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足跡まみれの異世界で  作者: 馬込巣立@Vtuber
第十三章 特別強化合宿編

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第十四話 学徒戦線

 仮想現実での訓練を終えた騎士団学校の生徒らは、実戦訓練までの休憩時間に圭介とレオのダンジョン攻略配信を広場に設けられた大画面で見ていた。

 ダアトに用意されたパイプ椅子に各々腰かけ、映し出される二人と一羽の様子を注視しながらあれやこれやと仲間内で意見を交わす。


「ちょっとこのダンジョンの難易度おかしいよね? ケースケ君とレオさん大丈夫なのかな」

「普通地面までピッタリ索敵することって滅多に無いからな……。俺でもあの床の罠は引っかかるかもしれない」

「しかもワームとか光線のトラップとか索敵でどうにもならないもんな。ケースケ君がどっちもサクッと対処してるのは意味わかんないけど」

「回復要員いたとしても絶対潜りたくねーぜあんな危ない場所」


 画面の中では二人が曲がり角で冷凍ガスを浴びせられたところにワームの群れが壁を突き破って襲いかかっていた。

 圭介は努めて冷静にガスを【サイコキネシス】による皿のような薄い膜で払いながら、ワームもまとめて巻き込み吹き飛ばす。彼の弱点を絶妙に突くトラップに無傷とはいかなかったようで、冷えた体を震わせつつレオとともにその場を走って離脱する。


 吹き飛ばされたワームが数匹ほど冷気と衝撃から復活して再度飛びかかったところで【パイロキネシス】による炎を浴びせ、二人の少年は前へと進みつつもついでに周辺の温度を上昇させる形で暖を取った。


「道が入り組んでるみたいであとどのくらいかかるかわかんないけど、時間的にギリギリぽくない?」


 数々の生徒らが思い思いに考えを述べる中、ミアがダンジョン配信の様子を見ながら不安げな表情を浮かべて攻略の進捗に言及する。


 確かに圭介もレオも客人であり、尚且つ国防勲章の受勲者として今や有名人ではある。

 しかしそれもあくまで同年代の中では秀でているという話でしかなく、高難易度のダンジョン攻略を二人だけでこなすのは難しい。加えてその様子を実質的な晒し者にされているのは仲間として、何よりレオの恋人として耐え難かった。


「ロード退治のできるできないよりそっちだよねぇ。私だったら多分無理かな」


 友人の不安を受けたユーが謙遜や自己否定ではなく客観的事実として率直な意見を述べる。

 入り組んだ道を進みながら索敵範囲外から飛び出す罠とモンスターに対処し続けなければならない。常にマルチタスクを求められるこの状況で速度まで求められるのは、回復魔術による後ろ盾があろうと厳しいものがあった。


 それでも圭介が最低限間に合う可能性を残して移動できている理由は、選択肢の多さに起因している。


 多様な自然現象を変幻自在に操れる圭介は、逆に言えば多様な自然現象に適応する手段を有していると言えた。

 今も画面の中で電気を帯びた無数の鉄球が宙に浮かんでいる場所で、【テレキネシス】により不純物を取り除き純水となった水を【ハイドロキネシス】でレオ共々全身に纏い簡易的な絶縁体の防護服としながら進んでいる。


『ていうか圭介君もよくこんなん思いつくっすよね。まさか水で電気防げるなんて知らなかったっすよ俺。絶対感電死すると思ってたのに』

『僕ら日本人は少年漫画とかラノベとかアニメとかで自然科学を学ぶからこういうの得意なんだ』

『俗に言うオタクと呼ばれる人種ですね』

『ああ、オタク。なんか納得したっす』

『そのオタクの知識でここまで進んできてるんだぞ君らは。オタクに感謝しろ。いややっぱ僕個人に感謝しろ』


 鉄球のエリアを突破した二人と一羽は既に迷宮を半分以上走破していた。慣れてきたのか進行速度も上がってきているように見えるが、ロード退治が控えている以上まだ油断はできない。


「つってもまあ、できると見越してやらせてんだろうさ。あたしらだってさっきまで仮想現実でけったいな訓練させられてただろ」


 状況を見た上で背もたれに肘をかけながらエリカが呑気そうに言う。それを受けて仲間二人は思わず苦笑した。


 一見して無茶な訓練内容かと思いきや適性に合わせてカリキュラムが組まれているのは理解できている。きっとこの場にいる学生全員がそういった壁を乗り越えた上でここにいるのだろうとも認識していた。


