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足跡まみれの異世界で  作者: 馬込巣立@Vtuber
第二章 変態飛行の藍色船舶編

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第三話 インタビュー

 圭介がユーに連れて来られた場所は以前モンタギューもオカルト研究部の活動の為に立ち寄った部室棟。

 コンクリート仕立ての五階建ては本校舎と隣接しており、圭介ら一年生の教室がある三階と渡り廊下で繋がっている。


 新聞部の部室が存在するのは一階。二人は階段を下りて目的の部室の前までやって来た。


 聞いた話によると新聞部は他の部活動と異なり、試験前だろうが卒業前だろうが学校に在籍している限りは長期休暇以外の休みを許されていないとのことである。

 他の部室から人の気配が一切漂っていないにも拘らず中から物音がするのはそういう理屈らしかった。


「ここの新聞は文字の勉強も兼ねて読んでるけど、僕が住んでた世界の学級新聞と概ね同じようなもんだったね。学校の行事についてだとか何かの注意書きとか」

「やっぱりそんなに大きく変わらないよね」

「まあ流石にオススメのクエスト紹介コーナーとかはなかったけども」


 アーヴィング騎士団学校の新聞部は毎週発行される学級新聞の他にも、新入生向けの学校案内や騎士団に入団できなかった、あるいはしなかった卒業生向けの就職活動支援冊子などを作成しているようである。

 詳細は定かではないが、この業務の多さと休みの少なさから部員募集には余念がないらしい。少しでも人手が欲しいのだろうと推察できた。


 圭介が今住んでいる部屋にも新聞部への勧誘と見られるプリントが郵便受けに入れられていたりもしたものだ。

 プリント上には「アットホームな部活です」「週末はみんなでボウリングに行ってストレス解消!」などというアガルタ文字の文面がいくつか踊っていて、絶対に入部したくないと心から思った。


「じゃあ早速入ろうか。ごめんくださーい」


 ユーがノックすると、ドアの向こう側からとてたてと小さな足音が響く。


「ああ、いらっしゃいなの」


 独特な語尾と共に現れたのはエリカと同等かそれ以上に背の低い女生徒。


「白蛇が少女に化ければこうなるであろう」と見る者に思わせる真っ白な長髪と切れ長な黄金色の瞳、陶磁器にも似た肌の細やかさも相まってその愛くるしさは筆舌に尽くし難い。

 中性的で端整ながらもあどけない印象を捨てていない童顔は、感情の機微を教わる前の赤子のように無表情だった。


 とはいえ、日頃から西洋人形のような外見のくせに男子小学生のような思考回路を持つ第一印象の怪物と接している圭介である。美少女だからと油断はせず、相手がどう出るか待ちの態勢に入った。


「そちらが例の客人さんなの? 初めまして、新聞部部員であると同時にユー達のルームメイトでもあるコリン・ダウダルという者なの。よろしくなの、トーゴー・ケースケ君」

「あ、どーも。こちらこそよろしくね、コリンさん」


 気軽に差し出された手を受け取り、握手する。

 雪のように白い手は印象による共感覚か、ひやりとした冷たさを伴った。


「今日はケースケ君に簡単な取材をさせてもらいたいの。三十分くらいお時間もらいたいんだけど、大丈夫なの?」

「そのくらいなら全然問題ないよ。あ、でもスリーサイズは事務所通してもらわないと無理だかんね」

「興味も需要もないの」


 不思議と手から伝わる冷たさが増したように感じた。

 これもまた共感覚である。


「とりあえずまずは一旦紅茶でも飲んで落ち着くの。そこらへんにテキトーに座るの」


 言いつつコリンは部室の出入り口とは対角線上にある棚から茶葉を取り出し、ティーカップやお茶菓子の準備を進めていく。


「他の部員はいないみたいだね」

「結構取材とか買い出しとかで外に出てる事が多いって聞くよ。ここにたくさんの人が集まるのは大きなイベント直前とかになるんじゃないかな」


 彼女が紅茶を淹れる間に見回してみると、随分と雑多な空間である事がわかった。


 壁中に何らかのポジティブな内容の記事を切り抜いたものが貼り付けられ、乱雑に設置された複数のテーブルの上にはパソコンやメモ帳が置かれている。ホワイトボードには各部員ごとの担当区分が書かれていた。


