防御を封じた今、目や口への刺突もやりやすくなった。何となれば死体から放つ砲撃も通用するかもしれない。


「これで彼らの勝利です。良き旅をありがとう、騎士団学校の皆さん!」


 目に刃先を向けて事実上の勝利宣言を済ませる。ミアさえ片付けてしまえば、他の生徒は死体とぬいぐるみでどうとでも対処できると踏んでの余裕だった。


 その余裕が、打ち砕かれる。


「戦いが終わろうとしてるね」


 ミアが不敵な笑みを浮かべると彼女の左手――魔道具バベッジから、またも山吹色の花弁がぶわりと勢いをつけて散った。


 先ほど炎の矢を放とうと手をかざすミアの挙動を見ていた人形使いの少女は悟る。


 他人に指示を出し、攻撃を防ぎながら戦いの中で内蔵されている術式を【ホーリーフレイム】から【パーマネントペタル】へ組み替えたのだ。

 仲間がシャーロットの視線を定期的に引き付けてくれていたからこそ成せた、一瞬の作業。


 だが、そこにいかなる意味があるのか。


 花弁の量は先に展開した分も合わせて凄まじい数になりつつあるが、身体強化魔術を重ねがけしたシャーロットの手は精密なコントロールによって花弁を避けながら刃をミアへと向け続ける。


 この距離で【パーマネントペタル】を散らせても結局攻撃を防げない。


 勝利を確信した慢心からほんの一瞬の隙が生まれた。

 致命的な、隙が。


「第四魔術位階【ムーンレスモーメント】!」


 既に詠唱を終えて術式の構築も済んでいた支援魔術が発動した。

 しかし先に言及されたようにミアの髪の毛が輝くということはない。【ムーンレスモーメント】で体毛が輝く、という話がブラフだとしてもここで価値が生まれる虚言ではないはずだ。


 これ以上時間をかけるのは望ましくないため、言葉で魔術の名称を叫んだだけの悪あがきと見越して急ぎ刃を突き出した。


 が、ここで想定外の事態に襲われる。


「おりゃああああ!」

「!?」


 自分でもミアでもない掛け声と同時、腕の骨が折れるほどの衝撃を伴って“ファーストフレンズ”が弾かれ、ミアの近くにいたぬいぐるみも全てが急に潰された。


 何が起こったのか事態を把握する間もなく、次の衝撃がシャーロットの側頭部に叩き込まれる。


「み……んな……」


 もんどりうって地面に倒れた彼女の意識が途絶える寸前、敗因となる手品の種が明かされた。


「ミアちゃん支援ありがとうなの。でもこれ、姿消しててもミアちゃんの魔力は消せないから隠れる意味ないの」

「だろうと思って【パーマネントペタル】散らして誤魔化したんだ。結果的に通じたし良かった良かった」


 何もないはずの空間から姿を現したのは、透明化して隠れていたコリンだった。


 彼女は常にミアの隣りに立ちながら敵の不意を打つため機を見計らっていたのである。

 事前の話し合いではなく戦いの展開とミアの挙動でタイミングを判断し、シャーロットが最も油断する決着の間際に【ムーンレスモーメント】の支援を受けて飛び出したのだ。


 ミアの言葉で髪の色が変化するかしないかに意識を集中させたのも功を奏したらしく、第三者からの攻撃に対して無防備なところにコリンの拳が突き刺さった形となる。


「とりあえず終わったみてぇだし、ソイツとっとと連れてこうぜ」

「……だね」


 安堵から溜息を漏らすモンタギューに言われるがまま、ミアは残った【パーマネントペタル】の花弁同士を接続して疑似的な鎖を作りシャーロットを拘束した。

 残った死体の数々も放置すると野生動物の餌となるだろう。人の味を覚えさせないためにもそれらはそれらで回収しなければならない。


 死体に触れるということへの生理的嫌悪感から、他の生徒らは一様に嫌そうな顔を浮かべている。


「やれやれ運ぶのめんどくせぇな。こりゃ俺らが一番の外れ引いちまったかね」

「そうとも言えないの。他は普通に生きてる人間も参戦してるだろうから、そういう意味ではこっちが一番やりやすかった可能性もあるの」

「うへー、民間人相手にするのはきついわ。私だって今まで何だかんだ犯罪者しか相手にしてこなかったのに」

「その発言もどうかと思うの」


 他の戦場に思いを馳せながら気絶したシャーロットを背負う。

 同年代の割に軽い体は身体強化魔術が無ければただの華奢な少女だった。


「あんたら[デクレアラーズ]も色々世の中に思うところあるんだろうけど」


 聞こえていないのは承知の上で語りかける。


()()は、ダメだよ」


 他の生徒らに回収されていく男達の死体を眺めながら。

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