 それでも客観的に見て「自分では難しい」と思ってしまえば心配せずにいられないのが人情である。

 特に今回は訓練内容そのもの以上に制限時間という不安要素があるため、実力を知っているだけではまだ判断できない。


「何なら私らがこうして見てるうちにクリアしちゃってもらえると気持ち的にも助かるんだけどねぇ」

「通信繋がってりゃこっちから発破かけてやれたんだがもったいねえ。つっても多分そろそろあたしらも……っと、来たみたいだ」


 ミアの冗談にエリカが笑いながら返したところでカレンが画面前まで歩いてきた。

 ついに自分達の実技訓練か、とクラス一同身構えたところで映像が途切れる。どうやら【エレクトロキネシス】による遠隔操作で機械を操ったらしい。


「お疲れ様。悪いんだけど午後の予定は大幅に変更することになったわ」

「えっ? 変更?」


 真っ先に疑問を口にしたのはユーだった。

 声色には困惑よりも強い警戒が滲む。遠方訪問で少しの間でもカレン・アヴァロンという人物と触れ合っていた時期がある彼女だからこそ、その発言に含まれた不穏な意図を察知できたのかもしれない。


 彼女の意外そうな声を皮切りに他の生徒らもざわめくが、カレンはそれに対し両手をパンパンと叩いて制した。


「時間がないからハッキリ伝えるわね。現在ダアトに向けてそれぞれ南、北北西、北東の三方向から武装勢力が進攻してきてる。十中八九[デクレアラーズ]の戦闘員と見て間違いないわ」


 その言葉を受けて一度は収まったどよめきが先ほどよりも大きくなる。


 一般的に[デクレアラーズ]は私刑による拉致監禁や拷問、相手によっては殺戮も厭わない組織として最近知られてきている。しかしその対象は常に犯罪者だったはずなのだ。


 この場にいるのは素行不良の傾向もない騎士団学校の一般的な生徒でしかなく、攻め込まれようとしているのは“大陸洗浄”を平和的解決へと導いたカレンが統治するダアトである。

 それが三つの部隊に戦力を分けてまで計画的に攻撃されるという現実は彼らにとって受け入れ難いものだった。


 そんな当然の疑問に答えるが如くカレンは一枚の紙を宙に浮かせる。


「さっき世紀の大怪盗を名乗る変態からこんな手紙が来たわ」

「え、じゃあアイツじゃん」


 目を丸くして驚くミアの声を無視して話は続いた。


「内容をまとめると私が圭介にくれてやった魔道具アズマを盗み取るついでに、あんたら騎士団学校のガキんちょどもがどれだけ訓練で強くなったかの威力偵察もしようって魂胆らしいわね」


 騎士団学校に対する威力偵察。それが意味するところとは。


「っつーわけで。あんたらに新しい訓練のメニューを提示するわ」


 既に何人かの生徒が引きつった笑みを浮かべているがカレンは容赦しない。


「この場にいる戦力とダアトの戦闘員数名を三つの勢力に分けて[デクレアラーズ]三部隊を各個撃破しなさい。もちろんお客様に無茶させるわけにはいかないから保険はかけさせてもらうけどね」


 そう言ってカレンが指を鳴らすと同時、入場の際に生徒らが手首に巻きつけていた来客用ブレスレットからふわりと光が漏れる。

 魔力を含むその輝きは生徒一人一人の体を優しく包み込み、乳白色に輝く膜として全身に貼りついた。


「それは【サイコキネシス】を【テレキネシス】で粒子状にしてあんたらの全身に纏わせたものよ。ブレスレットに術式仕込んでおいたから今それが発動してない奴は急いで部屋まで取りに行くように」


 白い輝きに包まれながら受勲者の少女三人も含めて学生全員がカレンの思惑を察する。

 これは、防御用の術式であると。


「強めの攻撃受けても四回くらいまでなら耐えられるはずだから、それが完全にかき消されたら大人しく戻ってくること。最悪こっちの戦闘員だけで対処もできなくはないけどそうなるとあんたら暇でしょ。少しは仮想現実訓練の成果を試してきなさい」