 圭介とユーがそこいらにある椅子に適当に座ると、コリンが人数分のティーカップを載せた盆を持って歩いてきた。

 機械類や紙類が多い空間だからか、飲み物を零さないようにする意図を含めてカップの容量に見合わずその中身は少なめである。


「二、三分したらインタビューを始めるの。録音もメモもするけどその内容を外部に流出させるような事態には絶対にしないと約束するから、気軽に答えてくれればそれでいいの」

「うん、わかった。よろしくね」


 温かい紅茶で喉の渇きを癒し、三人は程よくリラックスした状態になっていった。


「もぐむぐ、このお菓子美味しいねえ」

「ユー、自重!」

「別に全部食べてもらっても構わないけど速度は考えるの!」


 そしてお茶菓子は紅茶より早くにその姿を喪失した。



   *     *     *     *     *     *  



「じゃあ知ってる情報ではあるけれど、形式としてお名前と簡単なプロフィールからまとめていくの。自己紹介どうぞ」

「東郷圭介、十五歳男性。現在の所持品は――」

「いや別に言わなくていいの。まさか所持品をアピールしてくるとは想定してなかったの。そうじゃなくて、好きな食べ物とかでいいの」

「法的に許されてるものなら何でも食べられます!」

「んなもん当たり前なの。えっとじゃあ、こっちの世界での生活はそろそろ慣れ始めたの?」

「はい! エリカ達パーティメンバーには優しく接してもらえてますし、食堂のおばちゃんにはたまに肉一切れおまけしてもらえますし、校長先生やヴィンス先生にも……ヴィンス先生…………」

「ああっ、そんな落ち込まないで欲しいの! というかほぼ自滅してるの、せっかく自分で埋めた地雷を自分で踏み抜いてるの!」

「そもそもアレ、初っ端から女子更衣室に転移した事で着替えてる女子生徒の皆様には大変不愉快な思いをさせてしまって誠に申し訳ないと……」

「地雷踏んだついでに手榴弾の安全ピン引っこ抜くのは感心しないの」


 色々と不安定ながらもインタビューは続き、


「やっぱりカリナン川の上流、大体マゲラン通りからちょっと外れた郊外付近で見えてくる廃工場が絶好の秘密基地ポイントだよね。ここは実はエリカも知らない穴場で、以前働いていた人が置いて行ったらしい週刊少年誌が山積みになってるんだよ」

「何その触れづらい情報」

「あの状態の悪さから見てそれなりに古い雑誌なんだと思うんだけど、もしかしたら諸事情あって単行本に収録できなかったエピソードとかも掲載されてたりしたらプレミア価値がつくはずなんだよ。僕はいつかこれらを好事家に売っ払ってまとまった金を稼ぐつもりでいるんだ」

「もう使われてない建物に不法侵入した話とか雑誌の転売に関するあれこれは流石に掲載できないの」

「じゃあ最近校長室のケサランパサランをお菓子で懐柔して部屋に持ち帰ろうとした結果、何故か校長先生にバレて大目玉喰らった話とかする?」

「貴方は一体何をしてるの……」

「『そんなにペットが欲しければうちの姪っ子をあげますよ』とまで言われたからね、僕だけじゃなくエリカまでついでに攻撃受けてたからね」

「気持ちはわかるけどあの子達は校長先生ンとこの子達なの。大体お菓子で懐柔とか言ってるけど、ケサランパサランに糖分は厳禁なの。弾けて死ぬの」

「マジで!? 危なかったんだなあ当時の僕。そりゃあんなに怒られるわけだ」

「あの子達の主食は白粉おしろいなの」

「変なトコ僕らの世界と共通してんな!」


 気付けば三十分という時間は存外短く、


「こないだバイトの帰り道を歩いてたら頭の上から植木鉢が落下してきてね。咄嗟に【テレキネシス】で止めて事なきを得て、危ないなあって落ちてきた方を見上げたら優しそうで美人なお姉さんが『ごめんなさいね』って申し訳なさそうに謝ってきてくれたんだよ」