 この状況下で「訓練の成果を試せ」とカレンは言う。

 学校側から生徒を預かる身としてかなり型破りな判断に見えたが、念動力による守護があるのなら最低限の安全性は確保している。戦う力を得るためにここまで来た立場で実戦経験を積む機会に誰も文句を口にしなかった。


 何よりも。


 言われて彼ら彼女らは思い出す。

 仮想現実で行われた、過酷な訓練を。それによって得た新たな力を。


 非常事態で忘れかけていたがそもそもここにいる全員がここに来たばかりの頃より強くなっているのだ。

 増してや圭介ら同じクラスの学生数名がこれと同等かそれ以上の戦場を生きて帰ってきている。となれば自分達にも決して対処できない修羅場ではないのだと、受勲者パーティの存在がある種のカンフル剤として働いてもいた。


「それと勲章持ってるそこの三人娘。あんたらはそれぞれ別々に行動すること」

「あ、マジで?」

「当然でしょ。一度は[十三絵札]とも戦って生き延びてるんだから他の生徒と同じ扱いってわけにもいかないわ」


 エリカに応じると同時、画面にまたも変化が生じた。


 映し出されたのは三人の顔写真。

 少女、老人、青年。その顔ぶれを見て数人ほど事情に通じている生徒が小さな悲鳴を上げる。


「これは三つの部隊をそれぞれ率いている[デクレアラーズ]の構成員よ。詳しい奴はこの時点でわかったみたいだけど、全員かつて“大陸洗浄”で名を馳せた強力な客人だから決して私の保険にかまけて油断しないように」

「へぇ。その三人ってそんな有名人なんですか」


 修羅場を越えた者の余裕もあってか、ミアがカレンに問う。それを受けてカレンも視線を画面に向けてそれぞれの名を口にする。


「“赤い旅路(レッドカーペット)”、“這いずる戦鬼”、“弔歌”。このへんの二つ名に聞き覚えは?」

「………………あの、マジで私ら学生が相手して大丈夫なんですかね、そいつら」


 並ぶ二つ名を耳にしたところで初めてミアの頬を冷や汗が伝う。


 顔こそ知らなかったものの、いずれも“大陸洗浄”に関する話題で聞いた覚えのある名称だ。

 使う魔術の系統についても知られているためある意味では戦いやすい相手と言えなくもないが、それは同時に手札が公開された状態でこれまで勝ち残ってきたという意味でもある。カレンの言う通り決して油断はできない。


「ミアは北北西。エリカは南。ユーフェミアは北東にそれぞれ配置。他の生徒はなるべく戦力が偏らないよう三人のところに集まりなさい。戦力の編成も含めて騎士団を目指す者としての訓練とするわ」


 咄嗟の部隊編成は確かに今後必要となってくる要素ではある。なのでカレンの意見は間違っていないのだが、状況の不穏さは学校の敷地内でああだこうだと言い合う時と異なる緊張感があった。


 話し合いは五分で決めるよう言い含め、カレンが大画面から離れて広場の隅へ移動する。

 生徒から見えない角度で待機していた部下の一人が、苦虫を噛み潰したような顔でカレンに会釈した。


「お疲れ」

「お疲れ、じゃないですよ。騎士団学校の生徒にこんな危険な仕事を……」

「だから保険かけたっつってんでしょうが。それに[デクレアラーズ]の目的は威力偵察とアズマの奪取なんだから、逃げる学生の背中を撃つような真似はそうそうしないわよ」

「だと良いんですがね」

「それよりも」


 カレンの声が突如低くなる。

 部下は表面的な態度こそ変えなかったものの、相応に怯んだためか常より少し長く鼻息を吸い込んだ。


「圭介の件、きっちり手続きしておいてくれたでしょうね」

「……一応は。でも本当にカレンさんの読みが当たるとは限りませんよ」

「当たるわよ。私はこの世でただ一人、あのクソピエロがどう出るかを少しでも予測できる立場にいるんだから」


 普段からカレンと接しているその部下には。

 いつも通りの退屈そうな無表情が、いつも以上に冷たく見えた。


「ここで先手を打っておく。第二次“大陸洗浄”をこれ以上、アイツの一方的有利に運ばないために」

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