「いや、個人的に嬉しかった話されても困るの。男性読者に『自慢か』って言われるの」

「その時に僕は『いえいえ、でも気を付けて下さいね』って微笑みかけてそのまま帰ったんだけど、翌日その話をしたバイト先の人から聞いたらその人が上の階からこっちを見ていた家って随分前から空き家になってたらしいんだよね。前住んでた女の人が、婚約者だった客人に浮気された挙句捨てられた事を苦に自殺しちゃってからは他の人も不気味がって買い手がつかないんだってさ」

「えっ、それって……」

「で、その話を聞いた帰りにいつもの癖でまたその道に来ちゃったんだけど。『いやいやまさか』と思って普通に道を通り過ぎようとするとね、また植木鉢が落ちてくるんだよ。ぴったり僕の頭を狙って」

「ひぃぃ」

「僕も落ちてきたものは【テレキネシス】で止めたからいいんだけど、やっぱ怖くて上を見る気が起きないんだ。そうしたらね、上から一日前に聞いた時と違って物凄く低い声で『ご め ん な さ い ね』って悔しそうに言うんだよ……」

「うひゃあ、ダメなの! ホラーは禁止なの!」

「んでね、こっからが個人的に一番怖いんだけど。受け止めた植木鉢にはマリーゴールドが花を咲かせてたんだよ。怖くてそれはその建物の前に置いて来ちゃったんだけど、後で調べたらマリーゴールドの花言葉って嫉妬、絶望、そして悲しみなんだって。……何だか自殺した女の人の境遇と繋がるんだよねえ」

「どうしてくれるの! もう今夜一人でトイレ行けないの!」

「エリカなら喜んで一緒に行ってくれるよ」

「あの馬鹿は絶対ふざけて脅かしてくるの! ユーにお願いするの!」

「こっちに流れ弾が!」


 ほとんど雑談のような会話を重ねていく内に、インタビューは終了した。



   *     *     *     *     *     *  



「ぶっちゃけ想定していた成果と別ベクトルの記事が仕上がりそうなの……」

「秘密基地スポットに心霊スポット、あとたばこやの宣伝。完璧じゃないか」

「未成年だらけの学校でたばこやの宣伝したってしょうがないの」


 何であれインタビューは終了。少し余った時間を有効活用すべく、圭介はコリンから許可を得て過去の学級新聞を読み漁っていた。


 今のところ圭介と同じくこの学校で生徒として保護された客人の記録は存在しない。

 嘗てミアが「客人と話すのは初めて」という旨の発言をしていたことから、元々客人の存在自体がこの近辺では珍しいものなのかもしれなかった。


 同時に、ピンポイントで五十年程前の新聞にも目を通す。

 以前エリカから聞いた「五十年ちょっと前から客人の転移の発生頻度が上がった」という話。そのきっかけに当たる事象が何か起こっていないか、藁にもすがる思いで探った。


 が、収穫なし。


 学級新聞はあくまでも学級新聞。校内での情報を広めるためのツールでしかなかったのだ。


「……ん、そろそろ時間かな」


 時計を見ると時刻は十八時近く。[ハチドリの宝物]での仕事は十九時からなので、今から出れば丁度いいタイミングで店に入れる。


「じゃあ僕これからアルバイトだから。またね二人とも」

「うん、またねケースケ君」

「また来るの、ケースケ君」


 少女二人に見送られつつ居酒屋に向かう。

 しばらく歩いて外に出る頃には、ある一つの懸念事項が胸の中に蘇った。


(…………三日後のお姫様、どう対応したもんかなあ)


 圭介本人にとっては不本意極まる話だが、客観視すれば転移してから間もない段階でヴィンスをほぼ無傷のまま倒した圭介の存在は確かに国にとって脅威である。

 加えて念動力という稀有な才能は軍事関係以外にも応用可能であり、医療、建築、生産、輸送とあらゆる活用手段が考えられる。


 考えれば考えるほど、圭介の力はどこかおかしいくらいに優秀に思えた。


(『この大陸は窮屈を必要としている』、か。大陸の外から来た僕もですよ先生。あんまりにも自由なこの力を上手く扱えなかったから貴方は大怪我を負い、僕は偉い人達に目を付けられた)


 年寄りの言う事は馬鹿にならない。その事実を彼は身を以て思い知らされていた。

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